第17話 死
蹴り開けられた扉の向こうは、この迷宮内では今までで一番広い空間だった。
まるで東京ドームくらいの広さはありそうな空間で、中央には巨大な木に
そのミノタウロスは先ほどまで戦ったミノタウロス達とは違い、一回りも二回りも大きい巨体であり、さらに全身に纏う威圧感も桁違いに感じた。
――グチャグチャ
汚らしい音がこちらにも聞こえてきており、それが何を示すかはすぐに分かった。
誰かがここにいるはずなのに、座って何かを食べているミノタウロス。
ミノタウロスが誰とも戦ってないが故に、それが何かはここにいる全員がすぐに理解出来てしまった。
「そんな……」
「乃亜は? 乃亜はここにいねえよな?!」
「そんな……お前ら……!」
「………!?」
「鈴ーーーーー!!」
ミノタウロスの足元には何十人もの死体が転がっており、いくつかの死体はすでに肉を綺麗にこそぎ食べたのか、白骨死体が木の根元に散らばっていた。
白骨死体が誰かは分からない。
でもまだ食べられていない死体の中には顔見知りの人物がいて、
「ちくしょう……! 間に合わなかったか!」
「嘘……。嘘よ……」
「しっかりしろこのみ!」
冒険者学校に来て知り合った僕でも相応のショックを受けているんだ。
鈴さんの双子であるこのみさんのショックはかなり大きいだろう。
「もっと早くここに来れていたら……!」
「………うっ」
大樹や
『ブモーーーーー!!!!』
だけど僕らが悲しんでいる暇なんて、もうなかった。
こちらに気付いたミノタウロスが咆哮を上げゆっくり立ち上がると、木に立てかけていた巨大な両刃の斧を片手で持ち上げて、こちらを睨んできた。
「くっ、一旦ひ――」
「死ね!!!」
このみさんが今まで見せた事ない憤怒の表情をミノタウロスに向け、巨大な火の弾をミノタウロスに向けて射出していた。
『ブモッ!!』
しかしその火の弾はミノタウロスが勢いよく振り下ろした斧で真っ二つに切り裂かれて霧散してしまう。
「何やってんだこのみ! ここにはもう誰も生き残っていなかった以上、一旦引くべきだろ!」
「うるさいうるさいうるさい! あいつは私が絶対に殺す!」
涙目ながらに訴えるこのみさんは、意地でもここから逃げずミノタウロスを殺そうという意思を感じた。
「ちっ、おい! 魔法スキル持ちは全員ミノタウロスに攻撃しろ! 前衛はそいつら抱えて逃げるぞ!」
「何を言ってるの! ここであいつを必ず殺す――がっ!?」
「悪いが少し寝てろ」
穂玖斗さんはこのみさんに腹パンして意識を刈り取っていた。
「全員急げ!」
穂玖斗さんの号令に従い、すぐさま動き始める。
ミノタウロスは飛んでくる魔法に対して煩わしそうに斧で振り払っているせいで、こちらに向かって来れなかったため、僕らは誰1人欠ける事なくその空間から脱出する事に成功した。
いや、あのミノタウロス、まるで僕らがここから逃げ出せないと分かっているのか、再び自分の元にやって来る事を確信しているかの様で、僕らを見てニヤリと笑って見逃してくれたために逃げられたんだ。
そうでなかったら、もっと本気で追いかけてきてもおかしくないのだから。
巨大な扉を閉めて念のため遠くに逃げた僕らは、荒い息を整えてその場にへたり込む。
「はぁ~、全員無事だな。さすがにあんな動揺した状態のまま戦っても、勝てるほど甘い相手じゃなさそうだ」
「その辺の判断が早くて助かりました。もしも穂玖斗さんが素早く撤退指示をしていなかったら……」
涙を流して寝ているこのみさんをチラリと見る。
このみさんがあの場にいたままだったら、先ほどの激しい怒りを抱えたままガムシャラに死ぬまで戦ったに違いない。
冷静に何も判断出来ず、ただ単調に攻撃を仕掛けるだけになっていただろう。
「まあそうだな。このみ以外にも知り合いが無残に死んでる姿を見た奴は、間違いなく普段通りには戦えねえわ」
「「………」」
大樹と
パーティーメンバーの死を目の当たりにしたんだから当然だ。
僕だってもしも乃亜達の誰か1人でも死んでいたら冷静でいられなかった。
……誰か分からない白骨死体は、今は考えない様にしよう。
「パッと見た限り、あのミノタウロスは別格だ。つまりあいつこそ、この迷宮を創った【
「じゃああれを倒せばこの迷宮から脱出できるんですかね?」
「多分な。ただ俺達だけでそれが出来るかはかなり怪しいが」
周囲を見るとほぼ全員がとてもじゃないけど平静を保てていないので、穂玖斗さんの言う通り倒せるか怪しい。
ただでさえ倒した事のあるミノタウロスとは雰囲気がまるで違う、別格とも言える存在だったのだから。
「とりあえず今後の方針として、出来る限り生きてる奴と合流してからあのミノタウロスを倒す。それでいいな?」
「はい。ただ今すぐにでもあのミノタウロスを倒したいって言う人もいると思いますが……」
「無理にでも止めるさ。じゃねえとただ死にに行くだけだ」
これ以上被害を出したくないという想いが穂玖斗さんから伝わってきた。
確かにそれには僕も同意だ。
このみさんが起きた後どうやって説得するか考えながら、他にも今すぐ戦いに行きたそうな人を説得して回った。
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