第21話 文化祭・1日目(8)

 

≪蒼汰SIDE≫


 冬乃のクラスの催しを見た僕らは当然乃亜のクラスが催しをやってる場所を訪れた。

 乃亜のクラスは〈クレープ〉をやっていて、午前中に乃亜達と食べさせ合いをした食べ物系の屋台がいくつも並んでいる場所でだ。


 ……クラスメイトが近くにいる所で食べさせ合いをしてたとか、乃亜のメンタル強すぎない?


 普通ならこの場所から離れるだろうに、見られても構わないと思っているのか、それとも今更気にしても仕方がないと思っているのか。


「あ、先輩達いらっしゃいませ」

「「「キャーッ」」」


 ある意味凄いなと思いながらクレープの屋台のある場所に近づくと、乃亜がすぐに僕らに気が付いて声をかけてきた。

 周囲の黄色い悲鳴も一緒になって。


「高宮さん高宮さん。この人がその……」

「はい。わたしの大切な人です」

「「「キャーッ」」」


 またしても黄色い悲鳴。

 周囲に響く音なので周りの目を集めているように感じて、ちょっと恥ずかしいな。


「で、でも乃亜さん。横に他の女の人がいるけど、それはいいんだよね?」

「もちろんです! わたしと同じで先輩のハーレムメンバーですから」

「「「キャーッ」」」

「「「チッ」」」


 今度は後輩男子達から一斉に舌打ち音まで悲鳴と一緒に僕を襲う。今すぐここから逃げたい。

 乃亜の所に顔を出してクレープを買うだけのつもりだったのにどうしてこうなった。


「高宮さんがハーレム入りしてたのは知ってたけど、本人達が目の前で認めるのは破壊力が違うわね」

「カップルになってる人達は何人か見るけど、ハーレムになってる人達を見る機会なんてそうそうないものね」

「う~ん、私はやっぱり自分だけを愛して欲しいって思うんだけど、乃亜さんは気にしないの?」


 そこまで否定的な意見が出ない事に驚きながら、当然思うであろう疑問が乃亜に投げかけられたが、本人はそれが何かと言わんばかりのきょとんとした表情で質問を投げかけた人物を見返していた。


「気にする事なんでしょうか? それぞれ個人的な時間を作ってくだされば十分ですし、むしろ賑やかで楽しいですよ」


 全く気にしていない様子の乃亜に他の後輩女子達がヒソヒソと話だした。


「やっぱり高宮さんの感性ってちょっとズレてるよね」

「でも言ってる事は分かる気がするな。2人っきりでイチャイチャするのもいいけど、何人かで騒いだりするのもいいよね」

「あ、それは分かるな。そう考えるとハーレムも羨ましいかも。それを維持する財力だってあるわけだし」


 意外と肯定的な意見が多くてびっくりするけれど、いつまでもここで後輩たちの会話を聞いていると他の人に迷惑なので、そろそろクレープを買ってこの場を立ち去るとしよう。


「えっと、注文いいかな?」

「あっ、すいません先輩。いつまでも話していて。えっと何にします?」


 提示されたメニューは割と本格的で、デザート系はともかく総菜系までメニューにあるのが驚いた。


「デザート系だけじゃないんだね。準備が大変だったんじゃ?」

「そうでもないですよ。他の食べ物系のところと提携して、食材を共有することで色々なメニューが出せる様になってるだけですから」


 サラッと言うけど、文化祭でそこまでするのかと言いたい。

 まあ買う側としては色々なメニューがあるのはありがたいけれど。


「お昼は食べたしデザート系でいこうかな。咲夜は何にする?」

「えっと、それじゃあイチゴのやつでお願い」

「それなら僕はチョコバナナにしようかな」

「了解しました。ちょっと長く引き留めてしまいましたしサービスしておきますね」


 そんな事していいのかと思わなくもないけれど、他の後輩女子達はいい話を聞いたから問題なしといった態度をとっていた。

 しかし他の後輩男子達が血の涙を流しかねない形相で見ているのだけど、そちらはいいのかな?

 後輩男子が抗議しようとしたら女子に睨まれてすごすごと元の位置に戻っていったので、女子の方が立場が上のようだからいいんだろうね。


「冒険者ならハーレムも夢じゃないんだな……。あとで話できないかな?」


 一部の男子からは尊敬の眼差しで見られているけど、僕の経験談は参考にならないと思うよ。


「先輩達お待たせしました!」

「ありがとう乃亜」

「乃亜ちゃんありがとう」


 クレープを受け取った僕らはこのまま店の前にいるのは迷惑になるので、クレープの屋台から離れ人の少ないところにあったベンチに座りながらクレープを食べる。


「蒼汰君美味しいね」

「そうだね。このクレープお店で売ってるのみたいだ」


 かなり久々に食べたけど、出来立てなのもあってかお店のと負けず劣らずな味な気がするよ。


「あ、そうだ」

「ん、どうしたの咲夜?」


 咲夜が何かを思い出したかのような声を出したので、どうしたのかとそちらを振り向いたら咲夜は自身のクレープを僕に差し出してきた。


「あ~ん」

「ま、またですか?!」

「いや?」


 こてんと首を傾げながら聞いてくる咲夜は期待した様子で僕を見てきていた。

 午前の時とは違い人が少ないだけマシかと思ってしまうあたり、僕も染まってきたように思えるけどまあいいか。


「じゃあ1口だけ」


 咲夜から食べさせてもらったクレープの味は、周囲の視線が気になったせいで甘いという認識しか感じられなかった。







 ◆


≪???SIDE≫


「う~中々1人にならない。というか、またあんな事してる~」

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