第53話 溢れるもの

 

「大丈夫か乃亜!」

「うん、お父さんが守ってくれたから平気だけど、どうしてここに?」

「ふんっ! ああ、単純な話父さん達が【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】への対応要員だからな」


 そう言いながら手に持つ大剣で受け止めていた槍を、謙信ごと弾き飛ばしていた。


「お父さん達、対応要員に選ばれるほど強かったの!?」

「まあ予備戦力だから、今朝【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と直接相対したやつらほどじゃないけどな。そいつら他のとこで出た【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と相対してるから時間稼ぎに父さん達が来たんだよ」


 そういう理由で宗司さん達が来てくれたのか。


「ところで乃亜。なんでメイド服なんだ?」

「先輩のスキルの効果で、これを着てるとパワーアップするんです」

「ほう……」


 宗司さんの「てめぇの趣味か? あん?」とでも言いたげな目線がキツイ。

 けして僕の趣味ではないと言いたいけど、宗司さんのあまりの眼力に直視できず、僕はスッと視線を逸らすと、視線を向けた方向から穂香さんが駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫? 今、拘束を解いてあげる。[光魔法]〝浄化〟」

「あ、ありがとうございます穂香さん」


 穂香さんは目にクマがあって常に顔色の悪そうにしており、肩まであるゆるいパーマのかかっている髪をボサボサのままにしているせいで、イメージ的に科学者や呪術師のような人だから[光魔法]を使うのは意外だと思ってしまう。


「おい、ポーション飲めるか?」

「……あ、あざっす」


 ふと大樹の方を見ると、柊さんが大樹の頭を支えながらポーションを飲ませていた。

 長い金髪をポニーテールにしており、目つきの鋭い人で耳に複数のピアスを着けているけど、ヤンチャそうな見た目に反して結構面倒見のいい人だ。


「いくわよ~」

「嘘でしょ……」


 そしてもっとも意外なのは亜美さんだ。

 乃亜の実母であり、身長も乃亜と同じくらいの人で見た目もとても良く似ている親子だけど、乃亜と違ってショートヘアーにしている。

 しかしそのほんわかとした穏やかな雰囲気でありながら、持っている武器がモーニングスターってマジか。


 冬乃が思わず呟きを漏らしてしまうのも分かるよ。

 なんせ謙信によって強化されているはずのスケルトン達をモーニングスターを振り回して笑顔で叩き潰しているからね。

 冬乃達がどれだけ頑張っても倒せなかったのに一撃ですか……。


『次から次へと面倒ですね』


 援軍の高宮家を見てか、謙信は面倒臭そうにため息をついた。


「だったら娘の友人を元に戻して、ダンジョンに帰ってくれるとありがたいんだがな」

『それだけはありえませんね。人を殺すことが私の使命なのに、それをほとんどなさずに撤退するなどあってはいけませんから』

「じゃあ戦おうってか? うちの嫁がここいらにいるスケルトンは全て潰しちまったから、残りはあんた1人なんだが」

『1人? 今もあなたの娘を攻撃してくれている頼もしい方がいますし、それにそろそろ……』


 謙信がそう言って、2つ目のバリケードの扉を見るとヒビが入っていた。


 ――ドゴンッ!


『よいころ合いです。これで人数差は逆転しましたね』


 バリケードの扉は壊されて、そこから戦斧持ちや陰陽師リッチが入ってくる。

 普通のスケルトンだけならこうも簡単に壊されなかっただろうに、この2種のせいでこんなにも早く壊されてしまったみたいだ。

 壊れた箇所からその2種以外にも普通のスケルトン達も侵入してきていた。


「ちっ、そう都合よくはいかねえか。おい、お前ら! 俺はこの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に集中するから、お前らはスケルトンが近づかないようにだけしてくれ!」


 宗司さんはそう言うや否や、謙信へとその大剣を高速で叩きつけていた。

 あまりの速さに振り下ろしているのか、薙ぎ払っているのかも目で追えないほどだったけど、謙信は普通にそれに対処していた。


「よし、てめえら。あたしらが率先してあの骸骨どもをぶち殺すから手伝え」


 そう言って柊さんは刀を手にして立ち上がった。


「いや、オレ達じゃあいつら硬すぎて倒すことも出来ないんっすけど……」

「構わねえよ。出来る限り1箇所に密集するようにしてくれたり、その場でとどめてくれるだけでも十分だ」

「了解です姐さん!」

「いや、誰が姐さんだよ……」


 大樹がそう言ってしまうのも分かる貫禄だね。


「乃亜のパーティーと穂香は四月一日わたぬきを正気に戻してやりな」

「わ、分かったわ」


 穂香さんは柊さんの言う事に頷いたけど、僕と冬乃はその指示に疑問に思った。


「私達もですか? スケルトンの足止めを手伝った方がいいんじゃ?」

「手が足りなくなったら手伝って欲しいが、あの程度ならあたしらだけで十分だ。それよりも四月一日わたぬきのやつをどうにかしてやるのが先決だ。仲間だろ?」


 そう柊さんに言われて僕らはハッとした。


「ええ、分かったわ!」

「分かりました!」

「いい返事だ」


 柊さんニヒルに笑ってそう言うと、鞘から刀を抜いてスケルトン達に向かって駆けていく。


「じゃあ一つ暴れるとすっか!」

「うっす!」


 大樹がまるで舎弟みたいになってるけど、そんなことはどうでもよかった。


「がぁああああ!」

「大丈夫です咲夜先輩。この程度ではわたしは傷つきませんから気にしないでください!」


 それよりも咲夜と乃亜だ。

 先ほどから咲夜の攻撃を受けている乃亜だけど、咲夜に話しかける余裕すらあるようで安心した。


「手伝うわ。咲夜さんを元に……」


 咲夜達に近づいて行った冬乃が乃亜にそう話しかけようとして、何かに気づいたのか途中で言葉を途切れさせてしまった。

 一体どうしたんだろうか?


 僕も穂香さんと一緒に戦闘に巻き込まれないように咲夜達の元へと近づくと、その理由がすぐに分かった。


「咲夜先輩が望んでこんな事していないって分かっています。だからください!」


 咲夜の瞳からは大粒の涙がとめどなく流れていて、唇をよほど強く噛んだのか血も流れていた。


「咲夜さん……」

「咲夜……」


 僕はそんな咲夜の姿を見て拳をギュッと握っていた。


「必ず元に戻すよ、咲夜」

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