第56話 [鬼神]の姿
謙信が放った紫の光が咲夜を包むと、咲夜は咆哮を上げて乃亜と咲夜に圧し掛かられたままゆっくりとその体を持ち上げ始める。
「噓でしょ?!」
「押さえ切れません!?」
乃亜と冬乃が全体重に加え、自らの膂力で咲夜を地面に押さえつけていたけれど、そんなものまるで関係ないかとでも言う様に2人を持ち上げていく。
「穂香さん、今2人が押さえている間になんとか咲夜を治せませんか?」
「む、無理よ。謙信があんなところにいる上に結界も維持しないといけないもの」
直接触れないといけないのに謙信が邪魔をするなんて……。
あとちょっとで咲夜を元に戻してあげられたのに!!
「娘たちにチョッカイかけてんじゃねえ!!」
『おっと。あなたと遊ぶのも面白かったですがそろそろ幕引きといたしましょうか』
「何!?」
宗司さんが剣を振るって棒立ちをしている謙信へと攻撃をしかける。
速すぎて何をしたのか分からないけど、鋼がぶつかり合う様な轟音が周囲へと響き、何故か宗司さんが吹き飛ばされていた。
「ぐあっ!?」
「ソ、ソウちゃん!?」
宗司さんの大剣は大きく宙を舞って地面へと突き刺さり、宗司さんは遠くまでゴロゴロと地面を転がってようやく止まっていた。
しかし倒れたままピクリとも動いておらず、起き上がる気配を一向に見せなかった。
「ま、マズイわ。ソウちゃんが謙信を食い止めてくれてたのに気絶したみたい。謙信を止められる人がいなくなっちゃったわ……」
「ま、マジですか……!」
ヤバいなんてもんじゃない。
謙信は五体満足で、さらに強化される咲夜、スケルトン達は今もバリケードの壊れた箇所から侵入を続けている。
それに対して僕らは、謙信の相手をしていた宗司さんは倒され、大樹達や亜美さん、柊さんはスケルトン達にかかりきりの状況。
さっきまでの咲夜にすら3人がかりで挑んでなんとか取り押さえれたのに、僕らだけでは謙信と咲夜の両方の相手なんて出来っこない……。
『くふふふ。そう心配そうな顔をしないでください。いたずらに苦しめるなど私の流儀に反するのですから、ちゃんと安らかに殺して上げますよ』
それで安心できるわけがないだろ!
まだ乃亜と冬乃が咲夜を押さえつけている間に、何か、何かできることはないのか……!
背中に冷や汗をかきながら必死に何かこの状況を打開する術はないのかと頭を巡らせるも、焦りでアイディア1つ全く出てこない。
「うああああああ!!」
「「きゃあ!」」
「乃亜、冬乃!?」
焦っている間に状況は動いてしまい、咲夜が中腰姿勢まで体が持ち上がった段階で、叫び声を上げながら体を犬のように全身を振るって、必死に押さえていた乃亜と冬乃を引きはがしてしまった。
その振動でか、咲夜の左耳の後ろ辺りで無造作にポニーテールにしていた茶髪混じりのゆるい巻髪は、髪紐がほどけてまとめていた髪が広がっていた。
そうして自由になった咲夜はその場から動かず中腰姿勢で顔を伏せたまま、その体が徐々に変質し始めていくのが見て取れた。
髪の根本から徐々に髪全体へと広がるように真っ赤に染まっていき、まるで返り血でも浴びたかのような色へと変質していく。
それに加えて、白かった肌もそれに呼応するかのごとく全身の肌が褐色へと変わっていった。
それだけに
「これが本気で[鬼神]のスキルを行使した時の姿……?」
初めて見る咲夜の姿に思わず呆然としてしまう。
それは乃亜や冬乃も同様のようで、振りほどかれて尻もちをつかされた状態のまま、咲夜を呆然と見ていた。
『くふ、くふふふふふ。まさかこれほどの力を隠し持っているとは。惜しむらくは鬼であったことですね。毘沙門天の加護を持つ私に鬼を操ることなど赤子の手をひねるよりも簡単な事。
もしも鬼でなければ対等に戦えていたかもしれないのに残念ですね』
謙信は咲夜の変貌ぶりを見て、笑っていた。
咲夜は己の体をゆっくりと持ち上げて、姿勢を正して僕らの方へとその顔を向ける。
そこにはなんと驚くべきことに第三の目が額から縦に開いており、その姿はまさに鬼神の名にふさわしい様相だった。
『素晴らしい。素晴らしいですよ鬼の娘よ! さあ手始めにあなたの後ろにいる小柄な少女から殺すのです!』
「さ、させない!〝光鎖緊縛〟」
『無粋ですよ。〝無為無常〟』
穂香さんが咲夜の立ってる場所から、光の鎖を出現させて咲夜へと巻き付け拘束を試みるも、謙信が槍の刃とは逆の先端部分の石突で地面を突くと、まるで水が蒸発して消えるかのように光の鎖は、近くにあった光の壁諸共消えてしまった。
「の、乃亜ちゃん逃げて!」
穂香さんは焦った表情で何度も光の魔法を放ち、咲夜を拘束しようと試みるけど、その全てを謙信に妨害されていた。
『鬼の娘よ。あなたを縛る物、行く手を阻む物はそのことごとくを私が蹴散らしましょう。さあ行くのです!』
謙信が槍で乃亜を指し示し、咲夜へと指示する。
ピクリと咲夜は体を動かすと、ギュッとその拳を握った。
「ふざけるなああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
『がっ!?』
「「「「は?」」」」
咲夜が
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