第15話 パクリ

  

 小さな扉を通ったらどこかで見たことのある場所に出ていた。


「ここ、まるで【ドッペルゲンガー】の時の闘技場みたいだな」

『と言うことは、ここで何かと戦う事になるのです?』


 以前見たのと同じで、円形に客席が配置され中央には真四角の石畳が敷かれているコロッセオのような場所だ。

 まさか再びこのような所に来ることになるとは思わなったなぁ。


「ん? 先に入ったはずのパティの姿がないぞ?」


 オリヴィアさんに言われ周囲を見渡すと、それほど時間を空けずに入ったのにパトリシアさんが確かに見当たらなかった。

 一体どこに行ったというんだろうか?


『フヒッ、さ、最初の試練はパーティーごとで分かれて受けてもらうわ。だからこの場にはあなた達しかいないってわけ』


 僕らが疑問に思っていた時、突如として現れた“嫉妬”の魔女サラ。

 まさかいきなり魔女と戦う事になるのか?!


「お前が私達と戦うということか!」

『か、勘違いしないで欲しいわ。まだわたしにあなた達を攻撃する権利はないし、その逆もまた然り。

 ここであなた達と戦う相手はアレよ』


 サラが指さす先、中央のステージにはいつの間にか鎧を着たドッペルゲンガーみたいな顔がのっぺらぼうで真っ黒な見た目の人物が立っていた。


 まさかこの場所だけでなく、対戦相手まで【ドッペルゲンガー】みたいに鏡写しの自分と戦うことになるのか? 楽勝じゃん。

 まあそれは僕だからこそ言えるだけで、オリヴィアさんは確かその試練には失敗していたからラッキーとは言えないか。


 そうなるともしかしてこの試練は、聖剣を持っている人物が敗北した戦いを再現するものなのか?


 そんな僕の考えはすぐに否定されることになった。


『それじゃあ全員ステージの上に行きなさい』

「え、パーティー全員でいいんですか?」

『な、何を言っているの? パーティーごとに分けているんだから当たり前じゃない』


 そりゃそうか。

 マリとイザベルの時は個人個人で別の空間に割り振られていたし、1人でしか戦えないならそういう風に分けているか。


「そうなんだ。マリとイザベルの時と似ていたから勘違いしていたよ」

『な、なんですって? ち、ちなみにどんな試練だったの?』

「え? う~んと、ここと似たような空間で“強欲”の力が付与された自分のコピーと戦う試練だったけど」


 僕がそう言うと、サラがプルプルと震えだした。


『ま、まさかお姉さま達……、わたしの試練の内容を真似したの!?』


 なんかとんでもない事言い出し始めたぞ。

 いやでもおかしくないだろうか?


「この試練は創られたばかりだからマリとイザベルがパクッたわけではないような?」

『ち、違うわ。この試練はアグネスに力を分け与えられる前からこの〔ドラゴンのダンジョン〕の存在していたもの。お姉さま達のことだから人の試練を見て勝手に真似していてもおかしくないわ』

「なるほど。じゃあ“怠惰”の魔女であるローリーの試練で、試練を受ける側がとある武将の立ち位置になってたんだけど、この試練でも似たような感じで僕らがアーサー王の立ち位置になってるのか」

『あのぐうたら姉もかーーー!!』


 カマかけてみたけどどうやらこの反応、当たりのようだ。

 もしかしたらそうなのかな程度の確証が確定したのはいい事だ。

 問題はアーサー王の敵対者が誰になるかだけど、さすがにそれは情報量が少なすぎてまだ分からないなぁ。


『ひ、酷い……。いくら試練の内容を考えるのが面倒だからって、人の試練を真似するのはあんまりじゃない……?』


 サラが四つん這いになって見て分かるくらい落ち込んでいた。


 なんか不憫な人だ。

 “強欲”と“傲慢”なら他人の物は自分の物と言ってもおかしくないし、“怠惰”なら面倒だからの一言でパクっていてもおかしくない。

 もっとも、この〔ドラゴンのダンジョン〕でアーサー王の騎士達のような存在が徘徊しているとは聞いていないから、さすがのローリーも丸パクリはしていないようだけど。


「ところで1ついいか?」

『……なに?』


 どこか不機嫌そうなサラが渋々といった様子でオリヴィアさんに声をかけられ顔を上げていた。


「今この試練が奥深くにあったと言っていたが、何故だ?」

『はぁ?』

「だから何故わざわざ奥深くから浅い階層に移したのか聞いているんだ」


 それは確かに。

 今まで通り奥深くに居られたら、入口の結界のせいで限られた人間しか入れないのも相まって、道中のドラゴンを倒して試練に辿り着くのすらほぼ不可能と言っていい。

 そんなアドバンテージを捨ててまで、浅い階層に移動した理由が分からなかった。


『ああ、そんなの簡単よ。だって奥深くに居たら誰も入って来れないじゃない』

「え、いや、誰も入って来れない方が都合がいいんじゃないの?」


 そうすれば誰も試練をクリアすることができないから、そっちの方が安全だろうに。


『フヒッ、何を言っているの? それじゃあ誰にもクロちゃんとの愛を見せつけられないじゃない! ああ、早く独り身の人間に思う存分見せつけたいわ……』


 単純に“嫉妬”のさがに抗えなかっただけのようだ。

 他人に“嫉妬”されたいとか性癖がヤバイ。おねショタ、ロリコン、ケモナーの性癖三銃士の連中とは別のベクトルでヤバイよ。


『も、もうすぐドラゴン達がダンジョンから溢れだしちゃうから、生き残っている人間がいるうちに多くの人間に見せつけないとねぇ』


 なんだって!?


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