第36話 優秀で勇猛果敢
「[助っ人召喚]咲夜」
僕の前に魔法陣のようなのが現れ、そこから完全に感情らしきものが抜け落ちた咲夜が現れる。
『この地点なのです』
「咲夜。アヤメから伝達された地点にこの武具を持って〝臨界〟を使って全速力で向かい、全身甲冑姿の人物にこの武具を渡すんだ」
僕が咲夜にそう命令すると、咲夜は僕が持っていた武具をヒョイッと軽々受け取ると、[鬼神]を全力で使用した際の鬼の姿へと変わり、さらに〝臨界〟使用時の現象である青白いオーラが体を覆い、人の身体から発せられているとは思えないほどの湯気が立ち上る。
うっ……武具を渡しても嫉妬の呪いが弱まる気配がしない。スキルで間接的に触れている分には呪いは侵食するのか。こういうところは徹底しているな。
――ドンッ!
嫉妬の呪いに気が取られていると凄まじい音が周囲へと響いた。
踏み込みの音というより重機で地面を叩いたかのような音がした時にはすでに助っ人の咲夜の姿はなかった。
「凄いな
オリヴィアさんが心配そうに聞いてくるけど、僕らは気にするなといった表情でオリヴィアさんを見た。
助っ人の咲夜を召喚する前に、2人の円卓の騎士の内どちらが大剣の持ち主であるガウェイン卿か相談したけれど、僕ら3人は予想すらできなかったんだしね。
「正直何の当てもないから、少しでも根拠のある方に賭けたかったからいいんだよ」
『そうだの。それに予想したのはお主だが、それに全員がのったのだから責任があるとしたら全員だの』
『そうなのです。というか、上手くいくかどうか分からないのですから逃げておいた方が良くないのです?』
失敗したところでいきなり僕らの周囲が敵だらけになるわけではないから、ある程度様子を見てからにしようかと思ったけど、すぐに逃げられるように入ってきた扉の近くにいた方がいいのは間違いないか。
アヤメの意見に賛同した僕らは少し小走りで移動し始める。
『ところでご主人さま。いつまでオリヴィアさんと腕を組んでいるのです? 乃亜さん達への通報案件なのです?』
「それは止めてよ! まだ呪いの影響で変な嫉妬心がまだ残ってるんだから勘弁して欲しいよ」
「鹿島先輩の言う通りだ。高宮達には悪いと思っているがこればかりはどうしようもない」
オリヴィアさんと触れあっているお陰でサラの電波みたいな嫉妬心が気にならないけど、ちょっとでも離れるとこの嫉妬心が心を蝕んでくるのだから嫌になる。
もちろん我慢できなくもないけれど、触れあっていると気持ちが楽になる感覚のせいで離れがたいんだ。
――カァッ
「あれは円卓の騎士に武具を渡した際の光か。だがどっちだ?」
遠くの方で昼間でかつ戦場でもハッキリと分かる光が見えたけど、果たして強化されるか敵対するかどちらだろうか?
頼む! お願いだから強化する方であってほしい。
「見ろ! 光が敵に特攻していくぞ!」
『やったのです! 賭けには成功したのですよ!』
『良かったのじゃ。ここで失敗したらクロを救出できないところだったからの』
はぁ~オリヴィアさんの予想が当たって良かったー。
最後の武具の持ち主がガウェイン卿であることから、最も優秀な騎士で勇猛果敢という人物であると伝わっているので、一番激しい方の戦場にいるんじゃないかという予想だったけどドンピシャだったようだ。
さてこれで後はモルドレッドを探し出して倒すだけか。
気が抜けかけてしまったけどまだこの試練は終わりじゃない。
看板にも書いてあったとおり、モルドレッドを倒せば次の試練にいけるんだからね。
……これだけ苦労したのにまだ試練が続くのかと思うとくじけそうになるなぁ。
今までの魔女の試練の中では
“色欲”と“嫉妬”の試練、どちらが嫌だ? と聞かれたらどっちも嫌だと全力で拒否するレベルだ。
一番マシだったのって“怠惰”の試練な気がする。
僕と相性が一番良かった試練だよね。
そう考えると“嫉妬”の試練がまだ続くと思うとげんなりするよ。
『アーサー!!!』
「「『『っ!?』』」」
ガウェイン卿が残っていたほとんどの敵兵を倒し、遠くからでも分かった光が消えてしばらく経った時だった。
僕らの前に赤い髪の美丈夫が現れた。
赤い髪の持ち主であり敵であると分かるけど、他の敵兵達とは違い立派な鎧と剣を持っていて一兵卒とは纏う気迫がまるで違う。
「あれがモルドレッドなんだね」
「自分から向かってくるとは好都合だな。これでこのふざけた試練は終わりだ!」
『私はお前を王とは認めない!』
そう言いながらたった1人でモルドレッドが向かって来たけれど、特殊なスキルを持ち合わせているわけでもなく、ただ膂力が強いだけだったためスキルや【典正装備】を駆使することで大きな怪我をすることなく僕らはモルドレッドを討伐することに成功した。
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