第11話 母

 

 今日集まった時、冬乃の様子が明らかにおかしかったこと。

 昨日一緒に遊んで帰る時まではいつも通り、むしろ上機嫌であったこと。

 今日、何を聞いても大丈夫と言って冬乃は何も話してくれなかったこと。

 そしてもしも何か悩みがあって力になれる事なら力になりたいと思って、それを知っていそうな家族の方と接触出来ないかと思い、訪れたことを話した。


 正確には乃亜のスキルで何か掴めないかと思って訪れただけだけど、それを正直に言うとストーカー紛いな気がしたので、そこは伏せた。


「そうなのね……」


 全てを聞き終えた千春さんは悩むような表情をすると、ニコリと笑って軽く頭を下げてきた。


「まずは、ありがとね。あの子の為にわざわざ来てもらっちゃって」

「いえ、そんな。僕らが勝手にしただけですし、同じパーティーの仲間として心配するのは当たり前ですよ」

「それでもわざわざこんな所にまで足を運んでくれたのだもの。お礼を言うのは当然だわ。

 初め、冬乃が冒険者になってお金を稼ぐと言った時は不安でしょうがなかったけど、あなた達みたいな仲間がいてくれるなら大変心強いわね」


 そう言い終えた千春さんは頬に手を当てると、何かを考えているのか目を閉じたけど、すぐにその瞳を開いた。


「ごめんなさい。私は別に言ってもいいとは思うけど、あの子が嫌がるだろうから勝手にそれを話すことは出来ないわ」

「そうですか……」


 そりゃそうだよね。

 いくら親だからって子供の悩みとかを勝手に言い触らすのは最低だし、会ったばかりの僕らに言う訳ないもんね。

 そう考えると冬乃の母親はキチンと親として子を守っているよ。

 うちは放任主義っていうか、血のつながった赤の他人みたいな関係だから少し羨ましいと思わなくもない。


「心配しなくても数日もあれば落ち着くと思うから、少しだけ時間をあげてくれないかしら?

 普段ならすぐに怒りを発散するから長続きしないんだけど、今回は少し長引きそうなのよね……(まさかあの人から連絡が来るなんて思ってもみなかったし)」


 最後に千春さんがなにか呟いたけど、よく聞こえなかった。

 分かった事はしばらく様子を見るしかないという事だけかな。


「分かりました。突然押しかけてしまって申し訳ありませんでした」

「ううん、いいのよ。今日はもう遅いから、もし良かったら今度遊びに来て欲しいわ」

「はい、その時はお邪魔させていただきます」


 僕らは千春さんに頭を下げるとその場を後にした。


 少し歩いて冬乃の住むアパートから離れたところで僕らは立ち止まって互いを見合わせる。


「結局何も分かりませんでしたね。わたしの[シーン回想]が音まで拾えてたら少しは違ったかもしれないんですが」

「それはしょうがないよ。むしろその派生スキルがあったから、誰も知らなかった冬乃の住所を調べたりとかせずに冬乃の母親に会えたんだし、十分助かったよ」

「うん。それに冬乃ちゃんの機嫌も数日も経てば戻るって言ってたし、しばらくは様子を見よ」

「そうですね。しかししばらくはあまりダンジョンの奥まで行かない方がいいでしょうか?」

「レベル上げが滞りそうなのは痛いけど仕方ないかな……。死んだらガチャ出来ないし」

「ブレませんね先輩」

「個性は大事にするべきだと思うんだ」

「お金がかかってなければ頷いていたんですけどね~」


 かかってないよ?

 うん。


 大樹達の前で15万課金した時はまだ一般人的感覚があったから、15万の段階で吐き気を催し、生活費のこともあったので吐き気と共にギブアップしてしまったけど、今の強制無課金が取り払われたら欲しいものが出るまでお金を使ってやるんだ。


 幸いにも冒険者業でお金は貯まる一方なので、100万使っても全然余裕だからね!

 課金はいいぞ~。


「先輩先輩。戻ってきてください。そんな未来は来ませんよ」


 どうやら口に出ていたみたいで、僕を妄想の世界から戻すためか乃亜に体を揺らされていた。


「未来が来ないだなんて決めつけなくてもいいじゃないか! 夢も希望もないなんてあんまりだ!」

「蒼汰君は本当に課金が好きだね」

「ああ、大好きさ!!」


 生きがいと言っても過言じゃないよ。


「若干狂気すら感じますね。先輩のスキルが[無課金]のままなら何の心配もいりませんが」

「……結婚したらお小遣いの範囲なら好きにしていい、よ?」

「咲夜先輩の言う通りですね。稼げば稼いだだけお小遣いも増やしていいでしょうから、もしも先輩がもの凄く課金をしたいのであれば、その分稼いで頂ければ全然構いません」

「理解があって嬉しいけど、僕は結婚するって決めてないよ」

「そうですね。

「うん、、ね?」


 乃亜と咲夜の含みのある言い方が、先ほど僕が心の中で思ったのと同じような感じがしたのはきっと気のせいじゃないと思う。

 嬉しい反面、僕はこの2人にどう対応していけばいいんだろうかと思いもするけど、最終的に考えてもしょうがないという結論になって頭の片隅に追いやった。


 その後、僕らが千春さんに出会って数日、その間は冬乃の機嫌は悪かったけど徐々に機嫌が戻っていき、いつもの冬乃に戻ったので良かった。

 さすが母親。冬乃の事をよく分かっているね。

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