第16話 ドラゴンパレード

 

≪和泉SIDE≫


「「「わあああーー!!」」」


 恵の歌と踊りに魅了されて、護衛する人間も地上に戻ろうとする人間もほぼ全てを惹きつけられていたわん。


「護衛なのにあれはどうなの~?」

「あれじゃあ奇襲されたら対応出来ないし体力を消耗する」


 このみと鈴の言う通りあんなんじゃいざという時に素早く動けないのだけど、恵のステージを見るなって言う方が無理よね。

 うちの学校の人達もほぼ全員が恵のファンみたいなものだけど、恵が歌って踊り出すとすぐに興奮しだすもの。

 パーティーメンバーで慣れているあたし達と他数人くらいしか、この場で冷静さを保って護衛しているのはいなさそうね。


「でも幸いにも音につられてくるレッサードラゴンは、興奮してるファンの人達が倒してくれているし、あたし達は体力を温存しておきましょ」

「そうだね~。まあ楽できると思えばいいかな~」

「同意」


 呆れながらのんびりと周囲を警戒していた時、丁度このライブの音が止んだタイミングで焦ったような男の声が聞こえてきたわ。


「レッドドラゴンが来たぞーー!!」


 何ですって!?


 浅い階層にはレッサーと名の付くドラゴンもどきしか出てこないはずなのに、本当のドラゴンが現れたということは――


「レッドドラゴンだけじゃない! 他のカラードラゴン達もだ!」


 始まってしまったようね。迷宮氾濫デスパレードが。


 まだ幸いにもドラゴンの中でも弱い種類のカラーシリーズだけど、ここからドンドン強いドラゴンが出て来るとなると、急いで現れたドラゴン達を倒さないといけないわねぇん。


「行くわよ、このみ、鈴。一体でも多く倒さないとマズイことになるわん」

「いやそれは無理じゃないかな~。一体だけならともかく何十体も相手には出来ないよ~」

「さすがに無謀。会長に近づくドラゴンは相手にして、外に向かうドラゴンは極力無視するべき」


 このみと鈴が顔をしかめているけれど、この状況じゃそんな事言ってる場合じゃないわ。


「恵の方に行くドラゴン達は無視しても平気よ。熱烈なファンがいるんだもの。

 だからあたし達は極力地上に被害が及ばないよう、ダンジョンの外の人達が少しでも準備する時間を稼いであげるべきだわねぇん」

「確かに会長の方は心配ないと思うけど~。そもそもステージの上にいる会長には攻撃が効かないから護衛がいらないんだけど~」

「やっぱりドラゴン相手じゃ荷が重すぎる。……だから最初の数体だけ」

「え~やるの鈴~?」

「こうなったケイは意地でも引かない。諦める」

「あ~もうしょうがないな~」


 最終的に折れてくれた2人があたしの後ろで武器を構えて準備してくれる。


 これが終わったらお礼しないといけないわねぇん。

 最近見つけたおススメの化粧品教えてあげないと。


「「コスメの情報はもう十分(だから~)」」

「あらやだ。口に出してた?」

「ケイちゃんこういう時はいつもそうだから言わなくても分かるよ~」

「もう散々色んなの聞いた」

「それじゃあおススメの美容室――」

「「だからそういうのはいい(んだよ~)」」


 もう、2人も可愛いのに美容に関しては積極的じゃなんだから。

 これが終わったら色んなところに連れて行かないとダメねぇん。



≪乃亜SIDE≫


「ドラゴンが出て来るぞーー!!」


 先輩がダンジョンに入ってしばらくしたら、ダンジョンから男の人が現れて大声で叫びだした。


「まさかこんなにも早く“迷宮氾濫デスパレード”が起きるなんて……!?」

「蒼汰君大丈夫、かな?」

「ドラゴンと遭遇してたら、あのメンバーだけじゃ太刀打ちできないわよね?」


 咲夜先輩と冬乃先輩が出て来るであろうドラゴンよりも、中に入ったばかりの先輩を心配してダンジョンの入口を見ていました。

 もちろんそれはわたしも同じ気持ちで、“迷宮氾濫デスパレード”が起きた事による自分達の心配よりも、先輩の身の方が心配という気持ちが大きいです。


「お前達随分と余裕だね? 今からドラゴンが出て来るが、その辺のダンジョンの魔物とはわけが違うんだよ」


 マイラさんが少し呆れた様子でわたし達に暗に注意を促していた。


「確かにSランクダンジョンの魔物ともなると相当な強さだろうね。でも“迷宮氾濫デスパレード”が始まったばかりなら浅い階層の魔物でしょ?」

「……いくらSランクでもボク達なら十分対処できるはず」


 ソフィ先輩とオルガ先輩は楽勝だろうと言いつつも、しっかり【典正装備】などいつでも戦えるように準備していて油断はしていない様子です。


「うむ。その言葉通りの態度でいるなら叱っていたところだが、いつでも全力を出せるように構えているなら結構。

 ドラゴンは並大抵の相手ではないから、どの程度の魔物か全力で戦って一度体感し、スタミナ管理するといいぞ。

 いざとなれば助けてやるから勝てないと分かったら引くのもありだ」

「ありがとうございますマイラさん」


 ドラゴンを見るのは冒険者学校の時、シミュレーターで他の人が戦っているのを見て以来ですね。

 あの時は全然太刀打ちできないと思っていましたが、あの頃とは違いわたし達はかなり強くなっていますし、ソフィ先輩とオルガ先輩もいます。


 先輩がいないという点が不安ではありますが、少なくとも戦うのはわたし達だけではなく現地の方々もいますから何とかなるはずです。


「先輩だって〔ドラゴンのダンジョン〕の中で頑張っているのですから、先輩がいなければ戦えないだなんて情けないこと言いませんよ!」


 ここはわたし達が食い止めますから、先輩も頑張ってください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る