エピローグ1


≪蒼汰母:筒野瀬つつのせ乙葉おとはSIDE≫


「〝風〟の壁が消えたわね」

「お~やりますね。さすがは係長の息子で金の勇者様」

「あなた、ふざけて言ってるでしょ」

「えへへ、すいません~」


 どこか緩い部下に内心ため息をつきながら、私は遠くで蒼汰達のそばで横たわっている【白虎】を見る。


 何をしたのかは分からないけど、見る限り【白虎】が倒れているのに消えずにまだそこにいるから、眠らせるか何かしたのかしら?


 でもおかしいわね。

 なんでまだ【白虎】が顕在しているのにあの子のそばにの?

 あれが【典正装備】なら、【白虎】が完全に消えてから出て来るものじゃないのかしら?


 そんな疑問は次の瞬間頭の片隅に追いやられた。


『フヒッ』


 ただの変な笑い声。

 ただしその一言で全身の毛が逆立つほどのナニかがそこにあると感じてしまった。


『フヒヒヒヒッ。お、お前達が倒したのは【四天王】という役割を与えられただけのモブ。所詮は【四天王】の中でも数合わせの2人よ』


 【白虎】の倒れている場所の上空に突如として現れた中学生くらいの少女。

 言っていることはふざけているとしか思えないけど、【白虎】や【青龍】よりも感じ取れる威圧感が凄まじい。


 まさかあれ、あんなにも苦戦した【白虎】よりも強いとか冗談でしょ?!

 もうほとんどの冒険者や魔術師がやられたという最悪なタイミングで出て来るだなんて……!


「な、なんですかこれ。あんな所にいるのに声がこっちにまでハッキリと聞こえてきますよ」

「落ち着きなさい。これがどうしてかなんて今はどうでもいい事よ」


 そんな事よりも、最優先で矢沢恵だけは守らなければ大勢死んだままになってしまう。

 それだけは阻止しないと。


『わ、わたしは“嫉妬”の魔女サラ。今お前達が倒した【四天王】達とは違い、この世界の人類に恨みと妬みを持つ【四天王】。

 わたしは2人の【四天王】と違って甘くはないから、か、覚悟することね』


 ここにきてさらに【四天王】がもう1人加勢するなんて……!


 そう思い身構えるけど、たどたどしい喋り方をする少女、サラはそう言いながらも攻撃らしき動作をしない。

 一体何を……?


『フヒッ。なんちゃって。今焦った? 焦った?

 わ、わたしの言葉で右往左往される人間達……。な、なんて気持ちいいの……!』


 自分を抱きしめるように両手を交差させて身悶えるサラは、口を半開きにしてよだれを垂らしそうなほど陶酔していた。

 な、なんなのかしらあの子……。


 困惑しつつも警戒していると、サラはスーッと地面へと降りていき、倒れている【白虎】へと近づいて行った。


『フヒッ。う、恨み辛みが晴れたとはいえ、最後までわたし達に協力してもらうから』


 サラは【白虎】に手をかざすと、【白虎】を浮かび上がらせて共にどこかに飛んでいってしまった。


「……ふぃ~。少なくとも危険は去ったってことでいいですよね?」

「そうね。とはいえ、【白虎】を倒すチャンスを逃したのは痛かったわ」


 正直また【白虎】と戦うのは骨が折れるどころじゃないわ。

 次もあそこまで追い詰めることが出来るかなんて分からないもの。


「それは後々考えるとしましょうよ。【青龍】の方は倒したってことでいいんですかね?」

「そっちはあの子達に聞かないと分からないわね。あの子達と共に【青龍】が消えた後、あの子達だけが戻ってきたんだから十中八九それでいいと思うけど」


 【白虎】との戦闘の余波でダンジョンから出てきていた魔物達も軒並み倒されているし、一応この騒動は終息したと言っていいんでしょうけど、何とも後味の悪い終わり方だわ。



≪憤怒の魔女:アグネスSIDE≫


『あの2人は見事やり遂げたわけじゃが、コレら、本当に自分の手で壊さんでもよいのか?』

(構わん。そんな温い終わりにはしたくないんだ。

 でも私が表に出ると思わず壊したくなるからあなたが処理してくれ)

『了解なのじゃ。まあ話を聞いた限りはかなり胸糞悪いことしたみたいじゃし、報いを受けさせたいという気持ちには全面同意するがの』


 心の中の声にそう返事しながらワシはクライヴとシンディから送られてきた老人の身体と宝玉を見下ろす。


 …………壊したいのじゃ。


 は! いかんいかん。

 ワシは別にこの老害達に何かされたわけではないが、内から溢れる怒りがつい目の前のコレをグチャグチャにしてしまいとうなった。


 ワシでこれなんじゃから、コレらに対するを抱えるは相当であろう。


(これで私の復讐は成し遂げられるな……)

『ん? 急にどうしたのじゃ? まあ目の前に復讐相手がいて、長い年月の末についにそれを成せるのじゃから、感慨深いのも分かるがの』

(そうだ。私はとっくに死んだ奴らは除いて、ほぼ全員に対してこれで復讐できる。けどあなたは?)

『………』

(もうすでに復讐相手はいない。いるのは――)

『分かっておる!』


 そんな事、言われずとも分かっておる……!


『それでも! それでも……ワシは、ワシのこのはもう止まらんのじゃ!!』

(……スマン)

『いいのじゃ。お互い騙し騙しでやってきた。ぬしがおらねばとっくの昔に破裂していたところ、ここまでもったんじゃ。もう十分じゃろ』

(そうだな)


 これだけ待ってワシらを止められぬのであれば、人類はもう滅んでしまえばよいのじゃ。

 過去の過ちを清算する日は近いぞ。精々抗ってみせることじゃな。

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