第15話 一体何に使えばいいんだよ……
『……ブモ~』
「よし、倒しきれたな!」
ミノタウロスは穂玖斗さんの言っていた通り思ったよりも弱くて、誰一人大きな怪我をすることなく倒すことが出来た。
もしかして複数のミノタウロスを倒さないといけない代わり、戦闘力が低くなっているパターンなのかな?
もしもそうだったら、1体ずつならここにいる人間だけでも余裕を持って倒せそうだと思っていたら、倒れていたミノタウロスからぼんやりと光る人型の何かが出てきた。
「何だ!?」
僕らはとっさに構えたけれど、その心配は無かった。
『……ありがとう』
光る何かが何故か感謝の言葉を発して、フワンッと光が散って消えてしまった。
「何だったんだ……?」
誰かが発した疑問は全員が思ったことであり、あれは一体何だったのかと思っていたら、今度は倒れているミノタウロスが突然ポンッと音を立てて消えた。
その代わりにカランッと音を立てて現れたのは短剣だったけど、【典正装備】なら宝箱に入って出てくるはず。
どちらかと言えば、
「ミノタウロスにラビュリントスだし……もしかしてアリアドネの短剣?」
「何だそれ?」
「大樹は神話とか読まないの?」
「活字は嫌いなんだよ」
「気持ちは分からなくもない。難しいことが書いてある本は僕も好きじゃないし」
それはされおき、ミノタウロスから出てきたあの短剣。
神話じゃテセウスがミノタウロスを退治する際、1度入ったら2度と出ることができないと言われている迷宮ラビュリントスから脱出できるようにするため、糸玉を使って脱出するのは有名だ。
その糸玉を渡したのがアリアドネなんだけど、実はその時一緒に短剣も渡していて、それでミノタウロスが退治されたはず。
「だからあれはミノタウロスに対する特効武器なんじゃ?」
僕が神話と【
「へぇー、って別にあんなもん無くても普通に倒せたじゃねえか」
「確かに大樹の言う通りだよね。というか大きな武器をブンブン振り回す相手に短剣で挑むとか、逆に討伐の難易度が上がってるし」
他にもミノタウロスがいるからこの状況にはピッタリなんだけど、ぶっちゃけ使わなくても勝てるんだよね。
「それでも~、持って行った方がいいと思う~。何が起こるか分からないし~、あれで一突きするだけで倒せるなら使えなくはないんじゃないかな~?」
「何が起こるか分からないのには同意だな。ま、持って行くのが大変な物でもないから、持ってくだけ持ってけばいいんじゃねえか?」
このみさんと穂玖斗さんの言う通り、持って行って困る物でもないから持っていくとしよう。
前衛の誰かが持っていくといいんじゃないかと思っていたら、誰も拾おうとしなかった。
うん、分かるよ。
1本しかドロップしてないものだから、ついお見合い状態になるのは。
でも、誰でもいいからとっとと拾ってくれないかな?
「ちっ、しゃあねえな」
おっ、穂玖斗さんが舌打ちしながら短剣を拾ってくれた――と思ったらそのまま僕に渡してきた。
なんで?
「蒼汰、てめえが持ってろ」
「え、なんでですか? こう言ってはなんですけど、僕、ここにいる中で誰よりも戦闘力ないですよ」
我ながら悲しい自己申告である。
「そんな事は分かってる」
たとえ自分で言ったからとはいえ、人にそうあっさりと認められるとすっごい複雑な気分になるよ。
「短剣だから前衛の誰かが使うべきなんだろうが、短剣なんて誰も使ってねえし、いきなり慣れない武器を使うのは逆に危険すぎる」
「あー確かに?」
僕はろくに武器を触らないので微妙にピンとこないけど、そういうものなんだろう。
「だからお前が所持しておいて、他の連中と合流した際に短剣を使い慣れてるやつがいたらそいつに渡すか、次にミノタウロスに遭遇した時、それを投げる暇があったら投げつけろ」
「それだったら別に前衛の誰かが持っててもいいんじゃ……?」
「それでもいいが、ぶっちゃけ、後ろでただ見てるだけのお前の方がすぐに短剣を投げられるだろ? 俺達の場合だと武器を持ち替えないといけねえからな」
「まぁ確かに」
「だからよろしく頼むぜ」
そう言われてしまったならしょうがないかと思い、そのまま僕が持っていくことにした。
他の人も誰も否定しないんだけど、ホントにいいんだろうか?
「やっぱり使い慣れた武器じゃないと戦いづらいし、[槍術]とかのスキル持ちが短剣とか持ってても……」
そりゃそうか。
スキルなんて買ったりしないと易々と手に入らないし、それなりに値段がするから短剣を扱えるスキルを持ってる人なんて、短剣を普段使いしてる人くらいか。
この場にいる全員が僕が持っていく事に納得しているならいいのかな。
そう思いながら迷宮を歩いていると、またミノタウロスを発見して戦う事になった。
『ブモーーー!!』
ミノタウロスは善戦していたけれど、多勢に無勢。
先ほど戦ったミノタウロスのように倒されるのは時間の問題だったけど、せっかくだからこの短剣の威力を知りたいところだと思い、僕は短剣を投げるチャンスを見計らった。
ミノタウロスが振り回すハルバードを大樹達が弾き飛ばし、丸腰になったところで、メイド服を着ているこのみさんが[火魔法]で炎の塊を顔面にぶつけた今がチャンスだと思った。
「ふっ!」
僕は振りかぶって短剣を胴体のどこでもいいから突き刺さるように投げつけ、それが見事ミノタウロスに突き刺さり――
『ブモッ』
何も起こらなかった。
『ブモーー!』
若干満身創痍な状態なだけで、刺さってる短剣には意を介さずに暴れ続ける。
「あの短剣、何の意味もないの!?」
僕がそんな絶叫をしている間に全員でフルボッコにされたミノタウロスは、先ほどと同じように謎のお礼と短剣を残して消えていった。
一体何に使えばいいんだよ……。
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