第3話 立役者

 

「買い物しに行っただけなのに、またしばらくはあの店に行くのが躊躇われることになったんだよね」

「蒼汰のせいじゃない」


 1回ガチャをするだけのつもりだったのに……。

 リアルガチャにはそこまで興味がないとはいえ、デジタルな方が全然ガチャれない禁断症状がちょっと顔を覗かせて、リアルでも回したくなっただけじゃないか。


「いくら先輩のお金でも、あのガチャはないと思いますよ。さすがに1回で回す金額にしては高すぎます」

「20万を1回で使っちゃうのはどうかと思う、よ?」


 咲夜の目が乃亜や冬乃と違って呆れたりしているのではなく、こっちを本気で心配しているような目になっているだけにグサッとくるものがある。


 ち、違うんだ。

 これは全て課金ができないせいで満足にアプリのガチャを回せないからであり、代償行為を欲してつい動いてしまっただけなんだ。

 うん、何もかも課金ができないのが悪い。


「いえ、課金ができないのが悪いのではなく、先輩の自制心が足りないだけかと」

「何故考えている事が……」


 心を読んでくるのは止めようよ。


「先輩はそれに関してはとても分かりやすいので、何を考えているのかすぐに分かりますよ」

「乃亜ちゃん凄い。咲夜も分かるようになりたい」

「分からなくていいと思うわよ咲夜さん……」


 僕らがアドベンチャー用品店での事を話しながら、とある建物の会議室で、学校の教室みたいな並びをした椅子に座って待っている時だった。


 ――コンコン、ガチャ


「失礼します。……あれ? 何で鹿島君達がここに?」

「あ、矢沢さん」


 扉を開けて現れた人物、それは僕らが短期留学した冒険者学校で生徒会長をしていた男の娘の矢沢恵さんだ。

 男らしくなりたくて冒険者学校に入学したにも拘わらず、[アイドル・女装]というデメリットスキルのせいで強制的に女装をしなければいけなくなった、ある意味悲しい過去を持つ人である。


 現在もボーイッシュな服装をしているけれど、どちらかというと女性よりに見える恰好をしている。


 そんな彼じy――彼が今回のSランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】討伐に対し、今まで拒否していた実力のある冒険者達の首を縦に振らせた立役者だ。


 矢沢さんの[アイドル・女装]には限定的な蘇生が可能な派生スキルがある。

 つまり死んでも生き返ることができるため、Sランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】相手にができたのだ。

 その効果は冒険者学校がダンジョン遠征に行った時に実証済みで、100人近い人間をまとめて蘇生した実績がある。

 それもあって今まで参加を拒否してきた人達は参加を示したんだろう。


 僕らだってそうだ。

 正直矢沢さんが来るって聞かなかったら間違いなく参加することはなかったと思う。


「僕らも矢沢さんと同じように今回の討伐に参加を要請されまして」

「そうなのかい? だけど迷宮氾濫デスパレードの時とは比較にならない強さの敵と戦うことになるらしいんだけど、大丈夫?」


 その心配はもっともだけど、僕らも矢沢さんと同じように戦うのがメインではなく、補助する目的で来ているので問題ない事を説明すると、すぐに納得と同時に苦笑していた。


「安全地帯を創れるようになったのは凄いけど、そのせいで大変な事に参加する事になったね」

「確かにそうですけど、自分達で参加することに決めたので」


 死んでも矢沢さんの力で生き返れるし、さらに〔紡がれた道しるべアリアドネ ロード〕でいざという時ダンジョンの外に逃げられるので、よっぽどな事がなければ大丈夫だと判断したからね。

 ……でもいくら生き返れるとはいえ、死にたくはないからできるだけ矢沢さんの力には頼りたくないところだ。


「ところで矢沢さん以外の方はどうしたのですか?」

「自分以外は参加できなかったよ。いくら生き返れるとはいえ危険であることには変わりないからね。

 でもダンジョンに潜る時はいつもケイ達とだから、そのケイ達がいないのはちょっと残念かな」


 乃亜が周囲を見渡しながら問いかけると、矢沢さんは少し寂しそうな表情でそう言った。


 確かに僕がもしも矢沢さんの立場だった場合、乃亜達がいなくて1人だけでダンジョン、しかもSランクのダンジョンに行くことになったら、かなり心細いと感じるだろうね。


「だけど鹿島君達がいて嬉しいよ。見ず知らずの人達しかこの場にいないと思っていたからね」

「そう言っていただけると嬉しいです」


 その後、矢沢さんと喋っていたら次々と人が会議室へと入ってきて、好きな席へと座りだした。


 ――モグモグモグ


 色々な人が部屋に入ってくる中で一番インパクトのあった人が、部屋に入る前からずっと〔マジックポーチ〕から何かを取り出して食い続けている細身の男の人だ。

 よくもまあそれだけ食えるなと言いたくなるくらいずっと食べている。


 テレビの大食いだと汚らしく食べる人も結構いると思うけど、この人はキレイにかつあまり音を立てずに食べ続けるので、気持ちのいい食べっぷりだと感じるよ。

 しかし、何故会議室の場でも食い続けるのかと言いたい。


 その男の人に注目している内にいつの間にかドンドン席が埋まっていて、ある程度席が埋まった段階で見覚えのある人物が現れ、僕らの前で自己紹介を始めた。


「私は白鷺三尉だ。諸君らの大半は今年の迷宮氾濫デスパレードに参加していただろうから覚えのある者もいるだろう」


 以前参加した迷宮氾濫デスパレードの指揮をとっていた人が来た。

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