第34話 おーほっほっほ!

 

 兄妹喧嘩に巻き込まれるかと思ったけど、決着はあっさりとついた。


「絶対に俺は認めないからなー!」


 そう言いながら走り去っていく穂玖斗さん。

 乃亜相手に攻撃することなく、受けるか避けるかした後、とっとと立ち去ってしまった。


「すいません先輩方。うちの愚兄が迷惑をかけてしまって」

「いや、乃亜が謝る事じゃないし、気にしなくていいよ」

「いえ、そういう訳にはいきません。先輩が18歳でしたら穂玖斗兄さんなんて無視して、書類を提出してしまえば解決する問題なのですが……」

「もしかしてそれ、婚姻届じゃないよね?」


 男が18歳、女が16歳なら高校生でも婚姻届を出せるという話を聞いたことがあるけど、まさかそんな訳ないよね?


「乃亜ちゃん、お金が足りないからどの道無理、だよ?」

「このダンジョンで出来る限り稼いで、先輩が既定の年齢に達したらすぐに提出できるようにしておきましょう」

「あんたら、何とんでもない計画立ててるのよ」


 冬乃は呆れているけど、もっと言ってやって。

 でないと僕の誕生日が3月6日だから、高校卒業して数日後には結婚になっちゃう!

 いくら何でも結婚が早すぎ、というか恋人通り越して夫婦なの!?


「1割冗談はさておき」


 結構本気だね。


「穂玖斗兄さんに関してはわたしに任せてください。この学校に放り込まれて距離をとれば多少はマシになるかと思ったのが間違いでした。

 まだ先輩に害をなす行動をしてませんが、不安の芽はとっとと摘むに限ります」


 一体何をする気なんだろうか?

 気にはなるけど止める気にはなれない。

 ずっと監視されるのは普通にストレスだし、それが解消されるならそれに越したことはないからね。


「それでは探索の続きをしましょうか」


 穂玖斗の対処はダンジョンから帰った後にすることで、今はせっかく占有ダンジョンに1日潜れるのだから、そちらに集中しないと。


「おーほっほっほ!」

「………」


 進行方向から謎の高笑いが聞こえてくるのは気のせいだと思いたい。

 僕はただダンジョンでレベル上げがしたいだけなのに、どうして次から次へと魔物以外の妙なものと遭遇しないといけないんだろうか?


「あれ、この声……?」


 乃亜が首を少し傾げながらも、この声の主に心当たりがある様子だった。

 いや、乃亜だけでなく冬乃や咲夜も心当たりがあるようで、3人が視線を合わせて頷いていた。


「3人とも知り合い?」

「おそらくですが、知り合いですね」

「でもこんな高笑いをする人だったかしら?」

「昨日は一度もこんな笑い方してなかったし、ね」


 3人がそのまま歩いて行ってしまうので、僕はそれに付いて行かざるを得なかった。

 どんどん高笑いの声が大きくなっていき、ついにその声の主に遭遇した。


「おーほっほっほ。あら、乃亜さん達ではありませんか。こんな所で奇遇ですわね」

「奇遇なんでしょうか? ダンジョン内で高笑いが聞こえてきて、しかもそれが知り合いの声だったので見に来た事を考えると、必然の様な気もします」

「ダンジョン内で大声を出すのはどうかと思うわよ」

「あら失礼。順調に魔物を狩ることが出来ていたので、ついつい気分が高まってしまいましたの」

「気分が高まると、高笑いする、の?」


 乃亜達の思った通り知っている人物だったようで、和やかに会話しているけど、このお嬢様言葉を使う人物は一体誰なんだろうか。


「あ、すいません先輩。こちら不川彩羽さんで、わたし達と同じ留学生なんです。昨日寮でお会いして知り合いました」

「よろしくですわ、鹿島さん」

「あれ、僕の名前……」

「昨日たっぷりと乃亜さん達からパーティーメンバーであるあなたの事をお聞きしましたから、あなたについては色々存じておりますわ」


 え、何を話したの?


「なんでもガチャに目がなくて、金を無駄に浪費してしまうのだとか」

「ガチャは金の無駄遣いじゃない!!」

「重症ですわね」


 お金は使うもの。そしてガチャは回すもの。

 何も間違ってないじゃないか。


「なんて澄んだ瞳。[無課金]のデメリットスキルが無かったら、お金をあるだけ使ってますわね」

「ガチャが関わってなければ先輩はまともですから。仮に[無課金]のデメリットが無くなっても、お小遣いの範疇でなら好きに使っていただいて構わないです」

「こちらはこちらで、既に結婚後の生活まで考えているのに驚きですわ」


 それに関しては僕もビックリです。

 ……ただそれよりもビックリしてる光景があるけど。


「1つ聞いてもいい?」

「なんでも構いませんわよ」

「それじゃあ遠慮なく。さっきから視界に入れない様にしてたけど、いい加減に限界だからツッコませて。、何?」

「配下ですわ」

「……僕の目には首輪を着けている執事の恰好をした男達にしか見えないんだけど」


 しかも全員がサングラスをはめて直立不動の姿勢で立っており、人相がハッキリと分からないせいで若干不気味だ。


「これはわたくしのユニークスキル、[女王の号令]を効果的に使うためですわ」

「[女王の号令]?」

「そちらのスキルも色々聞かせて頂いてるので、特別にお教えしますわ。

 [女王の号令]は男性へ強制的に命令できる上、支配下に置いている男性の能力を向上させる効果がありますの」

「それだと執事服に首輪を着けてる意味がないような……?」

「関係がより密接なほど、能力の向上率が上がるんですの。首輪で奴隷、執事が従者を意味するためこの格好には意味があるんですのよ」

「サングラスは?」

「カッコよくありません?」


 そこには意味がないのかよ。

 色々盛り過ぎてて、サングラスのカッコよさよりも異質さが際立ってるよ。


 その恰好を受け入れている配下の男達もとんでもないけど、不川さんのスキルも今まで聞いたユニークスキルの中で、ある意味一番とんでもないな。

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