第47話 HP兼MP

 

≪蒼汰SIDE≫


 青いワンピースに白いエプロンとお馴染みのアリスの恰好+α(黒のロングヘア―)をしている僕は不思議な空間に立っていた。


 ミミックに使った時は真っ白な空間だったけど、【白虎】――いやクライヴの精神世界はそれとは違い、だだっ広い草原だった。

 どこからともなく吹く風が気持ちよく、太陽の光もポカポカと気持ちがいい。


 いつまでもここにいてのんびりしたいと思うほどだ。

 ただし――


『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!』


 巨大な禍々しい呪いの十字架らしきものと、その前で狂ったように雄たけびを上げている虎人がいなければだ。ここでは人型なのか。


 ここがクライヴの精神世界なだけあり、おそらくクライヴの故郷か思い出の地なんだろう。

 見た事もない場所なのは異世界の景色だと思えば当たり前か。

 まあ地球でもほとんどの場所は見た事ないんだけど。


『ユルセナイ! ヨクモワレラヲタバカッテクレタナ!!』


 復讐はすでに終えたはずなのに、まるで無理やりその怒りを増幅させているかのように、あの禍々しい十字架から黒いオーラがクライヴへと放たれ続けていた。


『シネ!!』

「会話もなく問答無用で襲ってきたな」


 まあまともな精神であれば、あんな片言にならないから当然といえば当然の行動なのかもしれないけど。

 僕は迫りくる鋭利な爪に対し、大楯――〔報復は汝の後難と共にカウンター リベンジ〕を出現させて受け止める。


「〈解放パージ〉」

『グアアッ!?』


 〔報復は汝の後難と共にカウンター リベンジ〕によって弾き飛ばされたクライヴは、反撃を受けたせいかさらに怒りがわき上がっているようで、先ほどよりも怒りに満ちた表情でこちらを睨んできた。


「危ないなぁ。精神世界でなら何でもできる仕様じゃなかったら、今のでやられていたかも」


 もっとも、いくつか制限はあるので何でもできるというのは語弊があるのだけど。


『ゥルアアアア!!』

「くっ、精神が疲弊するまでに何とかしないと」


 急がないといけないと思っていると、クライヴが尋常じゃないスピードで動いて大楯で防ぐ前に切り裂こうとしてきた。

 とっさに大楯を手放して屈んで避けるも、今度は蹴りを放ってきてかわしきれない。


「ぐあっ!」


 さすがにミミックのようなのとは違い、クライヴが周囲の人達よりも戦闘に秀でていると言っていただけあって理性が無いにもかかわらず強い。

 僕自身がこんなまともに戦った経験が少ないから、戦闘の駆け引きなんて正直よく分からないのもあるけど。


 最後に僕自身が戦ったのってドッペルか?

 その前がゴブリンだったかと思うと、こういう時のために少しは戦う経験は積んでおかないといけないのかもしれない。


「できれば〔明晰夢を歩く者アリス〕で戦う機会なんてないに越した事はないんだけど、ね!」

『アマイ』

「くっ」


 今度は咲夜の鞭、〔傷跡のない恍惚なるアンフォゲッタブル痛みペイン〕を出現させて適当に振るうも、バックステップで簡単に避けられてしまう。


『ハッ!』

「うぐっ!?」


 鼻で笑ったのかそれとも気合の声なのかは分からないけど、鞭での攻撃を避けたクライヴに今度は殴り飛ばされてしまった。


 このままじゃ戦う手段もなくなってしまうからマズいな。


 単純にHPが無くなって戦えなくなるのではなく、武器を出現させるための精神力が削られてしまうからだ。

 この精神世界は特殊であり、精神力の残量が命の残量であり力を行使する残量でもある世界なのだ。


 例えるなら今の僕はHPとMPが合一になっている状態だ。

 〔報復は汝の後難と共にカウンター リベンジ〕のような【典正装備】を使えばMPが減るのだけど、MPとHPが同じものなので同時にダメージも受けているようなもの。


 HP兼MPが0になれば強制的にこの世界から追い出されてしまうので、精神が摩耗する前にケリをつけないといけないのだ。


『ヨワイヨワイヨワイ! コノテイドカ!』


 奥の手はあるんだけど問題はそれをするのに時間がかかる事。

 何とかして隙を作らないといけないけどどうすればいい?


 相手の動きを止めるのであれば乃亜の〔閉ざされた視界フォーリン開かれた性癖プロクリヴィティ〕だけど、強い麻痺効果を与えるには相応の時間身に着ける必要があるから、その間になぶり殺されてしまいそうだ。そうなれば結局奥の手を使う精神力も残らないし意味はない。

 冬乃の[幻惑]も〝風〟で吹き飛ばされるか避けられるだろうし……。


 僕が思い浮かぶ限りの【典正装備】やスキルを考えるも、クライヴの速さを考えると拘束しようとしても全部避けられてしまうだろう。〔桃源鏡エンドレス デイリー〕が仮に使えたとしても避けられる気がするし……。


 こうなったら拘束したり動きを止めようとするのは諦めて、自身を強化してなんとか倒すか、この世界に明らかに異質な禍々しい十字架を破壊するかだ。

 だけどあの十字架はかなり頑丈そうで、ちょっとやそっとな事では破壊できない気がする。

 あれを破壊しようとしている間にクライヴに攻撃されてやられるのは火を見るよりも明らかだ。


「……困ったね」

『フヌケテイルバアイカ!』


 憤怒の形相でクライヴが僕に向かってその拳を握りしめて向かってきた。


「まずっ[金剛]!」


 思考に頭を割いている隙をクライヴが見逃すはずもなかった。

 迫ってきたクライヴにとっさに[金剛]を使用して身を守る。


「うっ!?」

『ナ、ナンダ!?』

「へっ?」


 僕を殴ったはずのクライヴが何故かおかしな反応をしていた。


 クライヴは何が起こったのか分からない様子だけど、それは僕としても同じ気持ちだ。

 何故なら突然僕の胸元から光の玉がクライヴが僕を殴ったのと同時に飛んでいき、クライヴへと宿ったのだから。


『主様よ。妾を忘れてもらっては困るの』


 それに加え勝手に出てきたシンディが僕の横に立っていたのだから困惑してしまうのはしょうがない。


 え、シンディは僕経由ならこの世界に入れたの?

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