第25話 第三の試練〝月の問答〟(1)


 扉を潜り抜けた先にあったのは――


「何も……ない?」


 最初にエバノラと遭遇した時と似た何もない空間に来ており、違いがあるとすれば空間全体が黒いくらいだろうか。

 それに加えて――


「僕らよりも先に入ったはずの男の人達がいないね」

『第三の試練は〝月の問答〟。ここではグループごとに分かれて試練を行うわ』

「〝月の道〟じゃないんだ、ね」

『あら、歩きたかったの?』

「そういう訳じゃない。〝花の道〟〝雪の道〟ときていたから、てっきり〝月の道〟だと思ってただけ」


 咲夜の言う通り僕もそう思っていた。

 〝花〟と〝雪〟から雪月花を連想して〝月の道〟だろうなとは思っていたけど、〝道〟ではなく〝問答〟になるとまでは思わなかったな。


 僕はそう思いながら乃亜と咲夜の腕組を解いて、背負っていた冬乃を降ろした。


「先輩、離れたら寒くなってしまいます」

「〝雪の道〟じゃないんだから。水着でも過ごせるくらい適温だから」

「さっきまで腕組だけで歩いていたから体が冷えてる。だから温めて、ね」

『試練開始は2時間後くらいでいいかしら?』

「妙な気を使わないで!?」


 乃亜と咲夜に再びくっつかれた僕を見たからって、エバノラはいらない気を使ってこないで欲しい。


「馬鹿な事を言ってないで、早く試練を始めてよ」

『せっかちね~。まあいいわ。それじゃあ第三の試練、〝月の問答〟を始めましょうか』


 エバノラがパチンっと指を鳴らすと、恒例の看板が地面からせり上がってきた。


『試練の内容はその看板に書いてある通りよ。今からあなた達には回答者を1人選出してもらうわ』


 回答者とは一体……?


 そう思いながら試練の内容が書いてある看板を読んでいく。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 〖第三の試練〝月の問答〟〗


 第三の試練は質疑応答です。


 1問ごとにあなた達の中から回答者を1名選んでください。


 回答者は出題者の出した問いかけに対し、回答者は正直に答えても嘘をついても構いません。

 ただし回答の内容次第で以下の効果が適用されます。


 ・正直に答えた場合:回答者の身体が重くなる

 ・嘘をついた場合 :回答者の身体は軽くなるが、罰を受ける


 試練失敗の条件は以下になります。

 ・制限時間内(1問1分以内)に回答者が回答できなくなる

 ・スキルや装備、アイテムの使用


 ※注意事項

 ・試練中は一定時間ごとに回答者の性欲が増幅していきます


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


「最後の一文ーーー!!」

『むしろ今までの試練を鑑みれば、無い方が違和感あると思わない?』


 そうかもしれないけど、こんな性欲まみれな試練ばっかり嫌だ……。


「性欲が増すのはこの際どうでもいいのですが――」


 いやいや乃亜。結構重要な問題だと思うよ。


「試練の達成条件がここに書かれていないのですが、どうなれば試練が達成になるのでしょうか?」


 そう言えば最後の一文ばかりに目がいってて、その辺気が付いてなかったな。


『ひ・み・つ♪』

「ていっ!」


 ――バチコンッ!


『いった~~い!! もう、何するのよ!』

「デコピンしたいとずっと思っていた。このせいで試練が受けられなくなっても後悔はない」


 グーで殴らなかっただけまだ穏便でしょ。


「先輩の気持ちは分からなくもないですが、何だかんだで試練には満足してますからわたしとしてはそこまでしなくてもとは思います」

「咲夜も雪の試練は良かったと思う。ちょっと恥ずかしいけど合法的にくっつける」

「はぁはぁ、あんた達ね~」


 冬乃が乃亜と咲夜に呆れているだけだけど、発情の花粉で3人の中で一番苦しめられたのだから冬乃はもっと文句を言っていいと思う。

 あ、そう言えば――


「ところでエバノラ。今はスキルを使っても問題ないの?」

『まだ試練始まってないから問題ないわよ』

「それじゃあ咲夜、お願いできるかな?」

「任せて。[全体治癒]」


 全員がまだ発情の花粉の影響を受けているし、第三の試練ではスキルが使えないのだからここで使っておかないと。

 そう考えると、第二の試練で[全体治癒]を温存した意味がなかったかな?


 いや、第三の試練後に結局必要になりそうだから、温存して良かったか。

 そうでなければ試練が終わった後にスキルの使用回数が残ってなければ、襲われる可能性が高いだろうし。

 問題は咲夜が使ってくれるかだけど……、だ、大丈夫なはず。


「それで試練の達成条件が秘密なのはなんでなんですか?」

『ふふ~ん、それを言ったら試練にならないわ。その達成条件を予測するのも含めての試練だもの。それに――』

「それに?」

『達成条件は1もの。私が言えるのはここまでよ』


 達成条件が1つじゃないって、この問答するだけの試練で複数の達成条件があるのっておかしくないだろうか?

 う~ん、どうすれば条件が達成できるのか前もって予想していくしかないけど、このルールでパッと思いつく限りでは一定以上数の回答をするとかその辺りっぽいかな?

 でもさっきまでの試練を考えると、そんな単純なのかは怪しいところだ。


 僕はエバノラが試練を始めようとせずにニヤニヤとこちらを眺めている間に、どうすれば試練が達成されるのかを考え続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る