第33話 どうしよう?

 

 穂玖斗さんが背後に付いて来ていると気付いてから2日経ち、今日は土曜日。

 丸一日ダンジョンに潜ることが出来るため、留学生全員がワクワク気分で早起きしてダンジョンへと向かっている。


 そう。休日という自由に使える時間の多い日に、留学生はおろか冒険者学校の生徒も大半はダンジョンへと向かって、自身のレベル上げや資金稼ぎに勤しむ事だろう。


「………」


 いや、なんでいるの?!

 今日ですでに4日間穂玖斗さんが後ろで監視を続けていて、さすがにウンザリしてきたよ。


「まさか土曜日も付いて来るとは思わなかったよ」

「せっかく一日ダンジョンに潜れるのに、穂玖斗兄さんは何をしているんだか……」

「あの人とパーティー組んでいる人はどうしてるのかしら?」

「3人だけでダンジョンに潜ってる、とか?」


 害があれば排除に動くのだけど、何もせずただ見ているだけだからたちが悪い。


「声をかけようと近づいてもどこかにいなくなって、気が付いたらまた背後にいるんだから幽霊みたいだよね」

「ん、幽霊は嫌い」

「咲夜さん、幽霊苦手なの?」

「怖い」

「シンプルだけど納得な理由ね。私もあまり好きではないけど」


 何故か幽霊の話になっていったけど、それよりも乃亜が何も喋らずに俯きだしたのが少し気になった。


「どうしたの乃亜?」

「穂玖斗兄さんが本当にすいません……」

「いや乃亜が謝る事じゃないよ」

「いえ、いつまでも背後を気にしていてはダンジョン探索に支障が出ます」


 そう言って何故か乃亜は手に持っていた大楯を構えだした。


「だから……、いい加減にして穂玖斗兄さん!」

「ぬあっ!?」


 勢いよく投げつけられた大楯は穂玖斗さんへと高速で向かっていったけど、穂玖斗さんは何とか身を反らして大楯を躱していた。


「おっ、おう乃亜。偶然だな、こんな所で」

「何が偶然だよ。毎日毎日学校ダンジョン問わず先輩の監視をして、何がしたいの!」

「な、気づいていたのか……!」


 え、気づかれていないと思ってたんですか?


「バレちまったら仕方がねえ。俺はそいつが乃亜を託すに足る男か、見定めるために監視していたんだ」

「いい迷惑だよ」


 乃亜がため息を吐きながらそう言い捨てたけど、穂玖斗さんは聞いていないのか僕を指さしてきた。


「お前は乃亜がいるにも関わらず、他の女とイチャイチャしていやがったな!」


 ああ。エッチなハプニングのことだよね。

 乃亜のスキル[ゲームシステム・エロゲ]のせいか、普段通ってる方の学校でも乃亜と咲夜とは胸を揉んでしまったり、お尻に敷かれたりというのは割と日常茶飯事だった。

 それに加えて最近は冬乃にまでその影響が被っており、その結果――


「え、嘘!?」

「危ない冬乃!」


 冬乃が何もないところで滑って後ろに倒れそうになったので、偶々後ろにいた僕が支えようとした。

 が、何故か冬乃を受け止めた瞬間僕の足まで滑ってしまい、一緒に後ろに倒れる事になった。


「あいたたた。ごめんなさい蒼汰。だいじょう――きゃっ!?」

「痛っ、って、うえええ!?」


 倒れてきた冬乃を支えようとしていた腕が、何故か冬乃を背後からハグするように抱きしめていた。

 問題は手のひらの位置で、右手が冬乃の小ぶりな胸を掴んでいるかのように触れていた。


「ご、ごめん!」

「べ、別にいいわよ。事故、だもの……」


 冬乃が少し顔を赤くして胸を隠す様に腕を組み、狐耳と尻尾はピンっと立っている姿は可愛いと思った。


「あいつ、乃亜がいながら……!」


 しかしその思いは、背後から聞こえてくる穂玖斗さんの声で一瞬で霧散したわけだけど。


 こんな感じのハプニングが咲夜とも当然あったので、それらをほぼ全て穂玖斗さんは見ており、兄としては他の女とイチャついている不純な奴に見えただろう。

 乃亜ともハプニングはあったけど、キスしているところまで見られているので今更ではあるかもしれない。


「俺は乃亜を一番に大切にしないやつを彼氏だなんて認めねえ!」

「まだ彼氏じゃないんですけど」

「キスまでしておいて彼氏じゃないとはどういう事だコラッ!!」


 それに関しては乃亜達には大変申し訳なく思ってるけど、そういう話は出来ればスキルの問題が解決してからの方がお互いいいと思う。

 乃亜は今はあまり困ってないし、ダンジョンとか命に関わりそうなタイミングでは[ゲームシステム・エロゲ]のラッキースケベは発動しないけど、日常生活で転んだりするのも普通に危険なので、それが改善される方がいいに決まってる。

 僕のスキルだって自由に課金できるようになりたいので、このデメリットが消えてからキチンと向き合いたいと思っている。


 まあキスやらエロいことしてる事を考えると、スキルの問題を解決してからとか言ってる場合じゃないような気もしてくるけど。


「先輩が冬乃先輩と咲夜先輩の2人とイチャイチャしていても全然構わないよ。そもそもわたしはハーレムを作りたいって言ってるのに、なんでその邪魔をするような事言うの!」

「止めておけ乃亜。お前はうちがハーレムで昔嫌な思いをしたんだろうが。なのになんでお前はハーレムを作ろうとするんだ!」


 ハーレムを作りたいという意見と、ハーレムなんて止めろという意見。

 これ言うの男女が逆なんじゃないだろうか?


「穂玖斗兄さんの分からず屋!」

「分からず屋なのは乃亜の方だろうが!」


 お互い怒声を上げ、乃亜なんか持ってる大楯で攻撃し始めるほどのガチ喧嘩に発展してしまった。

 どうしよう?

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