第14話 〈【魔女が紡ぐ物語】:織田信長〉

 

 織田信長と名乗る女性がいつの間にかテントに侵入して――寝ていた。


 戦ったり危害を加えて来たりせず、普通に寝ていた。

 どうすりゃいいの?


「とりあえず他の人呼んできますね」

「あ、うん、お願い。僕らは見張ってることにするよ」


 乃亜にそう返したけど、起きる気もなくずっと寝続けている信長を見張る意味があるかは不明だ。


「朝から騒がしいと思ったら……。とんでもない事になりそうね」

「その女性が本当に織田信長なら大問題」


 冬乃と咲夜も僕と乃亜のやり取りの間に起きて、この女性から少し離れて様子を見ていた。


「それにしても本当に織田信長なんだろうか? 顔立ちとかどう見ても日本人じゃないんだけど」


 茶髪はまあいいとして、顔立ちが完全に西洋人だし。

 上杉謙信や斎藤道三は見た目完全に日本人だった事を考えると、織田信長か疑わしいんだよなぁ。


「信長が現れたってホント!?」

「沙彩さんですか? えっと、一応本人はそう名乗りました」


 テントの入口辺りから大きな声をかけられたのでそれに答えると、沙彩さんはすぐさまテントの入口から顔を覗かせた。


「どこにいるの?!」


 そう聞かれたのでこれだけ騒がしくしてもまだ寝続ける信長の方を指さした。


「……それが信長なの?」


 今はうつ伏せになっていて、ボサボサの茶髪とTシャツぐらいしか見えないためにその気持ちはよく分かる。


「誰かが寝ぼけてあなた達のテントに侵入したあげく、寝言で信長を名乗っただけじゃないの、これ?」


 これが【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】とか言われても、こんな見た目じゃ信じられないよね。


「テントの中にいつの間にかいたんですが……。入口はわたしがずっと見張っていて、誰も入ってこれないはずです」

「とりあえずあなた達、一旦テントから出なさい。他の連中もすぐにここに来るから、それまで警戒態勢よ」


 そう言われたので、一応念のために乃亜達にコスプレなどいつもの装備をセットして待機していたら、続々と冒険者の人達が集まって来た。


「安全地帯でも【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】は入ってくるのか。そいつはどこにいやがる!」

「落ち着かんか浩。どうやら今はあのテントで寝てるそうじゃぞ」

「何でだよ!?」


 その気持ちはよく分かります。


「寝てるってどういう事なんだ?」

「実は――」


 集まって来た人達は先にいる人達に事情を聞き、何がどうなっているのかを把握していった。

 そして全員が頭の上にクエスチョンマークを浮かべているような表情になっている。


 なんで寝てるんだよ、という気持ちでいっぱいなんだろうね。


「おい、どうすんだ? あれが織田信長なら討伐対象だろ」

「そうよね。全員でテントを取り囲んで遠距離から一斉射撃で倒すのが手っ取り早いんじゃないかしら。問題はあの人が織田信長じゃなくて、ただの寝ぼけてた人間なら殺人になるわけだけど」


 しかしみんなが思う事は、あれがただの人間だとしか思えない事だろう。

 目を見れば武将なら目の白い箇所が黒いからそれで判別できるのだけど、残念ながらあの人はずっと寝ていて目を閉じっぱなしだから、それで判別はできない。


「誰か鑑定系のスキルを持ってないかしら?」


 そう言えばそれがあった。

 僕自身がそんなスキル持ってないからすっかり忘れていたよ。

 ……持っていないのは他の普通のスキルもなのだけど。


「ん? 上手く鑑定ができない? 周囲全てをまとめて鑑定してみるか……。〈【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】:織田信長〉と出た。間違いない」


 とりあえずこれで無実の一般人を遠距離から吹き飛ばすという惨劇はなくなったようだ。


「よし。それなら全員であのテントを半円状に包囲して、中にいる【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を吹き飛ばすわよ」


 僕らの用意したテントがお亡くなりになる事が確定した。

 まあテント1つで【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】が倒せるのであれば全然構わないのだけど。

 問題があるとすれば――


「攻撃をして信長に当たった瞬間、安全地帯は消えますから注意してください」

「あ、そう言えばそうだったわね」


 沙彩さん達がその事について話し合った結果、何人かが安全地帯の外にいるスケルトンを倒して信長とスケルトンの両方を相手どらなくて済むようにする事になった。


 安全地帯の外でスケルトン達の討伐が始まりしばらく経った後、ついに信長への攻撃を開始する。

 遠距離から攻撃するだけなので僕らも当然それには参加する事になったので、[ソシャゲ・無課金]スキルのスマホを操作して乃亜達の準備も万全だ。


「それじゃあみんな。合図と同時に攻撃するわよ!」


 沙彩さんがそう言うと早速カウントダウンが始まる。


「5・4・3・2・1、撃てえ!!」


 ………。

 ……………。

 ………………………ん?


 沙彩さんが撃てと言った後、1攻撃をしなかったせいで、周囲はシーンとなっていた。


「え、なんで誰も攻撃しないの?」

「わ、分からないわ蒼汰。私は確かにテント目掛けて〔籠の中に囚われし焔ブレイズ バスケット〕を撃とうとしたのだけど、最後の瞬間何故か撃つ気がなくなっちゃったのよ……」

「はい?」


 意味が分からず他の冒険者の人達を見回してみると、誰もが困惑気な顔をしていた。


 安全地帯の中だからとはいえ攻撃できなくなる機能はないし、何が原因なんだ?

 そんな事を考えていた時だった。


 ――トゥルルルル


 電波なんて届かないはずの場所で着信音が何故か鳴った。

 しかも僕のスキルの方のスマホから。

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