第44話 ……なんかごめん

 

 僕は大樹と話をつけた後、すぐに3人の元に戻った。


『大樹達は三分の一までなら何とかなるそうだから、残りの範囲を僕らで殲滅しながら前に進むことになったけど、いけるよね?』

『問題ないですね。昨日だってこのパーティーだけで出来てましたし、範囲が狭い分むしろ楽な方だと思います』


 乃亜が昨日よりはマシだと言っているけど冬乃には伝えておかないといけないことがある。


『あ、でも、陰陽師リッチは大樹達じゃどうにもならないらしいから、それが出たらこっち、というか僕と冬乃で対処しないといけないよ』

『あいつら結界張るから、よっぽど火力があるか結界に対して有効打がないとどうしようもないから、しょうがないわね』


 僕らは早速行動を開始した。

 乃亜達3人は範囲が狭い分、昨日よりも敵を殲滅するスピードが速く、大樹達が受け持つ範囲を割り込まないと大樹達との殲滅スピードに差がでるほどだった。

 たまに普通のスケルトンに混じって戦斧持ちが現れるけれど、そいつがこちらに攻撃しに向かって来た瞬間には、咲夜が乃亜の手助けなしにも関わらず即行で叩き潰していた。


『相変わらず咲夜が凄いね』

『ホントですね。いざとなったら援護しようと思ってましたけど、咲夜先輩が倒すの早すぎて手助けする暇すらなかったです』

『普通のスケルトンよりも戦斧持ちが立派な鎧を着ててもなんの関係もなく倒すんだから、私達の出る幕が無いわね』

『えへへ……』


 優先的に対処して欲しいとは言ったけれど、戦斧持ちがこちらに攻撃を仕掛けられそうな距離に入った途端、真っ先に移動して倒してくれるとは思わなかったよ。

 お陰で陰陽師リッチに集中できる。


『来たよ、冬乃』

『見える範囲では3体いるわね。それじゃあ早速行くわよ』


 陰陽師リッチが確認できた時には、既に〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕を起動させて、手に持つ大量の弾にまとわりつかせてある。

 冬乃が[狐火]を放つ前に、僕は急いでその弾をまとめて空に向かって3回放った。

 その弾が3体いる陰陽師リッチの周辺に落ちるように。


『[狐火]』


 放たれた[狐火]はまるで蛇のごとき動きで、他のスケルトン達を避けながら陰陽師リッチへと向かっていく。

 それを見た陰陽師リッチはすぐさま結界を張って、冬乃の[狐火]から身を守るがその前に届いた物があった。

 それは雨の様に空から降りそそいだ弾であり、見当違いのところに落ちたのもあるけれど、たった1発当たれば十分だ。


『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってね』


 〔忌まわしき穢れはブラック逃れられぬ定めイロウシェン〕はたとえ複数回当たっても、当たる度に結界の効果が反転する訳じゃなく、1度だけしか反転しないから出来ることだ。


 放った弾が結界に当たった箇所からその結界は薄めた墨汁がかかったかの様に色が変わっていき、[狐火]が到達するころには結界の色が完全に変わってしまった。


 ――ドオン!!

 ――ドオン!!

 ――ドオン!!


 [狐火]が着弾すると、花火のようにテンポよく3回爆音が周囲へと響く。

 〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕の時ほどではないけれど、結界そのものが爆弾になって、陰陽師リッチの周囲にいたスケルトンをまとめて吹き飛ばしていた。


「はぁああ!? なんだそりゃ!!?」

「すっ、凄いんだな。おいらの土魔法じゃビクともしなかった結界が一撃なんだな!」

「これが狐っ娘メイドの力だと言うのか……!」

「大変驚きました。頼もしい限りですね」


 大樹達が驚き思わずこちらを見てきているけど、スケルトン達はその爆発に気を取られることなく向かって来てるんだから、そっちを倒しなよ。


 疑似的な爆弾となった陰陽師リッチのお陰でスケルトンの数が一気に減ったので、僕らはドンドン前に進んでいき、順調にスケルトン達の殲滅をすることが出来た。


『そろそろいいんじゃないかな?』

『そうですね。それでは先輩、向こうの方々に合図を出してください。バリケード入口近くまで戻りましょう』

『乃亜達が合図してくれてもいいんだよ?』

『ごめんなさい先輩。生理的に無理、ではなく戦闘中なので手が離せなくて』

『私も嫌よ。ちゃっちゃと合図してよ蒼汰』

『合図、しようか?』


 乃亜と冬乃は完全拒否。咲夜は別に合図を出してもいいと言ってくれてるけど、乃亜が言うように戦闘中だし、普通に考えて、後方支援している僕が合図を出す方がいいのは分かってる。

 なんとなく聞いてみただけだけど、予想通りと言うか予想以上の反応だった。

 ……そうか、生理的に無理って言っちゃうほどなんだ。

 僕もその意見には同意するけれど。


『いや、僕が合図するよ。「全員、バリケード入口まで全力で撤退して!!」』


 そう言うや否や、僕らのパーティーはすぐさま入口に向かって駆けだしていき、大樹達のパーティーも少し遅れて急いで向かって来た。


「おい、どう言う事だよ蒼汰!? せっかくここまで殲滅出来たのに、なんで下がっちまうんだよ」

「いいから、いいから。大樹達はさっきと同じで、右側から来る倒し損ねた敵の処理をお願い」

「お、おう……」


 納得いっていなさそうな大樹達を後目に、僕はスキルのスマホを取り出し、冬乃の〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕を呼び出した。


「それじゃあよろしく」

「オッケー。〈解放パージ〉!」


 ――ドオンッ!!


 〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕から放たれた炎は、先ほど陰陽師リッチ爆弾のように周囲のスケルトン達を派手に吹き飛ばして、一気にスケルトン達の数を減らしていく。

 〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕の再召喚で何度もスケルトン達を吹き飛ばし、入口近くに来れるスケルトン達はごくわずかだった。


「すげぇ。でも、2カ月前に冒険者になったばかりの蒼汰のパーティーに戦闘力で明らかに劣ってるのが悲しいぜ……」


 ……なんかごめん。

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