第55話 3人がかり
「があああ!」
咲夜が吼えながら乃亜を率先して攻撃しにきた。
『理性があるのか、防御力の高い乃亜を優先して攻撃しにきてるね』
『わたしなら問題ありませんから、冬乃先輩お願いします!』
『分かってる!』
乃亜が大楯で咲夜の拳と脚から繰り出される攻撃を軽々と防いでいるところ、冬乃が咲夜の背後に回って足払いを仕掛ける。
けれども咲夜は軽くジャンプして避け、空中で体を捻って背後へと蹴り返し逆に反撃してきた。
「くっ!」
冬乃は地面を転がってなんとかその攻撃を回避する。
レベル、スキルによる獣人化、僕のスキル補助で身体強化されてるのに、避けるだけでなく反撃まで出来るとか、咲夜は本当に強いな……!
「はっ!」
「があ!」
冬乃を攻撃した隙に乃亜が大楯を振るって攻撃を仕掛けるも、素早く反転して拳で受けている、って後ろに目でも付いているのかってくらい反応良すぎないか!?
囮になる宣言はしたけど、僕が突っ込んで隙が作れるのか不安になってきたよ……。
……いや、やるんだ!
ここでしり込みしてたって現状が変わるわけじゃないんだから、僕に出来ることをしないと。
乃亜が大楯を振るい、時には手で掴もうとし、冬乃が[狐火]や[幻惑]で目くらましをし、足技主体で攻撃を仕掛け続ける中、2人が同時に咲夜に突き飛ばされて軽く距離が空いた。
今だ。
『行くよ!』
一発勝負の博打。
乃亜と冬乃は、出来れば僕が動くチャンスがある前に咲夜を捕まえられれば良かったと思っていたのか、先ほどまで咲夜に必死に攻勢をかけていたけど2人がかりで止められないなら仕方ない。
僕は〔毒蛇の短剣〕はおろか、シャベルすら持たずに特攻をかける。
どうせ〔毒蛇の短剣〕なんて使ったところで、剣も槍も刺さらない咲夜には謙信と同じように傷つけられず、毒を与えることが出来ない。
シャベルだって、僕の力で咲夜を叩いたところで仮に当たったとしてもダメージを負うかすら怪しいところだ。
だったら何も持たずに少しでも身軽に動ける方がいいに決まっている。
足を一歩踏み出すごとに心臓が痛いほどバクバクとしだす。
走ることで酸素を体に運ぶために心拍数が上がっているだけじゃない。
前にダンジョンで咲夜に襲撃された際に受けた時以上の痛みを受けることになるんだから当たり前だ。
痛いのは当然嫌だし、避けられるものなら当然避けたい。
あの時だって裸だったにもかかわらずそれが気にならないくらい痛みに苦しんだのに、それ以上の痛みを受けるなんて狂気の沙汰だ。
だけど……。だけどさ。
大事な仲間が苦しんでる時に何もしないのはもっと嫌だ!
『咲夜。お前は僕らの大事な仲間だ! 絶対に元に戻すから!』
僕は咲夜へと跳び付いて捕まえようとして――
「がああ!」
咲夜の拳を初めて会った時のように、しかし今度はその手は握りこぶしのまま僕の体に叩きつけられた。
「ぐはっ!」
パリンっと僕の周囲を纏っていた光が消えた。
腕に着けていた〔替玉の数珠〕も全て砕け散った。
そして着ていた服は
ビクリと震えて何故か動きを止めた咲夜の腕を掴む。
「痛かった。だけど、耐えたよ」
『先輩!』
『蒼汰!』
乃亜と冬乃が咲夜の横から挟むように突撃する。
咲夜は先ほどまで機敏に動いていたのに、それに反応するのがワンテンポ遅れて動こうとした。
だけど動こうとした時には既に乃亜達が触れられる距離に来ており、腕を掴んでいる僕を振り払って蹴るには近すぎるので拳で対処しようとする。
しかしその前に冬乃に足払いをかけられ転ばされ、上から乃亜が大楯で押しつぶすようにして拘束され動きを封じられた。
『冬乃先輩!』
『分かってるわ!』
乃亜に続いて冬乃も大楯に乗るようにして、咲夜にのしかかり力強く押さえつける。
「ぐがああああ!!」
「くっ、大人しくしてください咲夜先輩!」
「なんて強い力なの……。蒼汰、早く穂香さんを連れてきて」
「分かった!」
腕で振り払われ転ばされていた僕は、すぐさま立ち上がって穂香さんの元へと駆け寄る。
僕も一緒に押さえたところで非力すぎて助けにならないから適切な役割ではあるけど、もっと力が欲しいと思うよ。
「穂香さん!」
「わ、分かってるわ。行きましょう」
離れたところにいた穂香さんがこちらの様子を見て近づいてきていたので、合流して共に咲夜の元へと駆け寄っている時だった。
凄く嫌な発言が聞こえてきた。
『おやおや、そちらは抑えられてしまいましたか。しかしそれでは面白くありませんし、鬼の娘には本気で動いてもらいましょうか』
「なっ、しまった!?」
咲夜へと駆け寄る僕らの横を凄まじいスピードで何かが通りすぎていく。
「こ、〝交差光壁防御陣〟!」
『むっ、硬い。ですが……』
ドカッと何かがぶつかる音がしたけど、それが何かはすぐに分かった。
咲夜達の近くでいつの間にか謙信が立っており、謙信と咲夜達の間に光の壁がXを何重にも重ねて出現していた。
『問題ありません。このくらい近づければ十分です』
「なにをする気?!」
冬乃が咲夜を押さえながら謙信を睨みつける。
『すぐに分かりますよ。〝鬼兵操縦〟。鬼の娘よ、全力でその力を振るいなさい』
謙信が手のひらを咲夜へと向け、先ほどのように紫の怪しい光を放った。
「がああああああああああああああああああああ!!!!!!」
何をしてるんだ謙信!?
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