第30話 誰だ!?

 

「〔典外回状〕については分かりましたけど、結局これ、どうするんですか?」


 〔典外回状〕についてある程度話したところで、門脇君が巨大な桃を指さして聞いてくる。


「どうするもこうするも放置するしかないよ」

「そうなんですか? 閉じ込められたあいつらに何も出来ないんでしょうか?」

「むしろ何もする必要がないんだよ」

「どういう事ですか?」

「この桃に閉じ込められた者は悪夢と幸福な夢を見させられるんだ。悪夢を見た後に幸福な夢を見ることになるのだから、自力で起きられる人間などまずいない。

 幸福な夢を否定し、悪夢な現実を選べないと起きることが出来ないんだからな」


 1度私も巻き添えを食らったことがあったが、とてもじゃないがあの夢を否定することは出来ない。

 家族と共に過ごした日々を否定するなんて、私には無理だ。


「じゃあ閉じ込められたら、ほぼ永遠にこのままなんですか?」

「いや、外から桃を割れば中の者は解放される。だから3日ほど放置して、中の人間が衰弱するのを待ってから割れば確実にユニーク持ちを殺せるさ」

「片瀬さんも衰弱しますね」

「それは仕方がないさ。だから衰弱死する前に割るのだし、本人だって出来るだけ長く夢を見ていたいだろうよ」


 そのための〔典外回状〕なのだし。


「だから私達は交代でここを見張り、時間が来たらこの桃を割る。その為の準備として常にユニーク持ちを襲う前に〔マジックポーチ〕に水と食料の準備はしてあるから安心するといい」

「はぁ。毎回片瀬さんが〔典外回状〕を使用する訳ではないとは言え、僕も今後は何か用意してきますよ。3日もここにいるのなら何か暇つぶしの道具も用意しておきたいですしね」


 門脇君は少しウンザリした表情で、床に座って休もうとした時だった。


「あなた達に次はありません」

「誰だ!?」


 私は曲刀を構え、門脇君もすぐさま立ち上がり、声のした方向へと取り出した槍を向ける。

 そこにいたのはフードを目深に被った不審人物だった。

 声の感じからしてだと思うが、こいつは一体……?


「誰でも構わないじゃないですか。どうせもう2度と会う事はないんですから」


 男はまるで散歩でもするかのようにゆっくりとこちらに近づいて来る。


「止まれ! 止まらないなら痛い目を見ることになるぞ」

「………」


 門脇君が忠告するも、男はその忠告を無視してこちらに向かって来きていた。


「ちっ、[投擲][誘導]!」


 さすがに忠告を無視したのだから、仕方あるまい。

 ユニーク持ちかどうか分からない相手を、むやみやたらに傷つけるつもりは私達はない。

 しかしユニーク持ちの排除の邪魔をするようであるのなら、多少傷つける程度は仕方がないな。


 門脇君の放った4つの手裏剣は正確に相手の両脚へと向かっていき――何故か全てすり抜けて当たらなかった。


「「っ?!」」


 おかしい。間違いなく手裏剣は当たるはずだった。

 そう思った次の瞬間、目の前にいた男は忽然と姿を消えていた。


 ――あなた達も夢を見るといい。ただし、夢は夢でも悪夢しか見せないけどね。


 まるで脳に直接語りかけられたかのように頭に声が響き、私は抗いがたい睡魔に襲われ、門脇君共々床に倒れることとなった。


 ◆


≪???SIDE≫


 さて、この桃を割れば中にいる者を助けることが出来るんだったね。


 ――タッタッタ


 おっと、もう来たのか。

 魔法使いの動きが思ったよりも早かったね。

 これならわざわざ来る必要はなかったかな?


 まあいいや。

 それじゃあ後は向こうに任せるとしよう。

 魔法使いがこの桃の仕組みに気付いて救出するのが先か、自ら幸福な夢を捨てて現実へと戻ってこれるかは見ものだね。


 ◆


≪乃亜SIDE≫


 学校で授業参観があった後から、周囲のわたしを見る目が変わっていた。

 まるで嘲笑の対象だとでもいうのような目だ。


「お前の父ちゃん、ハーレムの主なんだろ?」

「うわっ、ゆうじゅうふだんのエロ親父だ!」

「男のかざかみにもおけないさいてーな父だ!」


 男の子からはお父さんをバカにされた。


「乃亜ちゃんのお父さんふけつ~。そんな家庭を築くのは嫌だわ~」

「やっぱり自分だけを見てくれる男の人と結婚したいよねー」

「ハーレム家族なんて有り得ないわね」


 女の子からはお父さんを汚いもののように言われ、わたし達家族の在り方を否定された。


 なんで?

 どうしてそんな酷いことを言うの?

 お父さんはさいてーなんかじゃないのに。

 わたしの家族をよく知りもしないくせに、そんな事言わないでよ……!


 ◆


 学校で授業参観があった後から、周囲のわたしを見る目が変わっていた。

 まるで羨望の対象だとでもいうのような目だ。


「乃亜の父ちゃんすげーな。ハーレムなんて作れるもんじゃねえよ」

「たくさんの女の人を幸せにしてるんでしょ? 憧れるよね」

「男ならハーレム目指さないとな!」


 男の子からはお父さんを尊敬された。


「乃亜ちゃんのお父さんカッコいいよね」

「わたしも乃亜ちゃんのお父さんみたいな人と結婚したいな」

「乃亜さんの家庭は家族がいっぱいで楽しそうね」


 女の子からはお父さんを素敵な人だと言われ、わたし達家族の在り方を羨ましがられた。


 そうだよね!

 みんなハーレムに憧れるものだよね!

 ハーレムは色んな女の人をとっかえひっかえするようなのじゃなくて、たくさんの家族と共に生きていくことが出来る素晴らしいものだもん。

 わたしも将来はお父さんみたいな人と結婚してハーレムを作りたいな。


 ふふ。うふふふふ。

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