第2話 レベル200

 

 矢沢さん達から冒険者学校の事を聞きながら、ダンジョンの下層へと潜っていく。


 今のところ危険性がない、というか魔物と全く戦っていないのでこれでいいのかと思わなくもないけど、矢沢さん達曰くこんなのは今だけらしいので、その忠告に従って体力は温存しておこう。


 ――ガシャ


 体力を温存しておこうと思った矢先に現れた野生のミミック。

 いや、ミミックは全て野生だし捕まえる事は出来ないんだけど。和やかな雰囲気だったせいか気が緩んでなんとなくゲーム感覚になっていたな。


 現れたミミックは甲冑型のようで、動くたびに西洋鎧が音を立てる為接近にすぐに気が付くことが出来た。


「あっ、あらわ――」

「うおーー! 殺せーー!」

「経験値経験値経験値!!」

「俺の剣の錆にしてくれるわっ!」

「ようやく来た獲物だ! 逃がしゃしねえぞ!!」


 僕が声を上げる間に、周囲にいた他の生徒達が我先にとミミックへと群がっていく。

 1体に対して大人数でのフルボッコ。

 ミミックが哀れすぎるよ……。


「はぁ。あれだけ説明してあげたのに、若い子って辛抱が足りないのねぇん」


 和泉さんが呆れた表情でミミックに群がっている生徒達を見てるけど、あなたと年齢は1,2歳しか変わらないでしょ。


「去年の会長もあんな感じだった」

「レベルを上げても1人だけスキルスロットが全然増えないせいか~、物凄く焦ってたもんね~」

「うっ、しょうがないじゃないか。まさかデメリットスキルのせいか、レベルが100を超えてもスキルスロットが増えなかったんだもん」

「「えっ!?」」


 今、聞き捨てならないこと言わなかった!?


「レベルが100を超えてもスキルスロットが増えなかったって、どういう事ですか?!」

「一番最長でレベル100って聞いてたのに、増えない事なんてあるんですか!?」

「おっ、落ち着いて2人とも……」


 あまりの衝撃発言に乃亜と一緒に矢沢さんに詰め寄ってしまった。

 だけど冷静でいろ、なんて言われても絶対に無理。

 昨日まで、レベル100超えて新しいスキルが取れる様になったら何を取ろうかな、なんて頭の片隅で思っていただけに、その事実はあまりにもショックが大きいよ。


「うふふ、あの頃を思い出すわねぇん」

「会長も「レベル100超えたのにスキルスロットが増えない!」って嘆いてたもんね~」

「そのせいで毎日私達に鞭を打って魔物を狩らせる日々。その所業、まさに鬼」

「お願い、止めてみんな……」


 恥ずかしそうに顔を赤くして両手で顔を押さえているけど、僕らにはそれどころではない。


「スキルスロットが増えないとか凄く困るんですけど!」

「今のスキルで戦えない訳ではないですけど、手数が増やせないのは正直痛いです」


 乃亜のテンションが若干落ち着いてきたようだけど、僕は未だにヒートアップ。

 だって僕は今のスキルじゃ戦えないんだけど!?


「あ、大丈夫。スキルスロットはちゃんと増えるから」

「良かったです。わたし達だけずっと増えない訳じゃないならホッとしました」


 その言葉に僕もホッとして一安心、したかと思ったら次の矢沢さんの言葉で僕らは一瞬で凍りついた。


「レベル200でようやく増えたね」

「「嘘……」」


 途方もないレベルに頭がクラッと来た。

 今のレベルが88なのに、200まで上げるのに一体どれだけの時間と労力が必要になるのか想像して、思わず膝をつきそうになった。


「まさかスキルスロットを増やすのに、通常の上限の倍もレベルが必要だなんて……」

「分かるよ、その絶望感。自分はいつ増えるかも分からず、無駄に増えていく派生スキルを見ながら「もう新しいスキルとか諦めようかな……」って思ってたくらいだから」


 矢沢さんの話を聞いて、少しだけ持ち直した。

 なんせ矢沢さんは指標がない中で、レベルを上げ続けてスキルスロットを増やす事が出来たんだから、それに比べれば目標が見えてる分、僕らの方がマシだと言える。


「それじゃあ矢沢さんはスキルスロットが増えたんですよね。何のスキルを増やしたか聞いても大丈夫ですか?」


 スキルとかの詮索は冒険者にとってマナー違反だけど、こういう聞き方なら問題ない。

 話したくないのに無理強いするとアウトだから、聞かれた人が拒否しやすいように尋ねるくらいならオッケー。


 矢沢さんの持ってるスキルは[アイドル・女装]で支援系だし、自衛するためのスキルでも取ったのかな?

 そう思いながら聞いたら、予想外の言葉が返ってきた。


「何のスキルも取ってないよ」

「えっ? パーティーメンバーに鞭打つくらいに頑張ってレベルを上げたのにですか?」

「それは言わないで……」


 マジか、って目で見てたら視線を逸らされた。居たたまれなくなったようだ。


「恵のレベルが200まで上がる間に次々と派生スキルが増えちゃって、その中に自衛用のスキルが増えたから、無理にスキルを増やす必要が無くなっちゃったのよねん」

「ダンジョンの探索に必要なスキルは、私達が既に持ってる」

「魔物を倒すための攻撃系のスキルは~、[アイドル・女装]を使ってる時は使えないから取る意味がないし~、そもそも私達が会長に支援してもらって魔物を倒す方がいいから意味ないんだよ~」


 他のパーティーメンバーが追い打ちをかける様に、次々と不要な理由を述べていく。

 確かにそりゃ要らないよね。


 チラリと矢沢さんを見ると、顔を上げられなくなったのか地面を見てプルプルと震えていた。


「……結果として、何のスキルも取ってません」

「「「頑張ったんだけど(ねん)(ね~)」」」

「あの時は本当に申し訳ありませんでした……!」


 スキルを求める気持ちが分かるだけに、これはしょうがないと思う。

 ただ、巻き込まれた周囲は大変だったろうし、結局取りたいスキルがないなら意味はなかったね。


 僕もスキルスロットを増やしたいって思う前に、何のスキルを取りたいかを先に考えといた方がいいのかな?

 少なくとも自衛出来るスキルが欲しいと漠然に思ってるだけだし。

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