第3話 ここダンジョンだよ?

 

 矢沢さんがパーティーメンバーに謝った後、さらにダンジョンの中を進んでいき、55階層まで来たところでその日の行進はストップする事になった。


 ダンジョン内で600人近い人数が一か所で集まって、野営を行うのは狭くて出来ないんじゃないかと上の階層にいた頃は思っていたけど、50階層を超えてから通路が少しずつ大きくなっていた。

 さらには通路を抜けた先にある部屋の大きさが、〔ラミアのダンジョン〕でラミアクイーンと戦った時のような大部屋が当たり前になっていき、学校の体育館ほどの広さの場所まであるほどだった。


 そして今現在600人が野営をしても問題ない広さの部屋があるところに来たためか、進行を止め野営をすることになった。


 ところでダンジョン内でも野営でいいんだろうか?

 石造りの壁に囲まれてるから屋外って気分にはならない。


 まあそんなどうでもいい事はともかく、今は野営の準備だ。


 〔マジックポーチ〕に収納してあるテントを1つ設置する。


 ………。


「やっぱりテント1つだけって問題じゃない?」

「何がでしょう?」

「分かってて言ってるよね? 男女が同じテントって色々ヤバくない?」

「わたしは先輩が望むなら……」

「既成事実を作ろうとするのは勘弁して」


 乃亜は全く気にしていない。

 むしろウエルカム状態である。


「冬乃は嫌じゃないの?」

「別に手を出されると思ってないわよ。そもそもそんな気があったら、とっくに乃亜さんに手を出してるでしょ?」

「いや手を出す云々以前に、男と同じ空間で寝るのはいいの?」

「……蒼汰だし……いいわよ」


 顔を少し赤くして言わないで。

 こっちも少し気恥ずかしくなるよ。


「咲夜は蒼汰君と一緒に寝るのは全然いい、よ?」

「少しは躊躇してくれないかな~」

「蒼汰君は嬉しくないの?」

「……嫌ではないです」


 そりゃ僕も男だし。

 結婚願望はなくても、可愛い女の子達と一緒に寝るのはそりゃ嬉しいですよ?

 ……そんな状況で寝られるかどうかはともかく。


「そ、そんな事よりも蒼汰。早くご飯にしましょ」


 冬乃がその話題から逃げたくなったのか、夕飯の催促をしてきた。

 まあテントは1つだけしかないのは今更だし、しょうがない。

 周囲にいる男子が今の会話を聞いて恨めし気に見てくるけど、そっちももはやいつもの事なので気にしない。


 もしも乃亜のお兄さんである穂玖斗さんに今の会話を聞かれたら、宗司さんと同じように絡んで来ただろうけど、幸いにも別のグループで近くにいないのでセーフ。


 それはともかくご飯の準備だ。

 僕はスキルのスマホを呼び出して、[フレンドガチャ]で出たアイテムの一覧から、フライパン、ガスコンロ、包丁、まな板といった調理器具を取り出す。

 その他、野菜や肉など様々な食材を取り出し、調理開始。


「……何してるの?」

「あ、矢沢さん。見ての通り料理です」

「ここダンジョンだよ?」

「そうですね。でも時間や状況に余裕があるなら、ちゃんとしたの食べた方がいいと思いません?」

「いや、そりゃそうだけどさ」


 迷宮氾濫デスパレードの時はあんまり余裕がなかったからやらなかったけど、今はむしろ暇なくらいだし。

 〔マジックポーチ〕の容量はまだ余裕があるから、取り出した道具は回収出来るし、最悪放置しておけば勝手にダンジョンが吸収するから問題ない。


「それよりも矢沢さんは何をしてるんですか?」

「自分は見回りだね。慣れない野営に戸惑ってる子達がいたら手伝ってあげるんだよ。……逆に君の行動に戸惑わされたけど」


 そんな事言われてもな。

 日に日に[フレンドガチャ]で出たアイテムが溜まる一方で、正直使い道がないからこういう時くらい有効利用しないと。

 まな板とか9枚くらいあるんだけど、こんなにあって何に使えと?


「まあいいや。何か困ったことがあったら呼んでね。手が空いてたら手伝うからさ」

「ありがとうございます」


 矢沢さんはそのまま去って行き、他のパーティーに声をかけにいった。


「確かに矢沢さんの言う通り、普通はこんなところで料理なんてしませんよね」

「[フレンドガチャ]で出たアイテムは取り出さない限り、いくらでも保管しておけるけど、使わないのはなんとなくもったいないと思うんだよ」

「蒼汰が自分のスキルで何しようが構わないのだけど、そんな事よりもここ大丈夫なのかしら? 突然ミミックが出て来たりしないの?」


 冬乃の言う通り、いくらこの部屋(もはや体育館以上の広さを部屋と言っていいのか?)のミミックは全て倒したとはいえ、再出現は間違いなくするだろう。


「さっきの矢沢さん、その為の見回りでもあるんじゃないかな? それに夜は交代で見張りもするんだし問題ないんじゃない?」

「休息できる今も見回りしないといけないなんて、生徒会の人達は大変そうだ、ね」

「さすがに生徒会だけでそんな事出来ないでしょうから、他にも手伝ってる生徒はいると思いますよ」


 乃亜の言う通りだろうけど、それでもダンジョン遠征している時に他の事まで気を回すのは疲れそうだ。


 僕らは出来る限りちゃんと身体を休めるために、ご飯を食べた後は、身体を濡れタオルで拭いてすぐに寝る事にした。


 ……やっぱりテントは2つ必要だったな。中々寝付けそうにないよ……。

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