第32話 すっごく簡単だったのにすごく大変

 

≪蒼汰SIDE≫


『誰がハートの9を止めているのニャ!?』

『さあ?』

『諦めてパスしたら?』

「何してるんですか先輩?」


 中々戻ってこないなぁと思いつつウサギと猫と一緒に七並べをしながら待っていると、ようやく乃亜達が戻って来た。


『あっ、おかえり~』

「いや何を呑気にあいさつしてるんですか。ウサギと猫と一緒に遊んでいる場合ではないでしょ!?」

『いや、ごめん。猫が『暇なら遊ぶニャ』って言ってきたから、遊ぶついでに何か情報聞き出せないかと思って』

「あ、ちゃんと理由があったんですね」


 さすがに何の理由もなくこの2匹と遊んでいたりしないよ。


「じゃあ何か情報は聞き出せたの?」


 冬乃がそう問いかけてくるけれど、ハッキリ言ってそこまで重要な情報は聞き出せてないんだよね。

 ただ唯一まともな情報が1つ。


『物事には順序があり、【アリス】は物語のメインとなる、だって』

「どういう意味なんですかね?」

『さあ? 【アリス】が全然見つけられないからどこにいるのか聞いたら、そう返答されただけだし』


 猫をゲームで散々イジメ倒していたら、しょぼくれた猫が『クラブの8を出してくれるなら【アリス】について少し教えてやるニャ』とか言い出したんだよね。


「物事には順序ってことは、〝鍵〟を手に入れてからじゃないと【アリス】が見つけられないってことでいいのかな?」


 ソフィアさんの予想だけど、かなりの時間探して【アリス】が見つからない以上そう間違っているとは思えないね。


「やっぱりそうなのかしら。とりあえず2つ目の〝鍵〟は手に入れたし、あと3本集めないとね」

『あ、2本目も手に入れたんだ。そこそこ時間がかかったみたいだけど大変だった?』


 確か乃亜達が向かっていた所にいたのは【空腹のヤ=テ=ベオ】だったはず。


「そうですね。わたし達3人ではとてもじゃないですけどクリア出来ませんでしたよ」

「私達がミノタウロスを捕まえていたら、後から他の人達がやってきて手を貸してくれたのよ」

「そうじゃなかったらワタシ達はまだミノタウロスを集めるのに奮闘していたんじゃないかな?」


 どうやら新たな協力者達がキャラクターをある程度強化し終えたから、ボスのいる場所に行こうとしたところで乃亜達と遭遇したんだろう。

 その人達は乃亜達と同じで〈ガチャ〉を回しておらずポイントもそれなりにあるから、必要数のミノタウロスを捕まえきれたんだね。


「ただいま」

『あっ、咲夜達も戻って来た』

『すっごく簡単だったのにすごく大変だったのです』


 アヤメが何を言っているのか分からないよ。

 簡単なのか難しかったのかどっちなんだ。


「まさか耳栓を渡すだけでクリアするなんて誰も思わないだろ」

「……安眠妨害する【Sくん】を排除する必要なんてなかった」


 さすが信長ローリー

 寝るための道具を渡すだけでクリアできるとか怠惰の化身なだけある。


「咲夜先輩達はポイントは使わなかったんですか?」

「必要なかった、よ。耳栓を手に入れる時だって和室の中のものを漁ってたら出てきただけだし」


 咲夜はそうあっさりと言ってのけるけど、信長ローリーのいた場所って中が異常なまでに広い寺で、部屋が大量にあったから耳栓1つ探し当てるのは結構大変だったんじゃないかな? 【Sくん】の相手をするよりはマシだろうし、新たな協力者達が人海戦術で部屋を物色したから楽だったんだろうけど。


「咲夜さん達はポイントを使わなかったのね。私達はかなりのポイントを使わされたわ」

「まあ〈ガチャ〉なんて回す気ないから復活分あれば十分だよ」


 ソフィアは肩をすくめて何でもないことのように笑っていた。

 実際ポイントなんて〈ガチャ〉くらいでしか使わないだろうし、使えば最後ガチャ欲の海に溺れるだけだからね。


「それよりもあと2本。とっとと手に入れていい加減この世界から脱出しようか」

「ソフィア先輩に賛成です! 外の事も気になりますし、世界中が先輩で溢れてしまう前に何とか片を付けたいですからね」

『待って乃亜。溢れてるのは僕じゃなくて【Sくん】だから』


 あれとイコールにされると、色々な人から恨みを買う事になるから勘弁して欲しい。

 僕を元に生まれた存在とはいえ、僕が意図的に世界中に送り込んでいるわけではないのだから。


『そんな事はどうでもいいニャ。お前の番になったんだから早くハートの9を出すニャ』

『あ、まだやるの』


 みんなが戻って来たからゲームは終わりかと思ってたのにまだ七並べをする気だなんて、相当負けず嫌いだな。


『当然ニャ。勝つまで終われないニャ』

『じゃあ次負けたらまた【アリス】の情報でも吐いてもらおうか』

『ぐぬぬ、仕方ないニャ』

『いや待ちなよ。仕方なくないから』


 ウサギが猫を止めようとしているけど、猫は首を横に振って駄々をこね始めた。


『嫌ニャ嫌ニャ! 1回も勝てないなんて絶対に嫌ニャ!!』

『この猫、相当運が悪いな』

『そうだよね。普通七並べで最下位になり続けるだなんて有り得ないよ』


 僕とウサギは揃って猫を哀れむようね目で見ていたけど、猫は僕らのその目に気付かず自身の手札と場に並べられているカードを凝視していた。必死過ぎる……。


『じゃあ僕はこの猫から情報を聞き出せるだけ聞いておくから、みんなは残り2つの〝鍵〟をよろしくね』

「はい、任せてください先輩!」


 残り2つ、【煩悩の仏】と【飾りたがりのドッペルゲンガー】。

 ……この2つなら【煩悩の仏】の方には行きたくないだろうけど、どっちが行くつもりなんだろうか?


「ではクジで決めますか。【煩悩の仏】とか名前的に会いに行きたくないですし」

「あの試練は本当に大変だったわよね」

「うん。……蒼汰君が我慢強かったのがちょっと残念」

「分かります」


 あの試練は思い出すのも恥ずかしいから勘弁してください。

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