第25話 頭でも打った?


 大樹、穂玖斗さん、渋々そうにこちらに戻ってくるこのみさんがミノタウロスから大分離れたので、僕は[チーム編成]で3人の登録を解除。


 3人は少しふらついて、こちらに戻ってくるスピードが遅くなったけど体に支障はなさそうだから問題ないだろう。


「それじゃあ3人とも、今から登録するから準備を」

「「「了解」」」


 冬乃と咲夜が大きな布で乃亜を覆い隠しているのを横目に、素早く3人の登録を終わらせる。

 いつも通り武器の設定を終わらせた後、僕は乃亜が布で覆われているところに近づくと、布の中に手を突っ込んで衣装の登録を開始。


 布の中で淡い光が漏れているので、服がスキルのスマホに保管されているんだろう。


 コスチュームチェンジの場合は魔法少女の変身シーンのごとく全身を謎の光で包まれるから、服の登録を行わなくても全裸にならないので問題ないんだけど、残念ながらメイド服とチャイナ服の2着しかないんだよね。


 そうなると誰か1人は今着ている服で戦わなければいけない。

 では誰がそれで戦うかを考えた時、臨機応変に戦ってる時でもメイド服やチャイナ服を着替えれるようにするのがいいだろうと結論に至ったので、全員分の登録を行う事になった。


 問題はこの光景を穂玖斗さんがどう見ているかである。


 なんせ乃亜を覆い隠している布に手を突っ込んでいる僕。

 はた目から見るとどう見られているかが非常に不安である。


 とりあえず穂玖斗さんが戻ってくる前に冬乃や咲夜の衣装登録も終わらせると、すぐさまミノタウロスへと向かった。


「乃亜を頼むぞ」

「え? あ、はい」


 穂玖斗さんからすれ違いざまそんな事を言われたのだから、返事に詰まってしまった。

 まさかそんな事言われるとは思わなかったから、凄い意外だったな。


「穂玖斗兄さんがあんな事を言うなんて……頭でも打ったんですかね?」

「暗におかしくなったって言ってる事に気付いて!?」

「いや、だって……、穂玖斗兄さんですよ?」

「これ以上ない説得力のあるセリフだ」


 確かに穂玖斗さんなら自分が乃亜を守るくらい言いそうなものなのに、頼むって言うだなんて……。うん、頭でも打ったのかな?


「さすがにこの状況で駄々をこねてる場合じゃないって分かってるんじゃないの? それよりも私達は目の前の敵に集中しましょ」


 確かに冬乃の言う通り、今はミノタウロスに集中しないと。

 僕は少し近づいたところで足を止める。


 穂玖斗さん達を支援していた時のように、あの位置から支援をしていればいいのかもしれないけど、武器の入れ替えなどを行うならある程度近くで見ないと。

 それでも50メートル以上は離れた位置にいるし、穂玖斗さん達の方が近くにいるので仮にミノタウロスが全部無視して僕に向かって来ても、穂玖斗さん達のカバーの方が早いので問題ないはず。


「それじゃあ乃亜にメイド服、咲夜にチャイナ服を着せるね」

「「はい」」

「ええ、それでいいわ。乃亜さんは正面から大楯で攻撃を受け止めるし、咲夜さんも近距離で攻撃を仕掛けるのだもの。

 私は城壁のところで遠距離から攻撃するから必要ないわ」


 メイド服は全能力10%向上、チャイナ服は脚力20%向上するから、乃亜は防御力を上げ、咲夜は敏捷性を上げた方がいいという判断からだ。

 冬乃は身体能力は獣人となってるお陰で高いけど、基本的には中遠距離で攻撃するスキルばかりだ。

 メイド服で攻撃力を上げるのも手だけど、ここは安全第一で乃亜の防御を上げる事になった。


「行ってくるね、蒼汰君」

「蒼汰はあまり前に来過ぎないでよね」

「いざとなったら、穂玖斗兄さん達がいるところまで急いで戻ってください」

「了解。3人も気を付けてね。何かして欲しい事があったら、すぐに言って」

「では先輩、キスをお願いします」

「……自分で自分の首を絞めてしまった」

「この状況で誰もこっちは見てないわよ。わ、私は先に行くからとっとと済ませなさい!」


 冬乃は素早く城壁の方へと走り去ってしまった。


「冬乃ちゃんもしていけばいいのに……」

「ですね~。まあ無理にすることではないですから」


 そう言って咲夜と乃亜は僕にキスをしてきたけれど、人前でキスをするのは勇気がいると思うし、2人はもっと気にした方がいいよ。


 [強性増幅ver.2]でさらに強化された2人にコスチュームチェンジを施して着替えさせると、2人は意気揚々とミノタウロスへと向かって行き、既に戦っている人達と合流してミノタウロスへと攻撃を仕掛けていく。


『ブモオーー!!』


 しかしミノタウロスは短剣の効果がない状態では、皮膚が頑丈すぎて攻撃がほとんど効いていない様子だ。


『やっぱり短剣を使うしかないね。頭か口辺りに短剣を刺せればいいんだけど、届きそう?』

『わたしじゃ無理ですね。大楯を重いとは感じませんけど、片手でこれを持った状態で短剣を投げても狙い通りの位置に当たるかどうかは……』

『咲夜は頑張れば、行ける』

『私は城壁の上からなら当てられるとは思うけど頭上に当たるでしょうから、下で戦ってる人はそんな場所に攻撃出来ないわね』


 僕は〔絆の指輪〕を使って3人へと尋ねるけど、予想通りの答えが返ってきた。


『2本以内でミノタウロスを追いつめて回復が出来なくなるまで続けるか、それとも一気に倒しきるかだけど……』


 短剣が11本で、ミノタウロスの残りの回復回数がおそらく7回。

 それなら2本ずつ使用しても、回復できなくなったところで総攻撃を仕掛けるのも手だけど、どうしたものか。


『今回は2本だけ使用しましょう。狙う箇所は足よ』

『倒さない、の?』

『ようは回復させなければいいんじゃない? “取り込まれた生贄”を召喚した時に、ミノタウロスが食べれない様に妨害すればいいのよ』


 その冬乃の意見に全員が賛同し、行動を開始する。

 一番目立ち、城壁から全体を俯瞰することが出来る冬乃にB隊の指揮を任されているので、冬乃は戦っていた他のみんなにそのように指示すると、全員がそれに従って動き始めた。

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