2章

プロローグ

 

 《蒼汰SIDE》


「咲夜と、戦え」


 ダンジョンで遭遇した女性にいきなり戦いを挑まれ僕らは困惑していた。


「来ないなら、こっちから、行く!」

「先輩下がって!」


 女性が拳を握ってこちらに攻めてきたので、乃亜がすぐさま前に出てその手に持つ大楯を構える。


「急に何なんですか、あなたは!?」


 乃亜が構えた大楯に女性のこぶしがぶつかり――


 ――ガンッ!


 拳と大楯ではなく鉄同士がぶつかりあったかのような鈍い音が響く。


「人相手にぶつけるのは気が引けるけど仕方ないわね。弱めに[狐火]!」

「甘い」

「嘘!? 蹴りの風圧でかき消された!?」


 今現在戦っている女性にどこか見覚えがあるのだけど、いまいち思い出せれない。

 彼女は自分の事を咲夜と言っているけど最近聞いたような名前な気がする。


 戦っても足手まといになる僕は後ろに控えていただけなので、戦闘中であるにもかかわらず思い出す余裕があった。

 さて、誰だっただろうか?


 ◆


 【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を討伐した後日、僕、乃亜、白波さんは学校でしばらくの間、話題の人となった。


 Fランクダンジョンとは言え、会えば殺される危険が高い存在である【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に遭遇したにもかかわらず、全員が五体満足に生き残っていることへの驚愕。

魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の討伐者には懸賞金が出て、Fランクでも1000万円の報酬が得られることによる羨望。

 ついでに美少女2人とダンジョンに潜っていることによる嫉妬。


 様々な感情が渦巻いているけれど、そう言った諸々の想いから僕らは一時的に注目されていた。

 まあしばらくしたらある程度落ち着いたけど。


「羨ましいな蒼汰。お前は今日も美少女達と一緒にダンジョンか? オレなんか……オレなんか野郎4人で潜ってるんだぜ?」


 未だに絡んでくる友人もいるけどスルーだ。

 だってどうしようもないし。


「大樹、いい加減にしたらどうだい?」

「馬鹿野郎! 妬む心を忘れたらオレじゃねえだろ!」

「それは確かに」

「納得した!?」


 彰人が大樹を落ち着かせようとしてくれたのに、逆に言いくるめられてるよ。


「ううっ、オレも美少女達とキャッキャウフフとダンジョンに潜りてえぜ」

「いや、そんな楽しんで潜ってる訳じゃないから。全員がそれぞれ目的があって必死だから」

「お前の目的ガチャじゃん」

「それの何が悪いのさ」


 16歳の誕生日についた呪われたスキル、[無課金]を早く変質させないと僕はどうにかなってしまいそうなんだよ?


「ほら見てよ。最近満足にガチャしてないから手が震えだしてる」

「アル中かよ」

「どちらかと言うとガチャ中?」


 間違ってはないね。


「333万もあったらガチャし放題なのに、なんで強制無課金を強いられないといけないんだ!」

「そんな狂った思考だからじゃねえか?」

「あぶく銭を全額つぎ込むスタイルはどうかと思うよ」


 【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の討伐報酬1000万は1人333万で分けて、残った1万円で打ち上げをした。

 それを言ったらまた絡まれそうなので言わないけど。


「ああ、ガチャしたいガチャしたいガチャしたいガチャしたいガチャしたいガチャしたい――」

「壊れ方が怖いよ」

「そんなにガチャしたいなら自分の――あ、察し」

「石ィイイイイイイイイイ!!」

「貯めるって概念がないのかい?」


 だって……、だって10連1回出来ると思うと指が勝手に動くんだよ。しょうがないじゃないか!


「やれやれしょうがないな。ほらボクので良ければ回すといいよ」

「ガチャだ! ガチャだ!」

「まるで初めてサンタからクリスマスプレゼントをもらったかの様な純粋な喜び方をするな」

「見てて面白いよね~」


 ふぅ~、久々にたくさんガチャれるかと思うと心が躍るよ。

 それじゃあ早速ポチッ――


「うーん40連目で星5か。まあそこそこ? 出してくれてありがとね」

「って、これ人のガチャーーーーー!!!!」

「えっ、今更?」

「せっかく溜まってたガチャ運を人に使うとかとことん浪費の激しいやつだな」

「はっ! 言われてみれば確かに……!」


 ぼ、僕はなんてものに運を使ってしまったんだ……。


「まあでもさっきよりは落ち着いてるところを見るに、人のガチャでも多少の精神安定が見込めるようだが」

「ガチャ中毒から抜け出すためには徐々に徐々にガチャの回数を減らしていくことが大事だと言う事だね」


 減らさなくていい。ガチャは、人類の希望だよ……?


「あ、ダメだ。安定したかと思ったらまだ目が暗黒面に落ちてるわ」

「まあでも[無課金]を得た直後よりは落ち着いてるから、なんだかんだでガチャへの欲求が減ってはいるかもね。特にダンジョン行きだしてからある意味いい刺激になって、そっちに興味のベクトルが移ってるのかな?」

「そんな訳ないじゃん。あくまでガチャのためだよ」


 僕からガチャを取ったら何が残ると言うんだまったく。


「でもわざわざアドベンチャー用品店で300万もする〔マジックポーチ〕を買ったんでしょ?」


 〔マジックポーチ〕は見た目はポーチだけど値段に応じて収納量が多くなり、重さも感じないため運搬に大変便利な魔道具だ。


「高校生がする買い物じゃねえぞ。オレだって仲間で金出しあって100万のやつにしたのによ」

「容量が多いやつの方が沢山魔石とか持ち運びできるからね。こうなったら今のうちに沢山お金を貯めてガチャへの資金にするんだ」

「ブレねえな」

「そこが蒼汰の良いところ……いや、ダメなとこかな?」


 僕は心ゆくまでガチャが出来るようになるために、ダンジョンに潜り続けるんだ!

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