第33話 罵られるために毎日会いに来る変態

 

「またですか」


「そろそろ警察に助けを求めた方がいい気がしてきました」


「ストーカーでロリコンとか救いがないです」


「お兄さん、高校生なのにこんなところで小学生を相手にするとか、友達いないんですか?」


 ……シクシクシク。

 冬乃だけど、小学生に辛らつな言葉をかけられ続けると心が折れそうになるよ。


 冬乃にとっては日をまたいでいるかもしれないけど、僕にとっては間を置かずに何度も罵倒されてるようなものだから、より心にくるものがある……。

 真性のロリコンかドMならご褒美って言うのかもしれないけど、僕にそんな性癖はないから普通に辛い。


「罵られるために毎日会いに来る変態のお兄さん、こんにちは」

「お兄さんだけでよくない?」


 罵られたくて毎日話しかけてる訳じゃないんだけど……。


「別にお兄さんが変態でも、直接手を出してこない限りは話し相手くらいにはなってあげます」

「まるで人を友達のいないボッチの変態かのように言うのは止めよう」


 風評被害甚だしいな。

 これが夢の中じゃなかったら、周囲の目が怖すぎてこの場から離れてるところだよ。


「……じゃあ、なんでわざわざ私に構うんですか? 小学生に馬鹿にされてるのに、毎日のように公園に来るのなんて、よっぽどの物好きな変態しかいないと思います」

「別に馬鹿にされたい訳でも、小学生だからって訳でもないことだけは分かって欲しいなー」


 その2点の内、どちらか1つでも受け入れたら色々と終わりな気がする。


「心配だからって理由だけじゃ駄目かな?」

「ダメではないですけど、何を考えているのか分からなくて、ただの変質者よりも逆に不安になります」

「まさか変質者以下だと思われているとは思わなかった」

「そう思われたくないならキチンと理由を話してください。納得するまでは変態とみなします」

「それはそれで嫌だな!?」


 ◆


≪冬乃SIDE≫


 数日前から公園でブランコに乗って時間をつぶしていると、高校生のお兄さんが現れて声をかけられるようになった。

 だけどその理由が分からない。


 お兄さんが私を見る目はいやらしいものではなくて、ただ純粋にこちらを心配するような目だったから、警察はおろか親にも話していない。

 まあ、今の両親は喧嘩ばかりしていてとてもじゃないけど話しかけられないから、誰にも相談する相手がいないだけだけど。


 でも一番の理由はお兄さんとはどこかで会ったような気がして、傍にいても何故か嫌な気分にはならないから。


 とても不思議ね。

 そんな事、会ったばかりの人に感じた事なんて、今まで一度もなかったのに。


 そんな人に毎日酷い事を言うつもりがないのだけど、何故かついつい軽口を叩いてしまう。

 お兄さんの優しそうで純朴そうな雰囲気がそうさせるんだろうか?


 だけどお陰でここ最近暗い気持ちになっていたのに、心が少し軽くなっているので内心ちょびっとだけ感謝しているわ。

 悪いと思いつつも馬鹿にしたように話しかけてしまうのは、このやり取りがストレスを解消出来てしまうほど楽しいって思うからだけど。

 私、Sだったのかしら?


 だからこそ、お兄さんが何で私に毎日声をかけてくれるのかが分からなくて不安だ。

 なにせこのまま相手を馬鹿にするような会話をしていたら、もうお兄さんが来なくなってしまうんじゃないかと思うと、不安でしょうがない。


 まだ馬鹿にされたくて来るのであれば、むしろ丁度いいわ。

 お互い利害が一致してWIN-WINの関係なんだから、私も遠慮なくサンドバッグに出来るというもの。


 だけどお兄さんが無理をしてでも私をただ心配しているだけなのであれば、申し訳なくてしょうがない。

 だから聞かせて欲しい。

 どうして私にこんなにも構ってくれるのかを。


「お兄さんは何故私を心配してくれるんですか?」


 でないと、私はお兄さんに安心して頼る罵倒することが出来ないのだから。


 私が真剣な目でもう1つのブランコに座っているお兄さんを見ていると、お兄さんは困ったなと言いたげな顔をして人差し指で軽く頬を掻くと、意を決した顔をした。


「実は君が今抱えている問題を知ってるんだ、って言ったらどう思う」

「やっぱりストーカーじゃないですか」

「うん、言うと思った」


 実は今まで出会った中で一番ヤバい人と会い続けていたの、私?


「別にストーカーじゃないよ。ただ、君の両親が喧嘩している様子をたまたま聞いちゃっただけだよ」

「一体何をどうしたら、そんなピンポイントで人の家の不祥事を聞けるんですか……」

「本当に聞く気はなかったんだけどね」


 そう言うお兄さんの表情に嘘はないように思えたわ。

 ……口先三寸で適当に言っている可能性もあるのに、会って数日の人の聞く気はなかったなんて言葉をここまで信用するとか、私はこんなにも弱っていたのか、あるいはお兄さんが人の心に入ってくるのが上手いのか。


「分かりました。いいです。お兄さんが何故知ってしまったかは不問にします」

「ありがとう」


 はあ。何で私はこんなにもこの人を信用しているのか。

 普段だったら即座に警察に駆け込むレベルで怪しい人なのに、本当に不思議な人ね。

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