第24話 再び食われる者

 

≪蒼汰SIDE≫


 あの異常なまでに頑丈なミノタウロスは、あの短剣が刺さった箇所にだけ攻撃が通じるようになるのか。


「よし、持ってる短剣残り5本全てこいつに投げつけろ! ケイ、お前が持つ2本は足を狙え。機動力を削ぐ!」

「了解よん」

「全ての短剣をぶち当てた後は、全員で模様の浮かんでる箇所を攻撃しまくるぞ!」


 穂玖斗さんの指示で短剣はミノタウロスに投げつけられ突き刺さった結果、攻撃の効く箇所がかなり広がっていて、胴体の大半部分はどこを攻撃してもダメージを与えられる様になっている。


「ミノタウロスの体が模様だらけになっていますね。おそらくまだ8体ほど“取り込まれた生贄”がいたと思いますが、これなら20体も探して倒す必要もなかったかもしれません」


 確かに乃亜の言う通りだ。


 短剣1本では攻撃できる範囲はかなり小さく遠くからでは視認できなかったけど、何本か似たような箇所に突き刺さったら、ここからでも模様が視認できるほど大きくなった。

 同じ個所に刺さると何倍にも模様が大きくなるなら、おそらく28本全て突き刺したら全身に攻撃が効くようになったんだろう。


 そう考えるとこの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】は、体力や気力が無くならない内に“取り込まれた生贄”を適度に狩って、本体のミノタウロスに挑むかの勝負だったんじゃないだろうか?


 そう思った時だった。


「なっ、模様が!?」


 模様のある箇所から蒸気のような煙が立ち上ると、ドンドンその箇所の模様が薄くなっていった。


「時間経過で効果がなくなるタイプの武器なんですか?!」

「1回退いて、残り8体を狩ってくるしかないかしら……」

「逃げるなら、あの牛さんどうにかしないと、ね」


 乃亜達3人がミノタウロスに浮かんでいた模様が消えていくのを見ながら、それぞれ武器と大きな布を用意し始めた。


「まだあそこにいる人達は諦めてないみたいだから、どうにもならなそうなら援護に行こう」


 ミノタウロスと戦っている人達を見ると、一気に畳み掛けようとしているのか猛攻撃をしている。


 穂玖斗さんと大樹が足を切り落とそうと集中攻撃しており、その攻撃を防ごうとするミノタウロスを和泉さんと智弘デッキさんが妨害して、攻撃を防げないようにしていた。


『ブモッ!?』

「おっし、足をぶった切ってやったぜ!」


 意外とあっさりとミノタウロスの右足は切断された。

 これなら模様が消えて攻撃が通りにくくなっても勝ち目が――


『ブモオーーーーーー!!』


 うっ、なんだ?

 急にミノタウロスから異様な圧が……。

 もしかしてさっき穂玖斗さんが使っていた、[威圧]のようなスキル?


 遠くにいるのにも関わらずこれだけの圧を感じて怯んでしまったのだから、近くで戦っていた人はよりそれを強く感じたんだろう。

 現に誰もが攻撃の手を止めて、後ろに下がっているんだから。


 しかしこの行動、ミノタウロスが畳みかけるように仕掛けられる攻撃から一旦身を守る為の苦し紛れに行った、という訳ではなかった。


 ミノタウロスの近くに魔法陣が1つ浮かび上がり、そこから一回り小さいミノタウロス、“取り込まれた生贄”が現れた。


「仲間を呼んだのかしら?」


 隣にいる冬乃の予想は外れだとすぐに分かった。


『ブモッ、ブモオーーーーーー!?』

「なっ、こいつ何してやがる!?」


 大樹達が驚いているのを無視して、ミノタウロスは“取り込まれた生贄”が泣き叫ぼうと関係なく生きたまま食っていく。

 “取り込まれた生贄”が手をこちらに向けて、あたかも助けを求める様な悲しげな眼をしながら絶命して消えてしまった。


「おいおい、嘘……だろ?」


 そうして残されたのは1本の短剣と、模様がまだ薄っすらと残っているけれどしてしまったミノタウロスがその場に残っていた。


 穂玖斗さんが思わず嘘だと言いたい気持ちもよく分かる。


 A隊とB隊で短剣は半分ずつ分けて持っていたので、先ほどの攻撃でA隊の持っていた短剣は全て使ったため、落ちているのと合わせて11本。

 たったそれだけで、あと7回回復できるであろうミノタウロスと戦わなければいけないんだから。


 模様はほぼ消えかかっており、誰もがマズイと思った時だった。


『[推しからの命令]〝みんな元気出して!〟』


 矢沢さんのスキルを併用したエールによって、心の奥底から不思議とやる気というか活力が湧きだしてくるのを感じた。

 こんな士気を上げるためだけのバフもあるのか。

 いや“命令”だから本来の使い道とは違うのかもしれないけど、士気が下がりかかってたからナイスな使い方だ。


『短剣はそこに落ちているのを合わせても、11本ある! それに頭を吹き飛ばせば“取り込まれた生贄”を食べられないんだから、勝ち目は十分あるはずだよ!』


 スピーカーから響くその声は先ほどのエールと合わさって、士気を十分上げる事が出来たようで、A隊はミノタウロス相手に再び威勢よく攻撃を仕掛けていた。

 そして模様が完全に消えてしまった時、矢沢さんから再び全体へと指示が飛ぶ。


『それじゃあA隊とB隊戦うの交代して。

 次の曲行くよ! [走れ走れ走れ!]』


「よし。それじゃあ一旦下がるぞ。[渾身の一撃]!」

『ブモッ!』


 ミノタウロスは穂玖斗さんの攻撃のせいでたたらを踏み、省吾城壁さんの展開している城壁に背中をぶつけたタイミングでA隊がこちらに戻ってきた。

 それに合わせてB隊は僕ら以外の人は全員ミノタウロスへと向かって行く。


 僕らは準備があるので、まだいけないんだよ。

 さて、穂玖斗さんに殴られなくて済むといいけど……。

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