第26話 第三の試練〝月の問答〟(2)

  

 僕らはエバノラから試練の開始を少しの間だけ待ってもらい、作戦会議をして万全の準備を整えた。


 スキルはおろかアイテムや装備に該当する【典正装備】も使えない以上、できることは試練の内容を精査するくらいだったけれど、前もって考えられるだけ考えておくべきだからね。


 ただそれはそうと――


『入念に打合せしてるわね~。もう若さと勢いで試練にババンと挑んじゃえばいいのに』

「それ特攻してやられるパターンじゃないですかね。それよりも僕らよりも先に来た男の人達は放置でいいんですか?」


 エバノラはずっと僕らに構っているけれど、別の場所にいるであろう男性Bは放っておいていいんだろうか?


『大丈夫よ。私は分身できるから、ちゃんと向こうの私があれの相手をしているわ』


 あれ扱いとは、エバノラも男性Bの今までの行動がお気に召さなかったようだ。

 誰だってあんなの見せられたらいい気はしないだろうけどさ。


 まあ今はそんな事どうでもいいか。

 むしろ目に付く所にいない分、試練に集中できるね。


『話し合いはもういいわよね? そろそろ第三の試練を始めるわよ。心の準備はできてるかしら?』


 さあこれが最後の試練だ。

 今まで誰1人としてクリアできなかった試練であることを考えると緊張せずにはいられないけど、これを突破すれば【典正装備】が手に入るのだから気合をいれないと。


 第三の試練はその内容を考えると、できるだけ早く問いかけに答えて性欲が増さないようにしていくのがベターだと思う。

 これはみんなと相談して出た結論なので全員がこの作戦で試練に挑むわけだけど、あくまでそれは試練をどうやって乗り切っていくかであって、試練を達成する方法ではない。

 回答者が問いかけに答えている間、他の人間は何をすれば試練が達成になるのかを考える事になっているけれど、性欲が高まり過ぎて頭が回らなくなる前に突破方法が見つけられるかが問題だね。


 ああ、試練の事を考えていると緊張感が増すなあ。

 緊張のせいか手に汗がにじみ心臓がバクバクと脈打つのを感じるけど、こういう時こそ心を落ち着けないと。

 僕は口から大きく息を吸って深呼吸をする。


「ふぅー。……よし、準備はいいよ。みんなも大丈夫?」

「「「はい」」」

『全員の準備ができたみたいだし、早速第三の試練を開始するわ』


 エバノラがパチンっと指を鳴らすと、看板が地面からせり上がってきた――と、そう思ったら違った。


『汝等よ、我の質問に答えるがいい』


 看板を持った大仏がせり上がってきた。


「え、なんで大仏?」

『仕様よ。彼が試練を主導するから、彼の指示に従って行動しなさい』


 試練に挑むために気合を入れた直後に、突拍子がないものを出さないで欲しいよ。

 気が削がれそうだ。


『まずは貴様らの中から1人回答者を選び、その者は我の前に来るがいい』


 大仏が手のひらを上に向けて、クイクイッと指を曲げて早く来いと挑発してくる。

 大仏とは思えない行動だな。


「それじゃあまずは私が様子見で行くわね。この中じゃ一番発情状態に弱いから捨て駒役をやらせてもらうわ。

 長くは持たないと思うけど、なんとか試練の突破口を見出してね」

「うん、頼んだよ」

「分かりました。よろしくお願いします」

「頑張って、冬乃ちゃん」


 冬乃が大仏の前に立つと空に浮かぶ月から光が集約し、まるでスポットライトのように冬乃を照らし出した。

 それと同時に大仏はその手に持った看板を地面へと突き刺す。

 その看板には嘘をついた場合どうなるかが記載してあった。


 《嘘をついた者には以下の天罰が下る》

 ・嘘をついた事が本当の事だと捏造される


『我の質問に正直に答えねば罰が下る。心して答えるがいい』

「本当の事を言えばいいだけじゃない、はぁはぁ」


 すでに性欲が増幅されていってるようで、冬乃の息が荒くなっている。

 大仏の前に立った時点から、性欲が高まってしまうルールが適用されているのか。


『それでは第一問。貴様は後ろの男と子作りしたことがあるか?』

「あるわけないでしょうが!!」

「仏とは思えない質問をしてきたな!?」


 とんでもない質疑応答になってるんだけど、これが試練で本当にいいのか!?


『うむ、本当であるな』

「……先に行きたかったですね。本当の事だと捏造されれば先輩に責任をとってもらえたのに」

「怖い事ボソッと呟かないでくれるかな?」


 ただでさえ外堀がほぼほぼ埋まってる状態なのに、内堀記憶まで埋め立てるのは勘弁して欲しいよ。


『正直に答えたので貴様の身体は重くなるぞ』

「っ……! 重くなるって言っても大した事なさそうね。せいぜい5キロぐらいかしら?」


 体が急に重くなった事でバランスを崩したのか冬乃は若干体を揺らしていたけれど、すぐに姿勢を元に戻して普通に立っていた。

 様子を見るに本人のやせ我慢とかそういうのではなく、ホントに大したことはないんだろう。


「はぁはぁ」


 どちらかと言えば性欲が高まる方がヤバそうな感じだ。

 この試練の達成条件が何なのか、それを考えられる時間はあまりなさそうだな。


 冬乃が体を張って耐えてくれている今の内に果たしてその条件を見つけられるだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る