第18話 文化祭・1日目(5)
『兄を、殺す?』
『正確には、これ以上あの男が罪を犯さないようにしたい、かな。監獄でも地獄でもいいからこれ以上被害者を出すような事が出来ない場所に送れればいいんだ』
デッドオアアライブってことね。
『兄なのに?』
『血縁上はそうだけど、それをあまり認めたくはないな。
あの男は“平穏の翼”っていう組織に入ってるらしく、この日本でも何人ものユニークスキル持ちを殺しているせいで、ワタシはその被害者の親族に狙われた事があるくらいだし』
まさかここで“平穏の翼”の名前を聞くことになるとは。
あの組織には僕らも大変な目に……赤ちゃんにされたインパクトが強くて、平穏の翼=赤ちゃんという妙な図式が頭に浮かんでしまうなぁ。
『日本人に狙われたことがあるのに日本に来たんだ。その人達がまた狙ってくるかもしれないのに大丈夫なの?』
『狙われても返り討ちにできるさ。それに狙われたのはワタシが8歳の時だし、成長して容姿は変わってる上に、名前まで変えたから気づかれることはほぼないよ』
外国人の容姿を判別するのは難しいと言うし、さらに小学生から高校生まで成長した上に名前まで変えられたら、仮にその被害者の親族の横を通り過ぎてもその人達が気づくのはほぼ無理だろうね。
『ソフィアさんが日本に来ても問題ないのは分かったよ。
それはいいとしてお兄さんが“平穏の翼”にいるって分かってるなら、その組織を調べれば済む話なんじゃないの?』
『向こうはそんな人物はいないの一点張りで相手にされないんだ。どうにかして証拠を掴みたいんだけど、人手も資金も満足にない状況ではそれも難しくてね。
そういう訳で2つあるSランクダンジョンの【
なるほどね。言いたいことは分かったけど疑問が1つ浮かんだので、それをそのまま聞いてみることにする。
『なんでそんな事まで僕に話してくれたの?』
特にお兄さんの話は普通ならあまり言いたくない事だと思うのだけど。
『ソウタには下手なハニトラなんかより、誠実に本心から接した方がいいとこの数日で判断したのさ』
「(誘惑しても悲しいくらい反応してくれないし)」
『今何か言った?』
ソフィアさんがぼそりと何かを呟いたようだけど、なんて言ったか聞こえなかったので聞き返したら、首を横に振ってどこか悟ったような表情で気にしないでと言われてしまった。
そんな去勢された犬猫を見る様な目で言われてもな~。
『さっきの話はソウタにとっても他人事じゃないだろ?
わざわざ身内の恥まで晒したのは、ソウタ達もあの男に狙われる危険が全くないわけじゃないと分かるし、ユニークスキル持ちを殺そうとしてくる男を捕まえるためにも協力した方がいいと思ってくれるかもしれないからね』
一度“平穏の翼”に命を狙われた身としては確かに他人事だと言って切り捨てるのは難しいよ。
“平穏の翼”なんてユニークスキル持ちは隔離しろって訴えてる程度の組織という認識――すら襲われる前まで頭に残ってなかったような組織だったけれど、殺されかけてからは危険な組織だという認識な訳だし。
『そう言われるとソフィアさんに協力した方がいいかもしれないと思うけど、その話が本当だという証拠はないよね』
僕らが“平穏の翼”に襲われた事を知って、作り話を用意した可能性もないわけじゃないし。
『そこは信じてもらうしかないけれど、サイラス・ベネットで検索したらユニークスキル持ちを殺しまくってる男の名前が出てくるよ。
あ、言っておくけどワタシの前でその名前は口にしないで欲しいのと、周囲に聞いて回ってワタシがその男となんらかの関係があることを悟られないようにするように』
『分かったよ』
そう言って僕はスマホでサイラス・ベネットと検索したら、アメリカと日本でユニークスキル持ちを殺していて国際手配されているのが分かった。
さらにこの人物は両親をユニークスキル持ちに殺されていることが分かり、加えて妹の存在もほのめかされていた。名前までは分からなかったけど。
『ソフィアさんの前の名前が出てこないんだけど』
『当たり前だよ。証人保護プログラムを受けて名前を変えたし、そもそも当時8歳の少女の名前が犯罪者の名前と一緒に検索できる方が問題だと思うんだけど』
そりゃそうか。
『それで少しは納得した? 納得したならイギリスよりもアメリカを優先して欲しいんだけどな』
『そんな事言われても、僕だけで決められることじゃないって分かるよね? そもそもそんな依頼の話聞いてないし』
『いずれ来た時のための根回しだよ。ソウタ達を他の国の人間から守るのが主な目的だから、そこまでしつこく言う気は無いから安心していいさ』
『あれ? 勧誘が主目的じゃないの?』
『いや、それはついでにできればいい程度だよ。本来の目的は他の国への牽制。そういう訳だから今まで通り接してくれればいいよ』
『さっきまでの話を聞いて今まで通りとか……。あ、さっきの話は乃亜達、僕のパーティーメンバーに話してもいいよね?』
『パーティー内だけの話にしてくれるならね。家族とかに言わないよう固く口止めしてくれよ』
『分かったよ。これで話は終わりだよね。それじゃあこのイヤホンは返すよ』
『別にいいさ。ワタシと内緒の話をするのに便利だからあげるよ』
『それを言われたら余計に返したいんだけど。これ以上浮気を疑われたくないし』
彼女以外の人物と内緒話ができるアイテムとか、浮気を疑われるもっともな物じゃないか。
ただでさえコスプレの件で乃亜達の気分を害しているというのに、トドメにこれとか僕がどんな目に遭うか分からない。
いくつか最悪な展開が予想されるけど、さすがに監禁エンドとかはないよね?
あの3人に実力行使されたら抵抗できないんだけど。
お金もあるから働かなくてもいいし、ガチで出来てしまうので現実味を帯びてて怖いよ。
『そう言われたら仕方ないね』
「(実際それに近い目的で渡そうと思ってたし)」
僕がどうしても返そうとする意志を感じたのか、ソフィアさんは仕方なさそうにイヤホンを受け取ってくれた。
危険な未来へのフラグはへし折っておかねば。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます