第22話 文化祭・1日目(9)

 

≪蒼汰SIDE≫


 咲夜とフラフラ歩き回っていると、グランドで目を引くキャッチフレーズが書かれた看板があったのでそちらに目を引かれてしまった。


「どうしたの蒼汰君?」

「いや、あれ」


 そう言いながら僕は看板に書かれていたものを指さす。


 《冒険者なら俺に当ててみな!》


「冒険者?」

「やってる催しは〈人間的当て〉か。よっぽど避けるのに自信があるのかな?」

「面白そう。蒼汰君、見てみよ」

「うん、いいよ」


 〈人間的当て〉と書いてある通りバッターボックス程度の広さの白線の中に人が立っていて、15メートル程度離れた場所で客側がゴムボールを投げていた。


「どうやらあの白線の範囲で動く相手に当てるゲームだ、ね」

「当てたら景品ももらえるみたいだしやってみよっか」

「頑張って当てる」


 頑張らなくても咲夜の力で投げられたボールは避けられない気がするよ。


「すいません、ゲームに参加したいんですけどいいですか?」

「はい構いませんよ。あっ、あなた達は冒険者ですからこちらですね」


 受け付けの人に話しかけたら、僕らを一目みただけでその人は迷うことなく僕らを冒険者用の場所に誘導した。

 男、女、冒険者の3種類で難易度が分かれるようで、本来ならその確認をするのだろうけど、この学校内限定で僕らの知名度が無駄に高いからか確認が不要だった。


 その人に誘導された先の白線の中には誰もおらず、今から呼んでくるそうだ。

 冒険者用だからあまりやる人がいないせいなのかもしれない。


「南条君。冒険者の人が来たからよろしくね」

「おう任せろ! どんな相手でも俺ならイージー「あ、南条君だ」ルナティック!!?」


 南条と呼ばれた余裕そうに来ていた三年の人は、咲夜を見て絶望に満ちた表情に変わってしまった。


「咲夜、知り合いなの?」

「うん。一度だけパーティーを組んだ事があって、前に話していた怖がらせたユニークスキル持ちの人」

「お、俺は怖がってねえし!」


 膝震えてません?


「だ、大丈夫だ俺。あいつがダンジョンに行かなかった間もずっとダンジョンでレベル上げをしていたんだ。あの時の俺とは違うんだ!」


 まるで自分に言い聞かせるように的――もとい南条さんが白線の中で仁王立ちする。


「さあどこからでもかかってこい! まずはそっちの男からだ」


 僕でウオーミングアップしようとしてません?

 まあいいけど。


「じゃあまずは僕から投げるよ」

「頑張って蒼汰君」


 咲夜に応援されながら僕は指定の位置に立つと、ボールを3つ渡された。

 3球以内に的に当てる事ができたら商品が貰えるようだけど、当てられるかな?


 せっかく応援されたことだしいいところを見せられればと思いながら、まず1球目を思いっきり投げる。


「やっ!」

「悪いな。その程度じゃ3倍速くなっても当たらないぜ」


 全身が赤く染まってても駄目だと言うのか。


 実際、冒険者になる前よりもだいぶ速くなってるであろう僕の投球をかなり余裕そうに避けているので、その通りなんだろうけどさ。


「蒼汰君。南条君はユニークスキル[自動回避]を持ってるから、目にも留まらない速さで投げないとたぶん当たらない、よ」

「それは無理ゲーでは?」


 最初の1球目ですでに全力だというのに、これ以上速く投げろと言われても無理だよ。

 僕は半ばやけくそで残り2球を間髪入れずに投げてみたけれど、それも難なく避けられてしまった。


「う~ん残念。無理だったよ」

「ドンマイ蒼汰君」


 咲夜の元に戻ると、励ます様に頭を撫でてきた。

 人前で頭を撫でられるのはなんか照れてしまうよ。


「大丈夫だ俺。ちゃんと[自動回避]は発動してるしコンディションは万全。俺なら避けられる俺なら避けられる俺なら避けられる……」


 南条さんはこちらの様子など気に留める余裕もなさそうだったけど。


「じゃあ次は咲夜が行く。蒼汰君の仇を取る!」

「こっ、こここここいや!!」


 声が可哀想なくらい震えてるけど大丈夫なんだろうか?


「ふっ!」

「っ!?」


 ――パンッ!


 咲夜が投げたボールは残念ながら的からズレた場所に当たって弾けてしまった。

 ゴムボールってそんな風船みたいに壊れるものでしたっけ?


「むぅ。ゴムボールが柔らかいせいで当てようとした位置に投げられなかった」

「……やべぇ。見えなかった……」

「次は当てる」

「っ……!」


 南条さんの顔が可哀想なくらい真っ青になってるんだけど、誰か止めたりしないんだろうか? このまま続行でいいんだろうか?

 チラリと他の係の人に目を向けたら全員が離れた位置に退避していたよ。酷くね?


「やっ! はっ!」

「さよなら。母さん、父さん」


 悟った表情で親に別れの言葉を呟いていた南条さんだったが、咲夜の投げたボールは幸いにも1球だけ彼の頬をかすめただけのようで、頬が切れてほんの少し血を流す程度で済んでいた。

 文化祭でそんな死を覚悟してまでゲームを続けなくても良かったのに。


「これ、当たった事になるのかな?」

「い、生きてる……」


 咲夜と南条さんの温度差が酷い。

 自身が五体満足でいることに安堵して膝をついている南条さんを後目に、係の人が屋台で使える引き換え券を商品としてプレゼントしてくれたので、咲夜は喜びながらそれを受け取った後、僕らは別の催しを見るために再び歩いて回ろうとした。


「あ、ごめん。ちょっとトイレ行って来ていいかな?」

「分かった。それじゃあこの辺りで待ってる」


 だけどその前にトイレに行きたくなったので、咲夜に断りを入れた後小走りでトイレへと向かった。

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