第19話 文化祭・1日目(6)

 

 ソフィアさんと内緒話をした後、しばらく受付で適当に人を捌いていると先ほど別れた乃亜達がやってきた。


「先輩、来ましたよ~」

「あ、来てくれたんだ」

「さっき咲夜のクラスに来てくれたし、咲夜も蒼汰君のクラスでやってる催しを見たかったから、ね」

「咲夜さんの言う通り、どんな動画撮ったのか気になったもの。わざわざコスプレまでして撮ったんでしょ?」

「コスプレしたのは大樹とソフィアさんだけだよ」


 ステータス開いてパーティー組める人じゃないと、僕のスキル適用されないし。


「ねえねえ。ソウタと彼女達の仲がいいのは分かったから、教室に入るなら早く入りなよ。

 他の人が君らの作るイチャラブ空間に耐えられなくて寄って来れなくなってるんだからさ」

「あっ、すいません」

「ゴメン」

「い、イチャイチャなんてしてないじゃない!?」


 冬乃の言う通り、そんな甘い会話をしたとは思えないんだけどな。


「首を傾げているけど無自覚なんだねソウタ。傍から見たら距離感や雰囲気が付き合いたてのカップルだったよ」

「そ、そう見えたの?」


 周囲にそんな目で見られていたとかちょっと気恥ずかしい。

 外で堂々と食べさせ合った時とはまた違う恥ずかしさに照れてしまうな。


「それでソウタの彼女3人は動画を見ていくってことでいいのかな?」

「はい。せっかく来ましたし、先輩のカッコいいところを見て行こうかと」

「別に動画はソウタだけを撮ったわけじゃないけどね」


 あんまり期待されてもなぁ。僕がしたことなんて遠くからペットボトルを投げたくらいだったと思うよ。


 乃亜達が教室に入っていき、しばらくした後に動画の上映が始まった。


 まず最初に映ったのは教室の自分の席と思わしき場所に座りながら友人と2人で話している男達だ。

 なんでもない何気ない日常。

 その光景のはずが突如として流れ出す軽快なBGMと画面の下から現れた、ビデオカメラを擬人化したような人物が躍り出し始め、よく聞くアナウンスが流れだす。


『劇場内の映画の撮影は――』


 この動画を見たとき、まさか映画泥棒を再現していたと知らず思わず笑ってしまったよ。

 だれが高校生の作ったカッコいいだけの動画をわざわざ撮っていくんだろうかと言いたい。


 NO MORE 映画泥棒が終わりようやく本編へと突入すると、まず現れたのは5人の男女。

 その人物達が椅子に座り、遠くから5人同時にペットボトルをゴミ箱に投げ入れ次々と吸い込まれるように入っていく。

 動画の中の人物達はそれが当たり前だというように平然としており、その態度が少しカッコいいと思わせられるかもしれない。

 そんなシーンが次々と流れだしていった。


 ペットボトルをサッカーボールのように蹴ってゴミ箱に入れる。

 読み終わった本を後ろを見ずに投げて本棚の隙間に戻す。

 2つ後ろの席の人間から借りた消しゴムを投げ渡されて受け取り、使用した後後ろを見ずに投げ返してその人物の筆箱の中に戻す。

 校舎2階から投げ渡されたペットボトルを背面キャッチして、それを飲み、後ろ向きでその人物に投げ返す。


 そのような普通は中々難しい動作をあたかも当然といわんばかりの態度で次々と決めていく動画。

 実際には撮るのに何度も失敗しており、1つのシーンを撮るのに物凄く苦労しているのは思い出したくもないくらいだけど。


『『おかえりなさいませご主人様』』


 撮るのが大変だった事を思い起こしていたら、大樹とソフィアさんの執事とメイドのシーンへと切り替わり、場内が少しざわついた。

 わざわざコスプレ、しかも割と本格的な衣装なのだから、見ている方としてはこんなものまで用意したのかと思うのかもしれない。

 実際には僕のスキルで出しただけなので、手間暇など全くかかっていないのだけど。


『お召し物をお預かりします』


 そう言いながら動画の中の大樹はご主人様と呼ばれた委員長の坂下君から上着を受け取ると、流れる動作でハンガーにその上着をかけノールックでラックに向かって投げると、他にもあった上着の間にピッタリと収まるようにかけられる。


『こちら飲み物でございます』


 つぎにソフィアさんがどこから取り出したのか、飲み物の入ったペットボトルを絶妙な角度で投げ、委員長の机の上をスライドしてピタリと立った状態で置いていた。

 何回見ても思うけど、メイドなのに主人に向かって飲み物を投げ渡すのはおかしいんじゃないだろうか?


 ちなみにこのご主人様役、ソフィアさんのご主人様になりたいと男子達の希望多数だったため、厳正なくじ引きのすえ委員長に決まったのは言うまでもない事か。


 執事とメイドが華麗(?)な技を決めたところで、画面にはENDの文字が出てきて終わり――ではなく、ここからはNG集。


 よくある映画なんかの最後のオマケで、撮影時のNGを流すやつだ。


 ペットボトルをゴミ箱に蹴って入れた後勢い余って後ろの壁に激突し、腰を負傷していたり、2階から投げたペットボトルをゴミ捨て場に向かっている人物のゴミ箱に入れるはずが頭に当たってしまい負傷するNG。

 難しい技に成功して平然とした態度でいないといけないのに思わず喜んでしまうNG。


 動画を撮るのがどれだけ大変だったのかが分かるNG集が次々と流れ、最後のシメとしてこんな一文が流れてきた。


『※危険ですので物を投げて人に渡したりゴミを捨てたりするのは止めましょう。ケガをします』


 ペットボトルとはいえ痛いものは痛いよね。

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