第23話 楽しい時間はあっという間

 

 順調に殲滅が進み、乃亜と咲夜が横から来るスケルトン達を相手にしながら、足元に落ちている魔石を拾える程度に余裕があった。


『結構魔石拾えたんじゃない?』

『先ほど戦っていた方達が倒したであろう魔石は拾ってませんけど、冬乃先輩が吹き飛ばさなかった分の魔石はほとんど拾いましたよ』

『しょうがないじゃない……。〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕に蓄積してある炎を小出しに射出するなんて芸当出来ないんだもの』

『……別に魔石が拾えなくても、気にしない、よ?』

『拾わないとダメよ咲夜さん! 拾えば拾っただけ懐が潤うもの!』

『そ、そう?』


 冬乃が〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕を使いながら顔を咲夜の方に向け強く強調していた。

 その剣幕に咲夜はたじろぎながらも頷いているけど、別に無理するくらいなら魔石を拾う必要はないよ。

 優先順位は命が一番なのは当たり前なんだから。


 どれだけ戦ったか分からないけど、正直僕と冬乃は棒立ちで全然疲れていない。

 乃亜と咲夜も最初の時に〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕が撃てるよう空間を開けるためにスケルトン達を倒した時以外、激しい動きはしていない。

 横から来るスケルトン達は撃ち漏らしたのが少数向かってくるだけなので、軽く大楯や拳で攻撃するだけで済むので全然疲れていないように見える。


 ――ピィー


『まだまだ戦っていられそうだけど、交代の時間みたいだ』

『え、もうそんな時間?』


 冬乃が首を傾げているけど、楽しい時間はあっという間とはよく言ったもので、冬乃にとってはまだそんなに時間が経った感覚がないのかもしれない。

 いや、気持ちは分からなくもないよ。

 大樹や彰人に連れられて、ゾンビを倒すシューティングゲームをやった時は1プレイがすぐに終わったような感覚だったし。


 ……でも、〔籠の中に囚われし焔ブレイズバスケット〕を撃ちまくるのに快感を覚えないで欲しいとはチョットだけ思うけど。

 スマホの操作で同じことの繰り返しは地味に疲れたし。

 ガチャを回す作業に慣れている僕じゃなかったら、きっと何度か再召喚の操作をミスってるよ。

 もちろん僕は余裕でこなせる作業だったけど。


「うおっ、近くで見るとすげえな!」

「スケルトン共が入口から随分離れたとこまでいないじゃねえか……」

「やるな、嬢ちゃん達!」


 おっ、交代する人達が来たようだ。


『みんな、戻ろうか』

『『『了解』』』


 僕らはすぐさま入口へと駆けていく。


「それじゃあよろしくお願いしますね」

「お、おう。あっ、お前ら、魔石拾わなくていいのか!?」

「大丈夫です、自分達が倒した分は拾ってますので。もし良かったら次交代した時、あなた方が倒した分の魔石を拾ってお渡ししましょうか?」


 正直、拾えるけどどうしようかと思ってたんだよ。


「普通は拾う余裕なんてそうそうないんだがな……。じゃあ俺達が倒した分の魔石は半分だけ渡してくれ。残りは拾ってくれた礼ってことで取っといてくれ」

「分かりました。それじゃあ頑張ってください」

「おうよ。……今年の“迷宮氾濫デスパレード”は交代が楽だな」


 確かに入れ替わってすぐにスケルトン達と相対するのと、向こうが向かってくるまで待つのとでは後者の方が楽だろうね。

 まあ僕らは入れ替わるのは大変だけど、戦闘が安定した後はバリケードのお陰で一度に相対するスケルトン達の数は少なくて済むし魔石も半分貰えるので構わないけど。


 1時間近く目の前のスケルトン達を倒し続けないといけないのは肉体的にも精神的にも大変だろうし、偶々手に入れた【典正てんせい装備】のお陰もあるので、もっと頑張って倒してとはとでもじゃないが言えないよね。


 僕らがバリケードの内側へと戻ると、隊員の人が近づいて来た。


「お疲れさまでした。凄かったですが、体力などは大丈夫でしょうか?」


 1時間ごとに交代とは言え、これからまだまだ戦う事になるのにあんなに張り切って大丈夫なのかと言う事だろう。


「大丈夫です。この程度であれば全然平気なので」


 なんせとある夏の時はひたすら課金とガチャを繰り返し、指を酷使していたからね……うっ、頭が!?

 うん、今は忘れよう。


「そうですか。それではまた1時間後に交代となりますが不測の事態があるかもしれませんので、出来る限りこの近くで休息をお願いします」

「了解しました」


 僕らは一先ず水分を摂ろうと、軍の人が用意したであろうスポーツドリンクなどの飲み物が置いてある机へと向かった。

 机の傍にはパイプ椅子も置いてあったので、それに座って一息つく。


「ふぅ~、思ったよりも何とかなりそうだったね」


 僕は紙コップにスポーツドリンクを入れながら3人に声をかけた。


「そうですね。始めは大変かもしれないと思いましたが、魔石を拾う余裕も出来るほどでしたし、結構な稼ぎにもなりそうです」

「そう、それよ! 3人とも魔石はどのくらい拾えたのかしら!?」


 冬乃が食いつくように魔石の話にとびつき、僕らに迫って問いただし始めた。


「僕はあまり拾えてないかな。最初僕のところに来た数体のスケルトンの魔石を拾った後は乃亜と咲夜の戦闘の邪魔にならないように、冬乃の近くでスキルを使ってたし」

「わたしは100個くらいですかね?」

「咲夜も同じくらいかな?」


 乃亜は大楯を持つから僕の持っていた〔マジックポーチ〕を渡していたけど、咲夜は背負ったカバンに入れていたはずなのに、戦闘中よく邪魔にならないと思うよ。


「いい感じに稼いでいるじゃない。蒼汰、あんたは今度はあの人達が拾い損ねた魔石を回収しながらスマホの操作をしなさい!」


 装備の解除をした後もう一度装備し直すのって、他の事しながらだとタップミスしそうなんだけど、まあ慣れてるから大丈夫か。

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