第31話 幻想の温もり


≪咲夜SIDE≫


 魔素親和症候群って体質のせいで施設にいれられて1年が経った時、父から咲夜の妹が産まれたことを知らされた時は単純に嬉しかった。

 最近会うたびにギクシャクしてたけど、咲夜に家族が増えるのは嬉しい。

 咲夜はまだこの施設から出られないけど、父と母と一緒にたくさん可愛がって上げたい。


 だけど月日が経つにつれて、それが叶う事のない未来なんじゃないかと思う様になっていった。


「元気か?」

「ご飯はちゃんと食べてるの?」

「勉強はついていけてる?」


 アクリル板ごしのいつもと同じ決まりきった会話。

 お互い何を話せばいいのか、どうやって接すればいいのか分からなくなってしまった結果、面会が行われるたびに虚しくなってしまう。


 そんな日々が施設を出てからも続いたけど、ようやく施設から出れて学校に通えるようになる。


 家族とはまともに接することが出来なくなってしまったけれど、中学生になって様々な小学校から人が集まるのだから、1人くらい仲良くなれる人が出来るかもしれない!


「ねえ四月一日わたぬきさん。あなたってどこの小学校出身なの?」

「えっ……あの、その……」


 けれど咲夜の希望は打ち砕かれてしまった。

 入学初日、突然前の席の子に話しかけられて戸惑いと緊張、そして嬉しさと恥ずかしさから上手く声が出なくなってしまった。

 それと似たような事が何度かあった後、誰も咲夜に話しかけようとする人はいなくなってしまった。

 自分からどう話しかけたらいいのか分からないのもあったけど、陰で咲夜が何を考えているのか分からないと言われ、魔素親和症候群であることも知られ怖がられている事を知ってしまったせいだ。


 どうしても伝えないといけない事があって話しかけても、誰もが必ずビクリと肩を震えさせているのを見ると、もう仲良くなるのは無理だと感じた。

 なにせその姿は咲夜の家族と似た反応なのだから。


「傍にいてくれる家族が、友達が、欲しい……。誰か、咲夜と一緒にいてよ……!」


 ◆


 魔素親和症候群って体質のせいで施設にいれられてとても寂しかったけど、月に1度の面会はとても楽しみだった。


「大きくなったな咲夜。アクリル板ごしでしかお前の姿を見れないのは凄く残念だが、いつか一緒に暮らせるようになったら、毎年並んで写真を撮って、どれだけ成長したか記録しておこうな」

「私としては咲夜には私の作ったご飯を食べて大きくなって欲しいのに残念だわ。この施設で出るご飯は美味しいのかしら?」

「うん! 咲夜、ここのご飯凄く美味しいから好きだよ」

「あらあら。それじゃあ咲夜と一緒に暮らせるようになった時は、咲夜にマズイなんて言われない様、頑張って作らないといけないわね」

「大丈夫さ。安心していいぞ咲夜。母さんの作るご飯はピカ一だからな」

「ホント!? 咲夜、楽しみにしてる!」

「もう、あなたったらハードル上げないでよ」


 1年経っても父と母は咲夜に変わらない愛情を注いでくれた。

 それは妹が産まれても変わることはなかった。


「咲夜、お前の妹で月夜つくよって言うんだ。ほ~ら月夜、お姉ちゃんだぞー」

「きゃっきゃっ」

「ふふ、月夜ったらお姉ちゃんに会えて嬉しそうね」

「咲夜も嬉しい。施設から出れたら可愛がって上げたい」


 むしろ妹が増えたことで、家族の仲はさらに良くなった気がする。


 家族と絆を育みながら12歳になって施設から出られ、学校に通えるようになった時、咲夜にも友達が出来た。

 今まで施設内には同年代の子はいなくて、友達なんて辞書の中の文字でしか知らないものだったけど、友達がいるってこんなにいいものだったんだ。


 毎日が楽しいな。ふふふ。


 ◆


≪蒼汰SIDE≫


 冬乃が両親の喧嘩話を聞いて、布団で寝たふりしながら泣いているのをただ眺めていることしか出来なかった僕は、気が付けば夕方の公園で立っていた。


 ――ギィ、ギィ


 あれ? 何故か急に場所が変わったぞ?

 ……あ、そっか。これは夢なんだから、いきなり場面が変わることもあるのか。


 ――ギィ、ギィ


 夕方のせいか、公園には1人を除いて誰もいなかった。

 その1人は当然夢の主である冬乃だ。


 先ほどから聞こえてくる聞き覚えのある音、ブランコに乗っている音が1人しかいない公園に虚しく響いている。

 勢いよくこいでいる音ではなく、ほんの小さく揺れる際に響く音なだけによりそう感じる。

 ブランコに座っているけど遊んでいる訳ではなく、ただ揺られるがままにぼんやりとしている様子だった。


「………」


 ただただ無言で座っている様子は物哀しくて、これが冬乃の夢だと分かっているけれど何とかしてあげたいと思ってしまう。


 僕はブランコに座っている冬乃へと近づいていく。

 夢であり、過去の出来事を見せられている以上、僕が冬乃に干渉なんて出来ないだろうけど、悲しんでいる人の傍にいてあげたいと思うから。


 ブランコをこがないで俯いている冬乃の傍にたどり着き、声をかけることなく僕は冬乃を見下ろしていたら――


「……お兄さん、誰?」

「えっ?」


 突然冬乃がこちらに顔を向けて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る