第54話 防御の重ね掛け


 僕は早速穂香さんへと視線を向ける。


「穂香さん、咲夜をどうすれば元に戻すことが出来ますか?」

「そ、そうね。あの子が操られている原因の謙信を倒すか、私が直接頭に触れてスキルで治してあげれば元に戻せると思うわ。あ、ちなみに私は戦闘力皆無だから期待しないで」

「わ、分かりました」


 戦闘力皆無とは極端だ。

 いや、僕も人の事言えないんだけど。


「それじゃあ穂香さんは少し下がっていてください。僕たちで咲夜を取り押さえます」

「き、気を付けてね。それと3人に〝被膜〟を付与しておくわ」


 穂香さんがそう言って僕らに手をかざすと、僕らの体全体がほんのりと光る。


「ぼ、防御力が上がる魔法よ」

「ありがとうございます!」


 僕は穂香さんにお礼を言うと、咲夜達の方へと視線を向ける。

 咲夜は乃亜に向かって殴る蹴るの肉弾戦を仕掛けているけれど、乃亜が構える大楯はピクリともしなかった。

 けれど、乃亜が隙を見て咲夜に向かって手を伸ばして捕まえようとしても、咲夜は素早く動いてその手を払うか避けてしまって捕まえられそうになかった。


『咲夜先輩はもう先輩のスキルで補助されてないのに、まるで初日に先輩に補助してもらっている時並みの動きをするってどう言う事ですか!?』


 乃亜が何度も捕まえようとして逃げられているせいか、苛立たしげに歯噛みしていた。


『謙信がスケルトンを強化したみたいに何かしてるのかもね。咲夜さんが元から強いってのもあるんでしょうけど、そうじゃなかったら2人がかりでも捕まえられないっておかしいもの』


 冬乃は[狐火]を当てないように牽制で使いながら、乃亜を攻撃している隙に咲夜を捉えようと動くけど、乃亜同様にあしらわれてしまっている。


『なら2人がかりでダメなら3人でいこう』

『いやちょっと待ってくださいよ先輩! 先輩も捕まえるのに参戦するつもりですか?!』

『そのつもりだけど?』

『待ちなさい蒼汰。初めて咲夜さんに会った時のことを忘れたの? レベルが低くて蒼汰の補助もない手加減された攻撃で、あんた全裸にされるほどのダメージを受けてたじゃないの』


 あれは色んな意味で酷い話だった。


『確かに今の操られている咲夜の攻撃を受けたら、今度は全裸では済まずに貫通すらしてしまうかもしれないね。

 だけどだからと言って1人だけこのまま指をくわえて見ていたくないよ』


 僕は泣きながらこちらを睨んでいる咲夜を見て、スキルのスマホを呼び出した。


『咲夜は僕らの大事な仲間だからね』

『先輩……』

『蒼汰……』


 出し惜しみはしない。

 僕は[カジノ]のメダル183枚全てを使用して、あるアイテムと交換する。


 〔替玉の数珠〕:数珠が全て壊れるまでダメージを肩代わりする。


 このアイテムは乃亜のスキル、[損傷衣転]があるから使う事はほぼないだろうなと思ったから覚えていた特殊景品だ。

 ちなみに特殊景品とはメダルの交換枚数が決まっていないアイテムのこと。

 なんせ1枚からでも交換可能とされており、交換枚数に応じてその効果が上がるのだから、メダル次第でいくらでも化けられる代物だ。


 ただ、183枚分のメダルがどれほどの効果を発揮してくれるかは未知数であり、果たしてこれでどれだけ己の身を守ってくれるかは分からないのが不安なところだけど。

 ポーションが10枚で交換できると考えると、単純に考えてポーション18回分だろうか?

 いや、そんな単純ではないだろうけど少なくとも数回分はあると思っていいはず。


『[損傷衣転]〝被膜〟〔替玉の数珠〕でどれだけ耐えれるか分からないけど、僕が囮になる。一撃で沈むかもしれないけど、咲夜が攻撃してきた隙になんとか2人は咲夜を捕まえて』


 僕が2人にそう言うと、2人は苦々し気な表情をした。

 冬乃が[狐火]を放って咲夜を近づかせないようにしながら、僕の方を見る。


『別に蒼汰がそんな命を賭けてまで急いで咲夜さんを捕まえる必要はないのよ? 穂香さんが言っていたけど謙信を倒せば元に戻せるのだろうから、ここで足止めだけするのでもいいんじゃないの?』

『それは出来ないかな』

『何故?』

『謙信を倒せば元に戻るかもしれないけど、その間咲夜はずっと僕らと戦い続けることになる。血を流しながら泣くほど辛いのに何時までもそんなことさせたくないよ。それに……』

『それに?』

『もしも謙信に逃げられて、咲夜も一緒に連れてSランクダンジョンに入られたら、助けるのが困難になる』

『『っ!!』』


 2人もその可能性に気づいたのかハッとした表情で謙信を見る。


『くふふふふ! やるではありませんか。今まで戦ってきた敵の中で10本の指に入るほどですよ』

「ちっ、余裕で攻撃をさばくやつが何言ってやがんだ!」


 謙信と宗司さんは高速で動いていて何をしているのかサッパリ分からないけれど、声を聞く限り今は余裕があって人を殺す使命のためにこの場に留まっている。

 だけど不利になった途端逃げないとは限らないから、出来るだけ早く謙信から咲夜を解放させた方がいいに決まっている。


『急ぐよ2人とも!』

『分かりました!』

『分かったわ!』

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