第4話 情報操作

 

 会議という名の通達が終わり、最後に軍の人からは冒険者の参加は各自の判断に任せると言われた。


 さすがに連日の迷宮氾濫デスパレードの対処に加え、【ドッペルゲンガー】の【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】とつい昨日戦ったばかりなのに、また【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と戦うのは相当な負担であるからだ。


 そう考えるとあの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と戦おうという冒険者は少ないかもしれない。

 多くの人は捕らえられるだけで済んだけど、今度こそ死ぬかもしれないしね。

 今回死者蘇生ができる矢沢さんは参戦しないし。


 矢沢さんの[役者はここに集うオールスター緞帳よ上がれカーテンコール]はあのカプセルトイの中に行かないと効果が発揮できない可能性が高いため、そんな危険な場所に希少な能力持ちを連れて行けないということから不参加が決定している。

 もっとも48時間のインターバルがまだ経っていないのもその理由だけど。


 う~ん、被害がスマホだけで無理しなくてもいいと思われてるなら、あまり積極的に参加しようという人は少ないのかもしれないなぁ。

 そうなると僕が助かるのはいつになるやら……。


「……蒼汰は必ず助ける。安心して」

「オルガ先輩の言う通りです。先輩をすぐに救ってみせます!」

「そうよ。だから蒼汰はドンと構えて待っていなさい」

「蒼汰君は咲夜達が迎えに行く、よ」

『パパもママもご主人さまと一緒にいるんですから、助けに行くのは当たり前なのです』


 心を読んだオルガが僕の頭を撫でながらそう言ってきたのを聞き、乃亜達も僕がどう思っているのか察して元気づけるように声をかけてくれた。


「ま、さすがにここで見捨てたりはしないよ」

「そうだな。代わりに救出した暁には私のレベル上げを手伝って欲しいが」

「あ、ワタシもお願いしようかな」


 ソフィアさんとオリヴィアさんもあんな目に遭ったけど助けに来てくれるようだ。

 レベル上げの手伝い程度で助けてくれるならこの際構わないよ。


 そんな訳で乃亜達全員が僕を助けに来てくれることになり、時間になったので集合場所に全員で向かうと、意外な事に大勢の冒険者が集まっていた。


『意外と大勢人が集まってるね。【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】と戦う事になるのに』

「そりゃそうじゃない? 今回の【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の危険度がそこまで高くなさそうって言ってたし、【ドッペルゲンガー】の【典正装備】を取り逃した人にとってはチャンスだと思ってるんだよ」


 ソフィアさんがそう言いながら周囲の気合の入っている冒険者達を見渡していた。


 危険度が低いという情報は、昨日あの【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】を解析したという人物からもたらされている。


 それが本当かどうか普通なら疑うんだろうけど、あのカプセルトイから出て来る【Sくん】が命に関わるような危害を加えたりしないので、その情報は信憑性があると思っているのだろう。


『まあ確かにあんなのが出て来る程度なら、何とかなりそうな気はするかな』


 自分で言うのもなんだけど、冒険者でもない女性が倒せる程度の攻撃力も耐久力もない存在を生み出すだけだからね。


「油断は禁物だと思うわよ。蒼汰の気持ちは分からなくもないけど」


 そう言って冬乃が心なしか少し強く僕を抱きしめる。


 今は冬乃が僕を抱えており、移動時に順番に交代することになってるけどこれは恥ずかしい。

 赤ちゃんの時ならともかく、自分で歩いて行動できるのにわざわざ女の子に抱えられるし、色々当たっているんだから当たり前だ。


 この状況から脱出したい衝動にかられ、思わず身体をよじらせてしまう。


「あ、蒼汰。【Sくん】のフリをしていないといけないんだから、大人しくしてなさいよ」

「そうですよ先輩。他の人にバレたら危険ですから大人しくしていてくださいね」

『ううっ。仕方ないか……』


 しばらく待つと時間になったため、今も【Sくん】を吐き出し続けるカプセルトイに向かって、他の冒険者や軍人の人達と共に向かう事になった。



≪桜SIDE≫


 大勢の冒険者や軍人がカプセルトイへと向かって行くのを、私はため息を吐きながら見送るしかなかった。


「はぁ……。【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】の危険度がそこまで高くないだなんて嘘言って良かったのさ?」

「いやいや。あくまで高くだと報告しただけで確信を持って言ったわけじゃないよ」


 いけしゃあしゃあと彰人が言うから呆れてモノが言えなかった。

 彰人が鹿島を救うためだけに、何百人もの冒険者に【魔女が紡ぐ物語クレイジーテラー】に挑ませられるように仕向けたくせに。


「やだな。そんなジト目で見ないでよ。それに丸っきり嘘ってわけでもないんだよ」

「そうなのさね?」

「そうだよ。調いきなり殺されるような危険性は皆無だったのは間違いないし」


 それはどこまで解析できたかで危険度が大幅に変わってくるじゃないか。


「もしかしたら大勢死ぬんじゃないさ?」

「かもしれないけど、逆に全員生き残るかもしれないね」


 たった1人の人間を救うために、平気でその他大勢の人間の命をベットするとかとんでもないさね。

 もっとも、その行動を非難することは出来ないけど。


「【Sくん】が今のところスマホだけに執着する存在で落ち着いてるけど、それがいつ豹変するか分からない以上、早めにこの事態を終息させるのが一番だから文句は言えないさー」


 どの道彰人が仮に危険度の高さを訴えたところで、中国とロシアは国の威信にかけて冒険者や軍人をあそこに送り出すためにその情報を握りつぶすだろうから、結果は変わらないからね。

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