第12話 友人

 

「この数日は悪かったわね。もう吹っ切れたから大丈夫よ」


 放課後、いつものようにダンジョンへと向かう前に集まると、冬乃が僕らへと頭を下げてきた。


「気にしなくていいよ。誰にだって機嫌が悪い時はあるんだしさ」

「そうですよ冬乃先輩。何があったかは知りませんが、わたし達に相談できない何かだったんですよね?」

「ええ。ちょっと人に話せることではないわ」

「そう言って私にも話してくれないんだから薄情さね」

「「「わっ!?」」」


 廊下で固まって話していたら、ベリーショートの女生徒が冬乃の肩を組むように突然現れて驚いた。


「桜、いきなり現れないでよ」

「じゃあ冬っちはアハ体験をするみたいに注意すれば気づけるような感じで、徐々に現れた方が良かったさー?」

「それはそれで嫌ね。どうやってやるのかは気になるところだけど」


 名前で呼び合っていて気安く話し合ってるから友達だろうか?

 そんな気持ちがこもっていた僕らの視線を受けて、冬乃が自分の肩に顎を乗せている少女の頭をポンポンと叩いて紹介してくれた。


「これは白石桜しらいしさくらって言って、一応友人よ」

「ふっ、ツンデレさね」

「ええそうね」

「あああああああっ!! アイアンクローは照れ隠しにしてもあんまりさー!」


 それなりの力が込められているのか白石さんの顔に冬乃の手がめり込んでいて、白石さんが外そうともがいているけど、まるで外れそうになかった。


「ゼエゼエ、酷い目に遭ったさ」

「自業自得よ」


 しばらくして解放された白石さんは床に手をついて息を荒げていたけど、スッと立ち上がると僕らの方を見て、うんうんと頷いていた。


「冬っちがちゃんとした仲間とパーティーを組んでいて良かったさ。

 ここ数日、精神的に不調そうだったからダンジョンに行くなって言っても冬っちは聞かなかったけど、他に頼りになるメンバーと一緒に行ってるのは知ってたから強くは止めなかったし。

 もし1人だったら下手すりゃ大怪我してたんじゃないかい?」

「うっ、分かってるわよそんな事……」


 昨日までのダンジョンでの事を思い出しているのか、獣耳と尻尾が力なく垂れていた。


「私が今こうして無事なのは蒼汰達のお陰よ。ああ、桜は蒼汰と乃亜さんの事は知ってたわよね?」

「2人だけじゃなくて全員知ってるさ。四月一日咲夜先輩に、ガチャ狂いの鹿島蒼汰とハーレム志望の高宮乃亜でしょ」

「「うん」」

「2人は素直に頷いてんじゃないわよ。桜も明らかに要らない二つ名を付けなくていいわ」

「……咲夜に二つ名がなかった……」


 咲夜が少し落ち込んでいた。

 欲しかったの?


「先輩を仲間外れにする気はなかったけど、目上に変な事は言えないさ」

「そう言う常識があるなら普段の言動をどうにかしなさいよ」

「それは御免こうむる」


 何と言うか自由人だという印象な人だね。


「えっと白石さん」

「ああ、桜でいいさ。白石だと冬っちの苗字と似てるから紛らわしいさね」


 冬乃の苗字が白波だから確かに紛らわしいか。

 冬乃は名前呼びだからあまり気にすることじゃないと思うけど、そう言うならそう呼ぼうかな。


「それじゃあ僕も蒼汰でいいよ」

「桜先輩、わたしも乃亜でお願いします」

「咲夜で」

「分かったさー」


 軽い調子で桜さんから返答がきた。


「それで4人は今日もダンジョンに行くのかい?」

「そうだね。冬乃の調子も戻ってきたけど放課後で時間もそんなにないから、そこまで深い階層にまで潜る気はないけれど」

「それなら問題なさそうさー。冬っちがようやく本調子に戻ってきたばかりだから、しばらくは無理しない方がいいと思ったのさね」

「はぁ……。癪だけど桜の言う通りかしらね、癪だけど」

「何故素直に助言を聞かないのさ」

「癪だからよ」

「どんだけ癪なのさ!?」


 冬乃の気持ちも分からなくはない。

 少し話しただけだけど、おそらく普段からウザがらみをされてるんじゃないだろうか?

 いると面白いけど、ずっといると疲れそうな人だね。


 そんな風に桜さんの事を見ていた時だった。


「あれ? 蒼汰達、まだダンジョンに行かねえのか?」

「いつもならすぐに向かうのに、今日は随分ゆっくりだね」

「あ、大樹達」


 大樹と彰人が2人並んで、まだ教室近くの廊下にいる僕らに向かって歩いて来た。

 彰人の言う通り、確かにいつもなら話しながらでもダンジョンに向かってるから、既に校門から出ててもおかしくないからね。


「大樹は今日は行かないんだっけ?」

「おう。毎日行くと怪我の元だからな。あいつらにもやる事はあるだろうし、適度に休んでるぜ」


 思い出したくない性癖三銃士を思い出してしまった。

 乃亜と冬乃も思い出したようで少し顔をゆがめているけど、気持ちはホント分かるよ。


 それはともかく、高校生だし遊びに勉強と色々やるべき事を考えると、僕らの様に毎日ダンジョンに行くのはかなり珍しい部類だよね。

 乃亜や咲夜の派生スキルで怪我をそれほど恐れなくていいから、毎日行けてるのは本当にありがたいけど。


「たまには休んだらどうだい?」

「いやいや彰人。ちゃんとこの前、1日休んだばかりだよ」

「止めなきゃ1か月ずっとダンジョンに行き続けるのに珍しい。でも週1くらいは休んだ方がいいよ。蒼汰を見てるのは面白いのに、ダンジョンで大怪我して会えなくなるのはつまらないからね」

「僕はいつから娯楽品になったんだ?」

「ボクらが出会った時からさ」

「初めて会った時からそんな扱い!?」


 なんか冬乃の気持ちが分かる瞬間だった。

 桜さんに絡まれてる時の冬乃ってこんな気分なんだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る