第16話 矢印の指す先

 

 ついに100人近い人と合流出来た僕らは未だに迷宮を彷徨っていた。


「ミノタウロスを倒したのに出れないってどういう事なんだろうか? まあ何体もいたから、全部倒さないと出れない仕様なんだろうけど」


 かれこれこの迷宮に入って2、3時間くらいは経っているせいか、少々疲れてきた。

 いつ【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に遭遇するか分からないから気疲れしているせいもあって、いつもより体力の消耗が早い気がする。


「ミノタウロス以外にも別の【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】がいるはずなのに、影も形も見当たらないのが不安だ」


 それに乃亜達とはまだ合流出来ていないし。

 ダンジョン遠征に参加した生徒600人の内六分の一はここにいるのに、肝心の乃亜達と合流出来ないせいでより不安になるよ。


「そう言われてみればそうだな。ミノタウロスばかりが出てくるせいですっかり忘れてたわ」

「いや大樹、忘れちゃダメでしょ」


 そりゃさっきからミノタウロス達ばかりと遭遇してるからその気持ちは分からなくもないけれど、【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】がもう1種類いるのは確実なんだから気を付けないと。


「おい、こっち来て見ろ」

「穂玖斗君どうしたの~? また木の根っこで道でもふさがれてた~?」

「違う。いいから来い」


 おや、穂玖斗さんが何かを見つけたようだ。


 みんなが僕の言った方向に全員が進む前に、何人かが先行して探索をしていた。

 その際ミノタウロスがいれば奇襲して倒していたけれど、この様子だと何か違うものでも見つけたんだろう。

 ミノタウロスを見つけた時の反応とは違ったから、このみさんは道が塞がっていたのかな程度にしか思わなかったみたいだけど、そうじゃないなら何を見つけたんだろうか?


 とりあえず穂玖斗さんに言われるがまま付いて行くと、そこには巨大で豪華そうな扉があった。


「これは……」


 何と言うかあからさまにボス部屋への扉的な物がそこにあるので、言葉に詰まってしまう。


「この向こうにもう1体の【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】がいるのか?」

「もしくは~、先ほどまで遭遇していたミノタウロス達の本体がいるとかかもね~」

「本体?」

「多分さっきまで倒していたのは~、ミノタウロスへの生贄にされた子供たちのなれの果てなんじゃないかな~って」

「そうなんですか?」

「あくまで予想だけどね~。でも~、倒した時にミノタウロスから子供の魂みたいなのが出てきて「ありがとう」って言われたから~、そうかもな~って」


 なるほど。

 言われてみればあの光る人型の何かは心なしか小さかったし、そう考えるとあのお礼は解放してくれた感謝の言葉とも捉えられる。

 しかしそう考えると――


「あのミノタウロスが28体徘徊してる事になりません?」

「……かもね~」

「あ? なんで28体なんだよ?」


 穂玖斗さんが額にしわを寄せて尋ねて来たので、このみさんがそちらへと振り向いた。


「【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】が出てきた時に何て言ってたか覚えてる~?」

「あー……何だったか?」

「9年ごとの生贄は誰? 14人の少年少女は誰のせいで生贄になる? だったよな?」


 大樹がそう聞くとこのみさんが満足そうに頷いていた。


「そうだね~」

「ん? それだったら14体が徘徊してるんじゃねえのか?」

「違うよ穂玖斗君~。ミノタウロスは神話では3度目の生贄が来た時に倒されてるんだよ~。つまり~2回生贄として少年少女が捧げられているってこと~」

「ああ、それで28体なのか」

「まああくまで可能性の話で~、もっと多かったり少なかったりするかもしれないけどね~」


 いや、いくら集団でかかれば倒せるからとは言え、40体、50体と沢山出てくるのは勘弁して欲しいよ。


「それじゃあどうする? さすがにこのあからさまにボス部屋に特攻している奴なんかいねえだろうから、さっきの様に蒼汰の指示で他の奴らと合流して、それからここに挑むか?」

「それが一番安全だろうね~」


 確かに、戦力はかき集められるだけかき集めてから挑むべきだよね。

 僕は穂玖斗さんとこのみさんの意見に内心頷きながら、矢印の方向を確認した。


 ………ん?


 もう一度矢印の方向を確認した。


 ………………………え?


「おい、どうしたんだ蒼汰?」

「……大樹、この矢印どこを指してるように見える?」

「……あのデカい扉だな」


 つまりこの扉の向こうに誰かがいると言う事だ。


「ちょ、誰がボス部屋みたいな部屋に特攻してるんだよ!?」

「そんなアホな事したの、どこの誰だよ?!」


 僕ら2人は思わず叫んでしまったけど、これはしょうがないと思う。


「「嘘っ?!」」


 穂玖斗さんとこのみさんも思わず叫んでいたのだから。


「ちっ、おいどうする? この中に入っていった奴がいるなら俺達も行くべきか?」

「自分からこの扉を通ったのならあまりにも向こう見ずな行動だから見捨てるべき。だけどもしもこの迷宮に転移した際、この扉の向こうに転移させられていたとしたら?」


 このみさんが普段の間延びした口調ではなく、早口で言葉を発してるためかなり真剣かつマズイ状況だと全員に伝わったようで、場の空気がかなりピリピリしたものになった。


「蒼汰のあれが示した方向に間違いなく人がいるなら、行くしかねえだろ! 乃亜がこの中にいるかもしれねえなら行く以外の選択肢がねえ!」

「同感。もしも鈴がここにいるなら……」


 誰もが自分の親しい友人等を頭に浮かべたのか、全員武器を握る手に力は入っていた。


「よし、てめえら覚悟はいいな?」

「「「おうっ!!」」」

「おっし! 今行くからな乃亜ーーー!!」


 穂玖斗さんはそう叫びながら、目の前の巨大な扉を蹴り開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る