第17話 いや、誰だよ!
≪蒼汰SIDE≫
「まさかもう
『フヒッ、気になるなら戻ればいいんじゃない? べ、別に試練を達成するまでここから出れないわけじゃないんだから』
たしかに入ってきた小さい扉は消えていないので、来た道を戻ろうと思えば戻れるだろう。
しかしそれではここに来た意味が無いし、何より戻ったところで
「いや、試練の方を優先しよう」
『い、いいの? わたしはとても嬉しいけど。クロちゃんとの仲を思う存分見せつけられるしねぇ』
そう言うサラの背後に相変わらず映っているスクリーンには白いタキシードを着て椅子に拘束されているクロの姿。
まさかずっと同じ姿勢で拘束されているんだろうか?
旦那と言うのであれば、もっと優しくしてやってくれないだろうか。
もはやそれは拷問だよ。
僕が可哀想な者を見る様な目でスクリーンを見ていたのに気づいたのか、サラは胸を張ってニヤリと笑ってこちらを見てきた。
『クロちゃんはわたしの事を好きだと言ってあそこで縛られているの。愛を感じるわぁ』
『なんじゃと!? おいクロ、どういうことじゃ! 妾と子をなしておりながら、こんな女に現を抜かしておるのか!』
『酷いのですパパ! ワタシ達を捨ててこの女の元に行くのです?!』
『ああ……嫉妬されてる~~~!』
シロとアヤメにクロと自身を交互にきつく睨まれているにも拘わらず、プルプルと震えながら恍惚な笑みを浮かべるサラにはドン引きだけど、まあサラを好きだなんて言ってるクロが悪いか。
……………ん?
サラの表情を見てドン引きしながらだったからか、よくよく考えるとおかしな事に気付いた。
明らかに無理やり椅子に縛られて憔悴しているクロを見れば自分からあの状況になっているわけがないのに、どうして僕らはサラの言うことをそのまま鵜呑みにしてしまったんだろうか?
「浮気したその男に関してはどうでもいいとして、とっとと試練を受けたいんだが?」
若干蚊帳の外状態だったオリヴィアさんがクロをバッサリと切り捨ててサラにそう言うと、サラはちょっと残念そうな表情を浮かべていた。
『フヒッ、もう少し嫉妬されていたかったけど、まあいいわ。
本来なら看板が出てくるところだけど、元奥さんとその子供見たさにわたしがこの場にいるからわたしが説明してあげる』
『だれが元奥さんじゃ!』
『勝手に別れさすんじゃねえのです!』
『ああ……!』
一々喜ぶの止めてくれないかな? 話が全然進まないんだよ。
『フヒッ、さて試練の説明ね。
ここでの試練はあそこで鎧を着ている存在が、挑戦者の中でもっとも嫉妬心の強い人間がその嫉妬心を向けている人物のコピーとなり、それと戦ってもらう事になるわ。
使える武器はここに入る前に引き抜いた剣のみで、それ以外の武器じゃ攻撃が一切通用しないから注意することね』
「それだと1人で戦えってことなの?」
『いいえ違うわ。攻撃が効かないだけよ。妨害も支援も好きにしていいわ』
そうなると誰か1人がメインとなって、他の人は完全にサポートに回ってあの鎧の人と戦うことになるのか。
マリとイザベルがパクったとサラが憤慨していたけど、さすがに丸々同じ試練というわけではなさそうだ。
「それなら私がメインとなって戦うことにするか。というか、私か鹿島先輩しかこの剣を持って戦えない以上、私しかいないのだが」
「そうだね。アヤメだと剣を振り回せないし、シロじゃそもそも剣が持てないし」
オリヴィアさんが一緒で本当によかった。
僕じゃろくに剣を扱った事もない上に、自身を強化するスキルなんて持っていないからね。
『フヒッ、準備はいいかしら?』
「ああ、問題ない」
メイド服姿のオリヴィアさんが聖剣を持って石畳が敷かれている舞台の中央付近へと歩いていき、肩付近にアヤメとシロが浮遊しながら付いて行く。
『そ、それじゃあ試練開始ね。あなた達の相手はこいつよ』
僕らが最も嫉妬する相手。一体誰なんだ。
鎧の中の黒いモノが徐々に形を変えていき、黒一色だった姿から、やがて完全に人と同じ見た目になっていった、がーー
『拙者がお前達の相手でござる』
「「『『誰なんだお前?!』』」」
見ず知らずの明らかに成人病寸前の三十路男性が目の前にいるんだけどどう言う事!?
「……日本人のようだし、鹿島先輩の知り合いではないのか?」
「生憎と流行りのメタボを実践しているような知り合いはいないねえ」
オリヴィアさんの言う通り目の前のあの人はどう見ても日本人なので、もしも知り合いなのだとしたら僕なんだろうけど、本当に見覚えのない人なんだよね。
『でもご主人さましか有り得ないのです。あれはこの中で一番嫉妬心を抱えている人間に関わる人物になるのですから』
『そうだの。主様が嫉妬心によってダンジョンの入口にあった結界を通れたぐらいだし、それは間違いないだろうの』
「そんな事言われてもねえ。
本当に見た覚えがない人なんだけど一体誰なんだろ?」
僕ら全員が現れた人物に対して訝し気な目で見ていると、その視線に反応したのか手をまるで望遠鏡のような形にしてわざとらしいポーズで僕らを覗き込むように見てきた。
『おやおやおや? 拙者が誰だかご存じでない?』
「知らないよ」
『つれない事を言うでござるな~。拙者とはソシャゲ仲間だというのに』
それだけで全てを察した。
というか、結界を通る際に散々スマホを見て嫉妬心を高めていたんだからもっと早く気が付くべきだった。
こいつソシャゲのフレンドかよ!?
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