第35話 最後の手段と賭け


 僕とオリヴィアさんが腕を組んで戦場を駆けていくけど、傍から見たら場違いにもほどがあるだろう。


 大勢の人が殺し合いをしている最中、いつ襲われてもおかしくないという状況で何が起きても対応できるような状態にしておくべきだろうに、互いにくっ付いて不自由な状態で行動しているのだから。


 それに加えオリヴィアさんがメイド服姿なのも合わさって、戦場で異彩を放っているのは間違いない。


 しかしそんな事を言っている状況ではなかった。


「ハア、ハア、ハア」

「すまない鹿島先輩。少し速度を緩めよう」


 さっきまでは[画面の向こう側]で動いていなかったからよかったけど、こんな大きな武具を持ちながら走るのが大変すぎて体力の消耗が激しかった。

 武具を一瞬だけなら3つ持てたし、[画面の向こう側]の空間に退避している間は持ち上げている必要なんてなかったから問題なかったけど、それなりにこの武具は重い。


 よくオリヴィアさんはこれを片手で振り回せるよ。

 移動しやすいように腕を組むより手を繋ぐ程度にした方が良かったんだろうけど、僕はこんなの片手で持ちながら移動なんてできないから、両手で持ち運ぶためにもオリヴィアさんが腕を組んでくれたのは助かった。


「ハア、ハア、ハア」


 だからといって体力の消耗は避けられなかったけど。


『妾達も武具を運べたら良かったのじゃがな』

『ワタシなら辛うじて持てなくはないですが運ぶのは無理なのです。ママに至ってはその状態じゃ持つ事も出来ないのですよ』

『くっ、元の姿であればあの程度の武具、1つや2つ余裕で運べるというのに……!』


 球体じゃどうやっても無理だから仕方ないよ。


「ハア、ハア、ハア」


 先ほどからろくに喋る事もできないけど、今はこの方がありがたい。

 湧いてくる嫉妬心に対し、疲れで頭が回らないのとオリヴィアさんと触れ合う事で耐えることが出来るのだから。


『あそこじゃ主様達よ!』

「たどり着いたか」


 僕が[画面の向こう側]で退避している時よりもだいぶ時間を使いながらようやく円卓の騎士の元へとたどり着いた。

 さすがにこの状態じゃ嫉妬心に対抗するためとはいえ、僕にペースを合わせることになり移動速度が出ないな。


「貴様はガラハッド卿でいいな?」

『はっ。我が王よ。確かに私はガラハッドですが、何故なにゆえこのような場所に王が……?』

「よし。ならこの大楯を受け取るといい」

『なんとっ!? ありがたく頂戴します。

 しかし王よ。もはや味方の兵も残りわずか。王に下賜していただいたこの大楯があれば敵兵をしばらくの間食い止められるでしょう。

 その間にどうかお逃げくださいませ』


 恭しく頭を下げた後、ガラハッド卿は凄い勢いで敵を殲滅し始めた。


 確かにガラハッド卿の言う通り見る限り味方の兵も残り5千もいないようで、最後の1つを持ち運ぶ間に味方の兵が全てやられてしまいそうだ。

 やはり時間がどうしても足りない。


 仕方が無かったとはいえ湧きあがる嫉妬心に負けて動けないでいた時間分のロスが大きかったか……。


「どうする鹿島先輩? 先ほど最後の手段があるとは言っていたがリスクがあるのであれば、ガラハッド卿の言うように諦めて逃げるか?」


 まるで試す様にそう尋ねるオリヴィアさんだけど、僕はそれに対し首を横に振った。


「いや、諦めたくはないかな。これだけ大変だったのに途中で投げ出すのは癪だし、あとこれ1つだからね。

 それにリスクがあるとは言ったけど、失敗したとしても逃げる時間くらいはあるはずだよ」

「そうなのか? 一体何をするつもりなんだ?」

「最後の手段、[助っ人召喚]を使う」


 [助っ人召喚]で武具を運べるかどうかの問題もあれば、[助っ人召喚]の制限時間内に円卓の騎士に届けられるかという問題もある。

 それに加えて、もしも制限時間内に運べず助っ人が途中で消えてしまった場合、武具は戦場のどこかで置き去りにされ、運が悪ければ武具に選ばれていない円卓の騎士に拾われて敵に寝返ってしまう。


 そうなってしまえば残り少ない味方の兵は一気に殲滅されてしまい、万を超える兵に僕らは蹂躙されることになるのだけど、どうせこのまま時間切れで撤退することになるのであれば試してみる方がいいだろう。


「シロ、アヤメ。円卓の騎士の居場所は?」

『問題ないの。ほとんどの騎士の所には行ったから、円卓の騎士と思わしき人物でまだ出くわしておらんのは2人じゃ』

『ですがどっちがその大剣の持ち主になるのかは分からないのですよ? さすがに会ってもいない人間がどんな人物かなんて分かりようがないのです』


 [助っ人召喚]で武具を運ぶ最大の問題がこれだ。

 武具に選ばれていない人間に間違って渡しかねないということ。


 [助っ人召喚]では咲夜を呼ぶことになるのだけど、武具を間違って渡さないようにするためには一緒に付いて行くしかない。

 そのためには僕らを武具と一緒に運んでもらわないといけないけど、今度は僕らの耐久性の低さが問題になる。


 咲夜が[鬼神]を全力で使わない場合1分間顕現できるけど、たった1分では間に合わない。

 そのため10秒しかもたないけど〝臨界〟を使って高速で届けてもらえば間に合うはずなのは、中国ロシアの迷宮氾濫デスパレード時の移動速度からいって間違いないと思う。

 しかしそんな速さで僕らも一緒に運ばれた場合Gがかかって少なくとも気絶、下手すれば死にかねないだろう。


 だから索敵してもらった結果をアヤメ経由で助っ人の咲夜に教えて、その人物に届けるよう命令するしかないが、そうなると問題になるのが違う方の騎士に渡してしまう事という堂々巡り。


 つまり賭けに出るしかないんだ。

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