第10話 問題でしかない連絡
≪蒼汰SIDE≫
僕らは昨日別れた地点にたどり着いたけど、その時にはすでに日は沈んでしまっていたが僕は一人暮らしだから問題ない。
「そう言えば2人は遅くなっても問題ないの? 門限とか大丈夫?」
「うん、問題ない。親には遅くなるって連絡してあるし、分かったの一言が返って来てるから」
「わたしも問題ないです。今日は先輩と遅くまで一緒にいたいと連絡してあります」
「その言い方だと問題しかなくない!?」
何とんでもない連絡してるの!?
「ちょっ、返信はなんて返って来てるの?」
「えっと、こんな感じですね」
僕は乃亜にとあるメッセージアプリを見せられると、そこにはとんでもない事が書かれていた。
乃亜:今日は先輩と遅くまでいたいです
亜美:あらあら。いいわよ
柊:避妊はしろよ
穂香:が、頑張って!
宗司:いや、なに応援してるんだお前ら!?
宗司:駄目だ乃亜! 早くう
亜美:安心して乃亜。ちゃんと黙らせたから
いや物理的に黙らされてませんか、これ。
明らかに打ち掛けで止まってるけど、おそらく「早くうちに帰るんだ」的なことを言いたかったんじゃないかと思う。
これ、後で僕が宗司さんに色々言われたりするんじゃないだろうかと不安になるよ。
「そういう訳で問題ありません」
そう言いながら乃亜が僕に向かって腕を広げてきた。
「それでは先輩、おんぶして下さい。なんでしたら抱っこでもいいですよ」
「抱っこは色々問題だからおんぶで」
乃亜の唐突な発言も予想できればそう動じないね。
なんせ使うスキルがあれでは当然の事だと思う。
「はい、よろしくお願いします。何も見えなくなって運んでもらわないといけないのは不便ですね」
「その分こうした調査をするのには便利すぎるから、破格の性能だと思うよ」
僕はそう言いながら乃亜に背を向けて屈むと、乃亜が僕の背中に乗ってきたので立ち上がる。
「それではいきます。[シーン回想]」
おそらく今、乃亜の黒かった瞳が薄い青色に淡く光っているはずだ。
最初にこのスキルを使用しているところを見たことがあるから、今回もきっとそうだろう。
[シーン回想]は今現在いる位置で起きた乃亜やその関係者の過去を見る事が出来るスキルらしい。
見られるのは乃亜だけだし、戦闘には全く役に立たないので本人はハズレだと言っていたけど、まさかここで役に立つなんてね。
1回目の時はダンジョン内で実際に使ってみた訳だけど、傍から見たら乃亜がただその場に立っているだけで、何をしているのかサッパリ分からなかったよ。
「あちらに向かって冬乃先輩が歩いて行ってますね」
「分かったよ。咲夜も行こう」
「うん」
背中におぶっている乃亜が指示する方向に向かって僕らは歩き出す。
乃亜が今いる場所で起きた冬乃の過去を見ている訳だけど、今のところどこかに向かっているだけで乃亜に何の反応もないところを見ると、帰り道では問題が起きなかったという事だろうか?
その僕の予想は当たっていて、特に乃亜が何も言うことなくとあるアパートへとたどり着いてしまった。
そのアパートの外観はハッキリと言ってしまうとぼろくてかなり古そうだった。
「冬乃ちゃんはここに住んでる、ってことなのかな?」
「多分そうだと思います。しかし困りました。わたしの[シーン回想]は今いる場所の過去を見るだけなので、部屋の中に入らないと何があったか分かりません」
「今朝、僕らとダンジョンで合流する前に何かあったとか?」
「それはないと思う。冬乃ちゃん、咲夜達と別れた後に嫌な事があったって言ってたから、昨日の出来事で間違いないはず」
「そうですね。今朝になるまで冬乃先輩は部屋から出てきませんでしたが、今朝出て来た時には既に不機嫌そうな顔をされています」
「そうなんだ。そうなってくると部屋に入りでもしない限り真相を掴むことは出来そうにないけど、今は当然冬乃がいるからそんな事出来そうにないし……」
「唯一、冬乃先輩が部屋に入った後に女の人が入っていきましたけど、それ以上は分からないですね」
エロ……ギャルゲのシーン回想だと、そのシーンの映像、音、文章が見れるのは彰人に見せられて知ってるけど、乃亜の[シーン回想]はどうも映像しか見ることが出来ないから、部屋の外から過去にその部屋でどんな会話がされたのかも聞くことは出来そうにないし……。
さすがにこれ以上は調べられないかな?
そう思っていた時、ドキッとする声が聞こえて来た。
「あなた達、こんな所で何をしているの?」
一瞬声から冬乃かと思って慌てて振り返ると、そこにいたのは黒髪のちょっと疲れた表情をしている30代後半辺りの女性だった。
「冬乃先輩かと思いましたけど、違いましたね」
「あら? あなた達冬乃の友達?」
乃亜のつぶやきが聞こえたのか、女性は首を傾げて尋ねてきたので、僕はそれに即座に頷いた。
「そうですね。一緒にダンジョンに行ったり、遊びに行ったりするのでそういう関係で間違いないかと」
「あ~そうなの! うちの部屋をじっと見てる子達がいたから何してるんだろうと思ったけど、冬乃の友達だったのなら良かったわ」
「はい。僕は鹿島蒼汰と言います。えっと、あなたは……」
「ああ。私は白波千春で冬乃の母よ」
「あ、ご丁寧にありがとうございます。わたしは高宮乃亜です」
「四月一日咲夜です」
乃亜と咲夜も冬乃の母、千春さんに自己紹介をしたところで、千春さんに疑問を問いかけられた。
「ところであなた達はこんな所で何をしていたの? 冬乃だったらもう帰って来てると思うけど」
もっともな疑問だ。
僕だって、部屋に帰ろうとした時に誰かがじっと僕の部屋を見ていたら、人によっては警察を呼ぶよ。
もしも乃亜だったら、部屋に入る方法でも企んでいるのかな、と思うだけだろうけど。
……立派な不法侵入では? 乃亜がそんな事を企んでも気にしないとか、思考が毒されているような……。
気のせいだと思おう。
「えっと、冬乃さんには内緒にしておいて欲しいのですが実はですね――」
僕はそう切り出して何故部屋を尋ねずに、ここに立っていたのか素直に話すことにした。
もしかしたら母親なら何か知っているのかもしれないと思って。
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