第37話 わたしの名前を言ってみなさい


 モルドレッドを撃破した僕らの前にまた新たな扉が現れた。


 この試練を達成した証ではあるけれど、素直に喜べないのはまだ試練が続くからだね。

 今の試練で精神的にも肉体的にだいぶ疲弊したというのにまだ続くのかと思うとウンザリするけれど、ここで諦めて帰ったら今までの頑張りが無駄になってしまうので諦めるわけにはいかない。


「この先が最後の試練だといいんだけどなぁ」

「気持ちは凄く分かるぞ鹿島先輩。正直かなり疲れたからな」

『ワタシは〔射線で割断する水流ウォーターカッター〕を撃ってたくらいなので、まだまだ平気なのです』

『妾もほとんど索敵くらいしかしておらんから平気じゃな。だがクロを一刻も早くあの女から引き離したいゆえに次で終わりだとありがたいがの』


 武具を運んでいた僕らは疲労感いっぱいだったけど、アヤメとシロは特に疲れた様子はなさそうだった。

 いくらちょっとしたことをしていただけって言っても、あんな戦場の中を駆けまわったらそれだけで精神的に疲れそうなのに元気な2人だ。


 もっとも、もう試練は勘弁して欲しいという気持ちは僕らほどではないけど感じているようだけど。


 早くクロを助けたい2人には悪いけど、走り回り肉体的にも精神的にも限界に近かったため、休憩してから次の試練へと進むことにした。

 周囲に敵らしき存在がいないため、多少休憩して体力を回復することができるのはありがたいね。


 さっき[助っ人召喚]を使ったから1日1度だけの回数制限を[動画視聴]で回復するのにも都合がいいし。……[動画視聴]でガチャ欲を煽られるから精神的にまた疲弊するけど、休憩できるんだからマシか。


 そうして僕らは1時間ほど食事と少しの睡眠をとったあと、ようやく次へと進む。


「よし、それじゃあ行こうか」

「ああ。私達がアーサー王だというのであれば次で最後のはずだし気合を入れて行こう」

『何故そんな確信をもって言えるのです?』


 僕が扉に手をかけてその扉を開けようとした時、オリヴィアさんが自信ありげにそう言うので、アヤメはオリヴィアさんに近づいて首を傾げて尋ねていた。


「ああ、ここの試練がカムランの戦いを元にしていたからな。

 この試練の2つ前の試練であった決闘で真の聖剣を手に入れる話は、アーサー王伝説では当然カムランの戦いの前だし、順当にいけばこれで最後だと言っていいだろう。

 カムランの戦いの後だと聖剣の返還をすることになるはずだが……」


 オリヴィアさんが帯刀している聖剣をただ返すだけの試練になる――はずもないのはさっきまでの試練で分かっている。

 いや、もしかしたら石像の時のように素通りするだけでOK、みたいな試練の可能性も0ではないんだけど……どうせ頭のおかしい嫉妬心を植え付けてくる試練なんだろうなと思うと、扉にかけた手に力を入れたくなくなってしまう。


 しかしこのままこんな場所で突っ立ってるわけにもいかないし、いい加減試練を終わらせたい気持ちが大きいので意を決して僕は扉を開けて先へと進んだ。


「ここは……島?」


 扉を潜った先にあったもの。それは海に囲まれた見知らぬ島だった。


「なるほどな。今までの流れから推察するにここはアヴァロンと言ったところか」

「アヴァロンって、アーサー王伝説に出て来る地上の楽園って言われてる場所だよね?」

「そうだな。カムランの戦いで重傷を負ったアーサー王が傷を癒すためにそこに運ばれ、そして最後を迎えた場所だ」

『フヒッ、その通りよ。アーサーであるあなた達の最後にはピッタリの場所でしょ』


 突然サラが現れ、僕らは慌てて声のした方を振り向いた。


 何度目かのサラの登場だけど、今までとは纏う雰囲気が違っていた。

 具体的に言うのなら、“平穏の翼”に初めてダンジョンで襲われた時の男達と似たような殺意のようなものを感じる。


『ここがあなた達の終着点。もう戻る事はできないわ』

『あっ、扉が消えているのです?!』


 アヤメに言われて初めて扉が無くなっていることに気が付いた。

 今まで来た道を戻ることが出来たのに、今回に限ってはそれも許されないのか……!


『アーサー、わたしはあなたを憎むわ。

 あなたのその純粋な心が嫌い。

 わたしの恋人の方が王に相応しいのに偽物の聖剣にすり替えられていたにも拘らず決闘で聖剣を取り返し勝利したあなたが嫌い。

 魔法の鞘は奪えても聖剣だけは手放さなかったあなたが嫌い。

 鞘の加護を失い戦争で致命傷を負ったのにアヴァロンに辿り着いたあなたが嫌い。

 そして何よりも――わたしの母を奪い父を殺した男の息子であるあなたが嫌い。

 さあ、わたしの名前を言ってみなさい』


 サラの口から唐突に怨嗟の声とともに問いかけられた。

 これは間違いなくアーサー王伝説で登場したとある人物のことだろう。

 アーサー王伝説を知っていれば、今までの試練の流れだけでもどの人物を元に生まれた【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】なのか予想できていたけど、ここまで言われたらさすがに嫌でも分かる。


 それは僕だけではなくオリヴィアさんも分かったようで、自信に満ちた瞳でサラを見ていた。


「さすがにここまでヒントを出されたら私でも分かるぞ。道中不自然にお前の言うことを不思議と信じてしまったのもその【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】のせいだったのだな。

【モルガン・ル・フェ】。そのキャラクターがお前の正体だ!」


 オリヴィアさんがビシッと指をさすとサラはニタリと笑って僕らを見る。


『フヒッ、正解よ。

 今までの試練はここに至るまでの前座にすぎないわ。

 あなた達がアーサーであることを決定づけるためのただの茶番。

 それじゃあ最後の試練を始めましょうか』

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