第9話 逆立つ獣耳と尻尾
≪蒼汰SIDE≫
昨日僕らは1日遊んでリフレッシュしたので、今日はダンジョンでレベル上げ&金稼ぎだ!
「………」
の、はずなのに何故か妙にイライラしている人物が1人いた。
冬乃だ。
昨日の帰り際、頑張って稼ごうと気合を入れていたのに、今日〔ラミアのダンジョン〕の冒険者施設で一番最後に不機嫌な様子で現れた。
獣耳と尻尾が逆立っているだけでなく、明らかに不機嫌な表情をしており一目で怒っていると分かった。一体どうしたんだろうか?
声をかけるのが少しためらわれたけど、これからダンジョンに入るのに放っておくわけにもいかないから仕方ない。
「なんか機嫌悪そうだけど、どうしたの冬乃?」
「気にしないで。ちょっとみんなと別れた後、嫌なことがあっただけなの」
「あ、うん……。調子は悪くないんだよね?」
「ええ、平気よ」
この時の冬乃はとても平気そうな顔ではなかったけど、僕らは無理に聞き出すことも出来ず、そのまま〔ラミアのダンジョン〕に潜ることにした。
結果から言うとその日は酷いものだった。
丸一日ダンジョンに潜って、ラミアクイーンと戦った金曜日程度の数の魔物しか倒せなかった。
普段なら冬乃が[獣人化(狐)]で鋭くなった五感を生かして魔物を探してくれるんだけど、いつものように魔物を探り当てられていなかった。
それだけじゃなく、戦闘でも冬乃のスキルの発動タイミングが遅かったり、ラミアを急いで倒そうとでもしているのか逆に早すぎて、相手との距離が離れすぎてて威力が十分ではなく一発で倒せなかったりと、金曜日までとはまるで別人だ。
「ごめん」
「いえ、誰にでも調子が悪い時があるのでしょうがないと思いますし……」
「ホントにごめん。大丈夫、明日はちゃんとやるから」
「あ、冬乃ちゃん」
咲夜が呼び止めようとしたけど、冬乃はスタスタと僕らから離れて帰って行ってしまう。
「どうしたんだろ冬乃。昨日まではあんなに機嫌良さそうだったのに」
「心配ですね。わたし達に出来ることがあれば言って欲しいのですが……」
「昨日何かあったのか、な?」
「でも昨日は別れるまでは普通だったよね?」
「そうですね。と言う事は昨日何かがあったんだと思いますけど……。う~ん考えても埒が明きませんし調査しましょう!」
乃亜がサラッととんでもないことを言い始めた。
「えっ、いくらパーティーの仲間とはいえ、そんな勝手に調べるのはどうなんだろ……」
「むしろパーティーだからです! 水臭いじゃないですか。あれだけ共に戦ったのに怒りを隠せないようなことがあっても隠すだなんて。わたし達が出来ることならしてあげた方がいいと思います」
「……乃亜ちゃんに賛成。人に言えない悩みを抱えることになったのかもしれないけど、冬乃ちゃんがどんな悩みを抱えているか知っておけば陰ながら手を貸してあげることも出来る」
「2人の言う事ももっともだね……」
人に勝手に自分の事を調べられるのはいい気はしないだろうけど、出来ることなら力になってあげたいと思うし。なにより――
「レベル上げが滞ると課金がいつまで経っても出来ないから、多少のプライバシーには目を瞑ろう」
「先輩……」
「蒼汰君……」
何故か2人が可哀想なものを見る目で見てきた。何故?
「でも冬乃にバレない様にコッソリとやろう」
「それはそうですね。こんな時くらいしか使えないでしょうが、コッソリ調べるのであればわたしの新しい派生スキルが役立ちます。それでは昨日冬乃先輩と別れた場所に行きましょう」
乃亜の言葉に僕らは頷き、早速昨日別れた地点へと向かった。
既に夕方でもうすぐ夜になってしまうけど、今の僕らは時間なんて気にしなかった。
≪ナンパ男SIDE≫
ああ昨日は散々だったぜ。
いい女達がいたと思ったら、3人とも1人の男に惚れてて修羅場になってないとかどういう状況だよ。
てか、よくよく考えたら、ナンパを回避するためにあの男が体よく利用されてただけなんじゃないか?
ああ、くそ。
今まで冒険者でユニークスキル持ちだって言えば、大抵の女は少し一緒に遊ぶくらいまでならいけるのに、声かけた相手が【
「グルルル」
「こいつら適当に大きな音だしときゃ寄ってくるから、楽でいいな、っと!」
ムシャクシャしていた俺は気晴らしがてらEランクの〔ウルフのダンジョン〕で魔物どもを滅多切りにして、ついでに金を稼ぎに来ていた。
俺はいつも1人でダンジョンに来て魔物を倒している。
俺くらいになると仲間なんているより、1人で倒した方が稼ぎがいい。
「下手に仲間なんか作ると危険な場所で、しけた金しか手に入んねえよ、っと!」
スキル[剣舞]で俺は左手右手に1本ずつに加え、空中に2本の剣を浮遊させて操ることが出来るので、手数を用意できるから1対多で弱くて群れる相手をする方が効率よく稼げる。
「さて、次の獲物が来なくなったし、別の場所に移るか」
そう呟いたところでコツコツと誰かの歩いて来る音が聞こえてきた。
「誰だ」
「ユニークスキル持ちは忌々しいものだ。ダンジョン外でもその力を振るうことが出来るのだからな」
現れたのはどこか偉そうな中年のおやじ、それに付き従うスーツ姿の男と妙齢な女だった。
と言うか、こいつらどうして俺がユニークスキル持ちだって知ってんだ?
今までナンパしたやつにこいつらの関係者がいて、知っていたんだろうか。
「俺は誰だって聞いたんだ」
「知る必要はないだろ。やりたまえ、片瀬君」
「ああ、ああ……。私の――」
一体何を!?
≪???SIDE≫
「楽なものだな。調子に乗って自分が強いと勘違いしている奴を殺すのは」
「そうですね。特にこいつは1人でダンジョン潜ってるから余計にカモです」
「違う! 違う! これは私のじゃない!!」
「で、あれいつ止まるんですか?」
先ほど殺した茶髪パーマの男の死体をめった刺しにしている女が目に入るが、私は明後日の方を向いて視界に入れない様にする。
「さあな。満足したら勝手にやめるだろ」
「リーダーなのに無責任ですね」
「勝手に任されただけだよ」
「ところで今回はターゲットが1人だけだったから良かったですけど、ユニーク相手に3人のままじゃキツイですよ」
「分かっているが人員不足だ。そもそも私達と同じユニーク殲滅の思想を持つ者は組織にも残念ながらあまりいないからな」
「はあ、しょうがないですね。この世のゴミを駆逐するのに戦力は多いに越したことはないですが……」
「確かにな。ユニークスキル持ちは全て人類の敵だというのに」
だがたとえ少ない人数であってもやらなければならない。
私達の組織、“平穏の翼”の名の下に人類の敵を葬ろうじゃないか。
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