第32話 夕方の公園
「えっと……」
僕は思わず後ろを向いたけどそこには誰もおらず、冬乃を改めて見ると不思議そうな顔でこちらを見ていた。
過去の出来事を見せられる夢だと思ったから干渉なんて出来ないと思ったけれど、まさか関わることが出来るとは思わなかった。
いや、よくよく思い返せば、僕が夢を見ていた時は過去の出来事とはいえ、僕自身の行動は完全に過去の動きと同じだったとは言えなかった。
なんせコンビニで買い物しようとした時、感じた事のない違和感に首を傾げていたけど、あの時の僕はそんな気持ちを感じることなく買い物をしていたんだから。
「………」
あっ、いけない。
幼い冬乃に物凄く怪しい者を見るような目で見られている。
具体的には下校途中で遭遇した裸の変質者を見るような目だ。
小学生にそんな目で見られるとか普通にへこむよ。
「僕のことでいいのかな?」
「はい……」
なんとか会話をしてみよう。
明らかにこちらを警戒していて今にも大声で助けを呼びそうだけど、まだセーフなはず。
夢の中とはいえ、叫ばれて捕まるのは嫌だ。
もしも捕まったらロリコン扱いされるのは目に見えている。
どこかの小太りのロリコンに「仲間なんだな」って言われるのだけは、絶対に嫌だ。
「ごめんね、急に近づいて。だけど君が凄く悲しそうにしていたから、何かあったのかなって思ったんだ」
「そう、ですか……」
「余計なお節介だったらゴメン。でも、もう暗くなるし、いつまでもここにいるのは危ないから、家に帰った方がいいよ?」
「……家には、帰りたくないです」
「そうなんだ……」
まあそうだよね。
あの修羅場があった後だと考えると、家の居心地は最悪なんじゃないかな?
しかし困った。
一体どうすればいいのか分からない。
もしもこれが現実なら、どうにかして家に帰るように促すところだけど、所詮これは過去の夢だ。
しかもどう考えても悪夢な方の。
だとするとこの
僕がう~んっと悩んでいると、冬乃が胡乱気な瞳でこちらを見てきていた。
「私の事は放っておいてください。あなたには関係のないことなんですから」
「そう言う訳にはいかないでしょ。君が帰るまでは少なくともここにいるつもりだよ」
「……はぁ~。分かりました。今日は帰ります」
盛大なため息をついた冬乃は、ブランコから降りるとスタスタと公園を出ていってしまった。
さすがに会ったばかりの男がいる方が居心地が悪いか。
しかし冬乃に自身の事情を話してもらわない事には、僕からは何も出来ない。
何も出来なければ、悪夢を受け入れて前に進むよう導くことで目を覚まさせることも出来ない。
だからといって下手に関わると、不審者扱いで両手が前だ。
この悪夢で警察に捕まったら、この夢から出れないってことはないよね?
有り得そうで怖いな。
いや、現時点でどうやって夢から脱出すればいいのかも分からないんだけど。
やっぱり下手にあの黒い物を触るべきじゃなかったか……。
そんな風に思っていたら、再び場面が切り替わった。
いや切り替わったって言っていいのかな?
なんせ、また冬乃が夕方の公園でブランコに乗って佇んでいるし。
僕のいる位置はブランコから少し離れた場所に移動させられたけど、もしかしてループしてるんだろうか?
この場面をどうにかしないと、この悪夢からは脱出できないってやつか?
とにかくもう一度冬乃と話してみるしかないかな。
僕はそう思って、ブランコに座る冬乃へと歩いていく。
ある程度近づいた時、さっきよりも早く冬乃が顔を上げた。
「またお兄さんですか……」
冬乃が顔をしかめて僕にそう言った。
「僕のこと覚えているんだ」
「馬鹿にしているんですか? 昨日の事なのに忘れる訳ないじゃないですか」
どうやらループではなく時間経過のようだ。
しかしそれならどうにかなるかもしれない。
初対面の女子小学生に、少し話しかけただけで心を開いて悩みを打ち明けてもらう様な会話テクニックなんて持ち合わせてないし。
「君はまた今日も遅くまでここにいる気なのかな?」
「昨日も言いましたが放っておいてください。私に関わらないでください」
「なら僕も同じことを言うしかないかな。もう暗くなるから、いつまでもここにいるのは危ないよ」
「お兄さんみたいな不審者に声をかけられるからですか?」
「酷くないかな!?」
冬乃、会って2度目の相手にそれはないんじゃない!?
いや警戒するのは正しいんだけど、不審者扱いはなくないかな!?
「ふぅ。すいません。私はこれで帰ります」
「あ、うん。気を付けてね」
またため息をつかれて帰られてしまった。
昨日よりは小さいため息ではあるけど、この調子じゃいつまでも不審者扱いな気がする……。
どうしたものかな~っと思っていたら、また同じ場面で移動する前の立ち位置に変わっていた。
なんだかループものと変らないんじゃないかと思わなくもないけど、少しは進展していってると信じたいところだ。
そうでなければ僕は延々と夕方の公園を繰り返すことになるのだから。
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