第57話 全力全開
「よくも、よくもよくもよくもよくも!!咲夜に友達を傷つけさせたな!
許さない許さない許さない許さない!!!」
真っ赤に染まった髪がブワッと風が吹いていないのに持ち上がった。
「お前は咲夜が殺す!!」
かなり荒ぶっている咲夜だけど、先ほどまでと違ってこちらに攻撃を向ける様子はなく、むしろ謙信を怨敵と定めているようで謙信に向かって駆けていく。
「なんで支配が解けたんだろ?」
「なんでも構わないわ。今が好機よ蒼汰! 咲夜さんを援護しましょ!」
確かに冬乃の言う通りだ。
僕はすぐさま咲夜を[チーム編成]に組み込む。
衣装登録をすると全裸にしてしまうので出来ないけど、コスチュームチェンジでメイド服を着せるのなら問題ないはず。
すぐさま乃亜のメイド服状態を解除して、咲夜にメイド服を着せるためコスチュームチェンジのボタンをタップする。
すると咲夜の全身が輝いてメイド服の装着が完了し、なんと今まで着ていた服も勝手に衣装に登録された。
この方法なら毎回全裸にする必要はなくなるようだ。
……代わりに毎回コスプレしないといけなくなるわけだけど。
僕に出来る援護はここまでだ。
無事に戻って来てよ、咲夜。
≪咲夜SIDE≫
全力で力を振るうのはこれで3度目だ。
1度目は初めて他の人とダンジョンに潜った時。
2度目はこの“
1度目の時は役に立てるところを見せるためにそうした。
2度目の時はスキルを全力で行使しろと言われたからそうした。
そしてそのどちらもそれを見ていた人に怯えられた。
恐らく化け物とでも思っているんだろう。
実際今の咲夜の姿は完全に化け物だ。
どこに角の生えた人間がいると言うのか。
いや、いない訳じゃないから、それだけなら何の問題もないのかもしれない。
だけど額を割って開かれた第三の目。
角や全体の有様から怯えられるには十分な見た目だろう。
だから言いたくなかった。
だから使いたくはなかった。
だってこれを知られたら、咲夜から離れていくんだから。
ただでさえ魔素親和症候群なんておかしな体質なせいで怪力になっているのに、スキルが加わって恐ろしいまでの力を発揮できる。
それを見て怯えられるのは辛い。
特に親しくなったと思った人に離れられるのは余計に辛い。
だからこのスキルは使わないようにしたのに。
だからこのスキルは隠そうと思ったのにそれを無理やり使わされた。
………。
……だけど。
そんな事よりも――
友達を咲夜の手で傷つけさせた事はその何千倍も許せない!!!
「死ね」
『馬鹿な! 有り得ない?!』
謙信が驚愕しながらも、咲夜を先ほど仕留めた分裂するような動きをする槍を放ってくる。
だけど第三の目がその動きの全てを感知する。
まるで未来でも見えているかのように、この目は先の動きを予測する。
さらに咲夜自身の身体能力が[鬼神]スキルによって大幅に強化されているので、動体視力も強化されている結果、槍の動きは非常に遅く見えている。
だから咲夜はその槍の動き全てを避けて、謙信の腹部目掛けて右ストレートを放つ。
『ぐはっ!』
吹き飛ばされた謙信は再びバリケードの扉へとぶち当たり、ついにはその分厚い扉は全体にヒビが入ってスケルトンの群れの方へと倒れてしまう。
『ぐっ、まだです!』
殴り飛ばしたはずの謙信がすぐに戻って来て、咲夜に無数の刺突を繰り出してきた。
[鬼神]を本気で使用する前の咲夜には、速すぎておそらくこの突きが点ではなく大きな面に見えていただろう。
だけど今の咲夜には、ただ点の攻撃を繰り返す程度にしか見えていない。
その攻撃全てを避け切って、今度はかかと落としで地面へと叩きつける。
『ぐふっ!?』
「はあっ!」
追撃をかけようとさらに踏みつけようとしたけど、まだ動く元気があるのか転がって避けられてしまった。
『な、何故だ!?』
「?」
急になんだと言うのだろうか?
『何故鬼のお前に〝鬼兵操縦〟が通用しない!? 毘沙門天の、神の加護を持つ私の力が何故!?』
「そんなの知らない。咲夜はただ[鬼神]を本気で使ってるだけ」
『きしん……[鬼神]だと!? お前は神そのものだとでも言うつもりか!!』
謙信がわめき始めたけどそんな事どうだっていい。
「うるさい。もう死んで」
『ふざけ――がはっ!』
何かを言い終える前に、咲夜は瞬時に謙信へと近づくと、足払いからの蹴り上げで謙信を壊れて扉のなくなったバリケードの間へと飛ばす。
咲夜は地面を強く蹴って、バリケードのまだ残っている壁の中間部分に張り付くと、すぐさまそこから謙信に向かって回し蹴りを食らわし、スケルトン達の群れに着弾させる。
「ここならまとめて薙ぎ払える」
咲夜は本能的に力の使い方は理解していた。
第三の目へと咲夜の体中を巡る力が集まって、額に小さな太陽のような光球が浮かぶ。
「吹き飛べ」
光球から光の線が謙信へと放たれると、謙信に断末魔すら上げさず周囲を巻き込んで爆発し、辺り一面を融解させる。
……終わった。何もかも。
こんな化け物みたいな咲夜を受け入れてはくれない、よね。
…………また1人、か。
――ポンッ
軽い破裂音が聞こえ瞬時にそちらを向くと、「毘」の文字が書かれた印籠が落ちていた。
【
……いや、どうでもいいか。
咲夜は体から力が抜けていき、そのまま地面へと倒れていた。
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