第16話 “怠惰”の特性


 

 僕はこの場にいる人達にエバノラの声が聞こえるように、何故か機能として当たり前の様についていたスピーカーモードにしてスマホを掲げた。


『この場にいるほとんどの人間は初めまして。私は“色欲”の魔女、エバノラよ。

 単刀直入に言うわ。私達があなた達の言う【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を生み出してしまっている存在よ』


 エバノラの発言にほとんどの人が騒つき出していた。


 そして僕も内心焦っていた。

 エバノラの発言が黒幕宣言なせいで、そんな黒幕と繋がっている僕らは他の人にどう思われるのか不安でしょうがないよ。


「あなた達のせいで、ダンジョンに危険な存在が生まれているという事なの……?」

『元はと言えば人間が魔女を迫害したのが原因よ。魔女が実在していた時代にあなた達人間が――』


 周囲の代表をするかのように沙彩さんがそう問いかけると、エバノラは以前僕らに話したのと同じ内容を淡々と述べていった。


「そんな……!」

「いや、ちょっと待てよ。魔女狩りがあったとはいえ今を生きる人間には関係ないだろうが。恨むべき相手が違うだろうがよ」


 野生ボウズさんが食って掛かるように言うと、スマホの向こう側からエバノラのため息が聞こえてきた。


『別に私は恨んでないわよ。おそらくそこにいる娘もね。

 ただ過去の人間のせいで人間を恨む怪物が生まれてしまったのだから、そのツケは今を生きる人間に回ってくるのは当然じゃない』

「ちっ、他人事かよ」

『恨まないで人間の敵に回らず、むしろ手助けをしているのだから文句を言われる筋合いはないわね』


 そう言った後、魔女の事情やダンジョンの操作技術を国に伝えている事もエバノラは付け加えて言った事で冒険者の人達は一応納得した様子を見せていた。


 うん、良かった。

 危うく黒幕の手下みたいに見られるところだったからね。


 ……黒幕の手下ってちょっとカッコいいと思ったのは誰にも言わないようにしよう。中二心がうずく……。


『一通りの説明は済んだから本題にいくわよ。そこにいる娘、ローリーは今【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に組み込まれているから、解放するには【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を倒さないといけないわ』

「オレ達がここに来た理由は、どの道【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を倒す事だから解放とかどうでもいいんだが、そいつを倒しちまっていいのかよ」

『構わないわ。今のローリーは分かりやすく言えば【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】という名のロボットに乗ってるようなものだから。ロボットが壊されたところでパイロットが死ぬわけじゃないもの』


 魔女狩りの時代の人間がロボットで例えるとか違和感あるな。

 ロボなんて言葉が出るのはエバノラがサブカルを満喫しまくってるからなんだろうけど。


「問題ないのなら構わないけれど、それよりも倒し方よ。どうすればここの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を倒せるのかしら?」

『そればかりは私に聞かれても分からないわ。ローリーに聞いてもらわないと』


 沙彩さんがそう尋ねると、エバノラが困ったわ~みたいな感じの声音で言ってくるけど、困るのは僕らなんだよ。


「それじゃあ昔からの知り合いなんで、エバノラが信長ローリーに問いただしてくれません?」

『無理よ』


 お願いしたら即答で無理と言われてしまった。


「なんで?!」

『だって私、そっちに行けないもの。ローリーに何かをさせようとするのなら、直接会って興味を引く何かをちらつかせながらじゃないと、何もしようとしないわ』


 なんて面倒な人間なんだ。


『それに加えて今のローリーは“怠惰”の特性をフルで使ってるみたいだから、普通の人間じゃローリーと交渉もできないわ』

「どういう事ですか?」

『さっきあなた達がローリーに攻撃しようとして出来なかったのはローリーの“怠惰”の特性によるものよ。

 そのせいで直接間接かかわらずローリーに何かをしようとした時、その人間がその時最もしようと思っている行動へのやる気を減衰させてしまうわ』


 さっき全員が攻撃しようとした際、攻撃できなかった理由はそれでか。


「あれ? でもさっき朝起きた時僕の上に乗っていた時は普通に触れたし揺すれていたのに……」

『あの子、薄着であなたの上に乗ってたんじゃないの? なら性欲が減衰してたんでしょ』


 確かに不思議とエッチな気分にはならなかったけど、それを周囲が聞いてる状態で言って欲しくなかったな。


『間接的にであればやる気の減少はある程度で済むけれど、直接何かをしようと思ったら一気にその行動への気力は無くなるわ』

「そんな相手にどう交渉しろと?」


 交渉しようとしてもその気力が無くなるなら、まともに話も出来ない気がする。


『何言ってるのよ。あなたなら問題ないわ』

「どういう事ですか?」

『私があなたに与えた物を思い出してみなさいよ』

「[ダンジョン操作権限(1/4)]のスキルですか?」


 あれを使えば気力の減衰に抗えるのだろうか?


『そっちじゃないわ。紐よ紐』

「え゛っ」


 僕がエバノラの試練で手に入れた【典正装備】、〔緊縛こそノーボンデージ我が人生ノーライフ〕は縛った対象の性欲を徐々に増幅させ理性を溶かす効果がある。つまり――


『それを自分に巻きつけてれば性欲が増幅してエッチな事が優先になるから、ローリーと接しても性欲へのやる気が減衰するだけで交渉することが出来るわ』

「嫌ですよ!」


 誰が好き好んで発情状態になりたいというのか。


『でもローリーとまともに接する方法はそれしかないわよ。私がさっきその子と会話していた時、実は“色欲”で自分を発情させてたから出来たことだし。はぁはぁ』

「吐息を漏らしてくるのは止めてくれませんかね!!」

『あ~そろそろ限界。ちょっと発散してくるわ』

「その報告いらないんですけど!?」


 ――ツーツー


 ブツンっと問答無用で電話を切られてしまった。

 え、この後僕が何とかしないといけないの?

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