第20話 文化祭・1日目(7)

 

 乃亜達が動画を見て去って行った後、そこそこ人が来るので少しばかり忙しく受付の仕事をこなしていたらいつの間にか時間になっていて交代の人達が来たので、僕は咲夜に連絡して合流する事にした。


「蒼汰君お疲れ様」

「ほとんど座ってただけだし、2時間程度しか受け付けしてないから大して疲れてないかな? 咲夜は大丈夫?」

「うん。〈ジェットコースター〉でも木の箱運んだだけで、疲れる様なことしてないし」


 他の人が2人がかりで運ぶような事が労働に入らないとか流石すぎです。

 普段僕らの前衛で魔物を殴り飛ばしているだけあるよ。


「それじゃあどうしよっか? 蒼汰君とこうして2人っきりで行動するのは何気に初めてだよね」

「いつもは乃亜や冬乃と一緒に行動しているからね」


 よくよく考えると女の子と2人っきりで行動するのってこれが初めてなのでは?

 一応乃亜と2人だけでダンジョンに行ったりはしているから厳密には違うんだろうけど、2人でデートしたことはないしね。


「咲夜は乃亜ちゃん達がやってる催しを見に行きたいけど、蒼汰君はどう?」


 咲夜の様子を見る限り、2人っきりでもあまり気にしていない様だった。

 まあ2人でデートするよりも散々恥ずかしいことをしているのだから今更なんだろうね。


「そうだね。乃亜達のクラスがやってる催しは気になってたし見に行こう」

「決まり。ならここからだと冬乃ちゃんのクラスが近いからそこから行こっか」


 咲夜に促されてまずは冬乃のクラスがやってる〈キャンドル作り体験〉を見に来た。


「あら、蒼汰に咲夜さんじゃない。来てくれたのね」

「興味があったから、ね」


 早速僕らに気が付いた冬乃が近づいて来てくれた。


「それじゃあキャンドル作りやってく? 結構簡単よ」

「そうなの?」


 いくつかの机をくっつけて作業台にしてある上には、小さなIHヒーターの上に水の入った鍋があるのと、どこにでも売ってるような白いロウソクなどが置いてある中になぜかクレヨンがあった。

 何に使うんだろ?


 せっかく来たので冬乃の指導の下、キャンドル作りを開始する。

 キャンドル作りという催しのせいか男子よりも女子の割合が多い上に、冬乃の白くて先端が黒い狐耳と尻尾が周囲の視線を余計に集めているために、その近くにいる僕は女子の視線に若干の居心地の悪さを感じてしまう。

 普段の校門でのあいさつでこの手の視線はなれているので平気だけど。


「このボウルの中にロウソクを適当に割って、湯せんでロウソクを溶かしていくの。

 するとロウソクが透明な液体になるから、その時に中央の紐を回収してね」

「分かった」


 咲夜は冬乃の言葉に頷き言われた通り行動を開始したので、僕も一緒にそれを行っていく。


「へぇ、ロウソクを溶かすと本当に透明になるんだ。初めて知った」

「普段こんな事しないから知る機会なんてないし、ね」

「私もこの催しをするまで知らなかったわね。あ、ロウソクが溶けている間にこの紙コップに好きな色のクレヨンを削って入れておいて」

「ここでクレヨンを使うのか。でも何のために?」

「色をつけるためよ。できるだけ細かく削ると溶けやすいわよ」


 徐々に溶けていくロウソクが透明な液体になっていくの後目に、僕らはカッターを使ってクレヨンを削っていく。

 僕は薄緑を削り、咲夜は黄色を削っていく。

 そうしている内にロウソクが完全に溶けたので、削ったクレヨンをその液体に入れ混ぜ合わせていく。


「蒼汰と咲夜さんは普通のキャンドルかグラデーションキャンドルどっちを作りたい?

 今なら蒼汰と咲夜さんがそれぞれのロウソクの液体を分け合えばグラデーションキャンドルになるわよ」

「そうなんだ。どうしよっか」


 そう聞いてきた咲夜の目は薄緑色と黄色の液体の両方を見ており、明らかにこの2つを使ってグラデーションキャンドルの方を作りたいのが手に取るように分かった。


「僕は咲夜がいいならグラデーションキャンドルの方を作りたいかな」

「っ、うん!」


 子供っぽい返事をした咲夜が凄く可愛く、そんな咲夜の頭を撫でたいと思ってしまった。


「2人はグラデーションキャンドルを作るってことでいいのね。

 それじゃあまずは先ほどの回収した中央の紐を割りばしと輪ゴムで挟んで紙コップの中央に垂らしておいて、それぞれ溶かしたロウソクの液体を半分だけいれるの。

 そして最初にいれたのがある程度固まってきたら、お互いの溶かしてあるロウソクの液体を交換して同じように注ぐだけ。簡単でしょ?」


 思った以上にキャンドル作りは簡単にできるものだったな。

 キャンドル作りを体験するまではクレヨンなんて使うとは想像もしてなかったけど。


 僕らは最初に入れたのがある程度冷えて固まるまでの間喋りながら待った後、液体を交換して残りを全て注いだところでキャンドル作りは終了した。


「完全に固まるのが1、2時間後だから、本来なら取りに来てもらうんだけど、蒼汰と咲夜さんの分は私が後で渡しに行くから気にせずに文化祭を回ってきたらいいわ」

「え、いいの冬乃ちゃん?」

「大した手間じゃないし全然問題ないわよ」

「えっと、それじゃあお願いしていい、かな?」

「もちろんよ。時間一杯まで蒼汰とデートを楽しんでくればいいわ」

「うん! ありがとう冬乃ちゃん」

「冬乃、ありがとう」


 冬乃にお礼を言った僕らは固まるのを待つだけのキャンドルを冬乃に任せて、別の催しを見に行くことにした。








 ◆


≪???SIDE≫


「あれは……。うん、やっぱりあの男の人が1人になるのを待つ方がいい、かも」

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