第18話 取り込まれた生贄
「………」
「このみさん、大丈夫ですか?」
このみさん以外の全員に今後の方針を納得してもらった丁度その時、このみさんがゆっくりと起き上がった。
なので声をかけてみたのだけど返答は無く、キョロキョロと周囲を見渡し始めた。
そしてピタリと視線が1箇所に固定された後、フラフラと立ち上がってその視線の向いていた先へと歩き出す。
穂玖斗さんの方に向かって。
「……何で、何で私をあそこから連れ出した!!」
このみさんは穂玖斗さんの胸ぐらを掴みながら怒声を上げていた。
「落ち着けこのみ」
「うるさい! 私は、私はあいつを……!」
「いいから落ち着け!!!」
「っ!」
穂玖斗さんに一喝されたこのみさんは、ビクリと体を一瞬震わせ黙ってしまった。
そのチャンスを逃さないようにするためか、穂玖斗さんはまくし立てるように話し出す。
「あの場に残って戦ったところで十中八九俺達は全滅していた。チームプレイなんて到底出来ないくらい動揺して冷静じゃなかった上に、あのミノタウロスはさっきまで倒したミノタウロスとは別格だ。
ここにいるメンバーだけじゃ冷静だったとしても倒せねえよ」
「それでも、それでも私は――」
「あの牛を殺すんだろ? 返り討ちにあって殺されたら、鈴のやつの復讐も出来ねえぞ」
「……っ」
このみさんは歯を強く食いしばりながら、ゆっくりと穂玖斗さんの胸ぐらを掴んでいた手を降ろすとストンっとその場に座り込んだ。
「このみ。今後の方針として、俺達は生きてる奴と出来る限り合流してからあのミノタウロスと戦う。それでいいな?」
「………………ええ」
このみさんが激高した時、全員が黙ってそちらに注目していたため、このみさんが落ち着いたことで場がシーンっとなった。
それを丁度いいと判断したのか、穂玖斗さんは全員を見回しながら話をし始める。
「さて、まずは基本方針だが、誰かあのミノタウロスを鑑定したやついるか?」
あいにく僕はスキルスロットの空きがないので、[ソシャゲ・無課金]しかスキルがないんだよなー。
まあ空きがあったら真っ先に戦闘系のスキルでも取ってるだろうけど。
穂玖斗さんが色々な人に聞いて回ったところ、数人が[鑑定]を所持していて鑑定していたけど、その鑑定結果は残念ながら名前しか分からなかった。
〈【
もっとも、名前だけでも収穫があったと言える。
ミノタウロスらしきものを2度倒した時までは誰も[鑑定]を持っていなくて分からなかったけど、後から合流した人でどちらのミノタウロスも鑑定をしていた人がいて、そちらの方の名前も判明している。
〈取り込まれた生贄〉
明らかに生贄にされた少年少女を示唆している上に、【
なので、あの大樹のところにいたミノタウロスこそ倒すべき存在だと判明した訳だ。
ちなみに大樹の方も鑑定したようだけど、そちらはただの木だったよう。
あの木のどこかに【
もしかして2体目の【
全く遭遇しないのでどちらかと言えばその可能性の方が高そうだけど、いつ来てもいいように警戒だけはしておかないといけないね。
「とりあえずまだ誰も遭遇していない2体目の【
それよりも本体のミノタウロスの方だが、今すぐ再戦にはいかない」
「何故!?」
「何度も言ってるが落ち着けこのみ。
言っただろ。
本体の方のミノタウロス、あれを見て思ったんだが、傷1つついていなかったのはおかしいと思わないか?」
先ほどのミノタウロスの姿を思い出すと、“取り込まれた生贄”より肌が少し黒いくらいで確かに怪我1つしてなかったと思う。
「いくら恵のやつの援護がなかったとはいえ、鈴のやつが少なくとも20人近い人間と一緒にいて、怪我の1つも負わせられなかったのはいくら何でもおかしい」
「……鈴なら[瞬動]や[斬撃強化]とかの強化系もいくつかあるから、少なくとも切り傷はつけてるはず」
このみさんは先ほどよりもだいぶ落ち着いたのか、鈴さんの持っているスキルを静かな口調で挙げていく。
「考えられるのは人を食べる事で回復する、もしくは条件を満たさなければ傷を負わせられない、そのどちらかか、最悪両方の可能性があると見ている。
単純に肌が頑丈なだけかもしれねえが、条件があると警戒しておいた方がいいだろう」
「条件って言うと、やっぱり短剣ですかね?」
パッと思いつくのが、“取り込まれた生贄”からドロップした短剣だ。
あれがミノタウロスを倒すための鍵じゃなかったら、何のためにドロップしてるのか疑問ですらある。
「やっぱりそうだろうな。そうなると“取り込まれた生贄”からドロップする短剣を出来る限り回収してから、本体であろうミノタウロスに挑みたいところだ」
しかしそうなると、今まで偶然遭遇していた“取り込まれた生贄”を自分から見つけに行かないといけない訳だけど……。
「このどのくらい広いか見当もつかない迷宮で、どうやって探せばいいんだろ?」
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