第15話 “怠惰”の魔女


「え、何で?!」


 ハッキリ言ってあり得なかった。

 僕の[ソシャゲ・無課金]スキルで電話機能なんか無い。

 にもかかわらず未だ鳴り続けるスマホに疑問しか湧かなかったけど、とりあえずこの電話を出ることにした。


「……もしもし?」

『電話に出るの遅くないかしら?』

「いきなり鳴るはずのない電話が鳴ったからビックリしてたんですよ。というか、どうやってエバノラがこれに電話をかけてるんですか」


 スマホから聞こえてくる声の主は、僕らに安全地帯の力を渡してきたエバノラだった。


『そんなのスキルを渡した時に仕込んだからに決まってるじゃない。あなたのスキルを弄りまわしている時にチョット通話機能をねじ込んだだけよ』

「人のスキルに何してくれてんの!?」


 ちょっ、さすがにそれは許されざる事ではないかな?


『別にこの通話機能にそこまで容量割いてないわよ。[ダンジョン操作権限(1/4)]を与えた後にわずかに残ったスペースに[ダンジョン操作権限(1/4)]の追加機能として差し込んだだけだもの。

 あなたがダンジョン内にいる時に限り私のみに連絡ができる隠し機能、というかあまりに容量なさ過ぎて派生スキルにならないレベルだし』

「じゃあせめてその事を伝えといてくれません? って、それよりもその[ダンジョン操作権限]で作った安全地帯に、【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】が侵入できる事を先に言っておいて欲しかったんですが」

『そんなの場合によるとしか言えないわよ。知恵のあるタイプなら違和感を感じて侵入してくることはあるけど、本能で動くタイプだと全然気づかなかったりするわね』


 場合によりけりと言われてしまえばそれまでなんだけど、そう言われるとなんだかこの安全地帯が頼りないもののようにも思えてくる。

 まあ魔物を近づかせないだけでも十分ではあるけれど。


「安全地帯については分かりましたけど、それはそうと機能追加するのなら許可取ってからやってくださいよ」

『使わない機能になる可能性の方が高かったのよね~。あなたの近くに私のがいると感知したから連絡しようと思ったのだもの』

「はい?」

『そこにやる気のかけらもない茶髪の娘が近くにいないかしら?』

「なんで分かるんですか? まさかそっちからこっちの様子を見てるんじゃ……」


 まさか監視機能まで付いてるのでは?


『それはやりたかったけど出来なかったわね』

「サラッと問題発言!?」

『ダンジョンの機能を使ってマーキングしたあなたの近くに私のがいたら反応するように設定しているだけだから。あなたには通話機能以外何も仕込めてないわ』


 目の前にいたら間違いなくしばきたくなっていた発言を先ほどからしてくるエバノラに対し、色々言いたいことはあるけれど、今は心を落ち着けてこの場で聞かなければならない事を優先しよう。


「仲間って?」

『だからあなたの近くにいるんでしょ? やる気のなさそうな茶髪の娘。その娘は“怠惰”の魔女、ローリーで私の家族よ』


 どうやらあのテントで今もぐっすり眠り続けている女性は、かつて魔女狩りに遭い、ダンジョンになってしまった人物の1人のようだ。


『悪いのだけどそのスマホ、その子の所まで持っていてもらってもいいかしら?』

「え、あの人【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】になってるんですけど……。近づいたら殺されるんじゃ……」

。その子自身は何もしないのだから』


 何故確証を持ってそんな事が言えるのか。

 このスマホはスキルで出してるやつで、僕以外触れないから誰かに変わってもらう事も出来ないし。


『その子が近くにいるのなら、攻撃しようとしたんじゃないの? 【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】になっているのなら、あなた達は間違いなくそうするわよね。

 そして、何も出来なかった』


 何かを知っているかのような思わせぶりな口調だった。


『そのままその子を取り囲んでも何も始まらないわよ。事態を進めたいのなら、私と話をさせなさい。

 ただし近づく際はローリー自身に近づくんじゃなくて、ローリーのいる場所に近づこうと思って行動しなさいよ』


 そう言われても困るし、意味の分からない事まで言われてしまった。

 それは結局どっちも同じ結果だと思うのだけど……。


 出来れば近づきたくないけれど、僕が寝ているところに乗っかってきたんだし、殺すつもりならその時にしてるだろうから今更近づいただけで殺される事はないだろうけどさ。


「まあ死んでも最悪生き返れるか」


 でも死ぬのは怖いなぁと思いつつ仕方がなく、信長ローリーへと近づいていく。


「先輩、わたしの後ろに。最悪攻撃してきても止めてみせます」


 やだ素敵。

 でもそれ完全に騎士ポジションで僕お姫様ポジなんだけどいいの?


「攻撃できなかった理由は分からないけど、目くらましで逃げる時間は稼ぐわ」

「なら咲夜がいざとなったらみんなを抱えて逃げる」


 やだ、この中で1人だけただスマホを持って近づいてるだけの人がいる。僕だけど。


 ドキドキしながら信長ローリーにスマホを近づけると、スマホから声が響く。


『ローリーいつまで寝てるの。返事しなさーい!』

『ふぇ? この声、やっぱりえっちゃん? 匂いがしたから来てみたら全然違う人だったのに。……男になったの?』

『そんなわけないでしょうが。寝ぼけてるんじゃないわよ。

 はぁ~。普通に理性があるし、やっぱりローリーはただ流されるままに行動していたわね』

『考えるのめんどい』


 う~ん、今までの事といい、今の様子といい、物凄いものぐさな人な感じがするなぁ。


『今すぐ私の所に合流しにくるのは出来ないかしら?』

『無理。頭の中で人間殺せってうるさかったから、その指示に適当に従って【魔女が紡ぐ物語トライアルシアター】展開して完全に同化したから、一回倒されないといけない』

『やっぱりかぁ。大変じゃない。そこにいる子達が』


 僕らがかよ。


『ん、説明よろ』

『自分でやりなさいよ』

『めんどい』


 もはやエバノラとは旧知の仲であるのは疑いようがないけれど、色々と説明してもらえませんかね。

 ここには僕らだけでなく、他の冒険者の人達もいるんだからさ。

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