第40話 もう1人の金の紋章持ち

 

≪亮SIDE≫


『グルアアアアァ!』

「〔柳は幽霊の住処ウィローリビングゴースト〕!」


 俺は縦横無尽に動く【白虎】相手に相手を拘束する【典正装備】を使っていく。


 勇者の証である金の紋章で【四天王】相手に有利になり、遠くから聞こえてくる歌声のバフでさらに強化されているはずなのに、【織田信長】の時に戦った斎藤道三や上杉謙信の時よりもキツイ戦いだと感じる。


 もっとも先ほどまで2体の【四天王】と同時に戦っていた時は防戦一方で、こちらの戦力がいたずらに消えていくだけだった時に比べればマシだ。

 最悪生き返れること前提に、死を覚悟して1体だけでも相打ち狙いで〔未来永劫フォーエバー満たされぬ餌袋ハングリー〕の〔典外回状〕を使おうとすら思っていたほど、俺達は追いつめられていた。


 ところが突然【青龍】がいなくなったことで状況は一変した。

 先ほどまでまるで勝ち目がなかったことに比べれば、1体相手であればを考えなければなんとかいけるかもしれない。


 何故【青龍】が突然消えたのかは分からないが、おそらく誰かが何かして移動させたか隔離しているのだと思う。


 先ほどまで戦っていてこいつらの様子を見ていた限り、まるで理性の無い獣だった。

 目の前の敵を倒すために動いていたのに、わざわざ自分から他の場所に移動するような知能はなさそうだったから間違いないだろう。


「誰だが知らないがよくやってくれた!」


 〔柳は幽霊の住処ウィローリビングゴースト〕に捕まり、動きを止めた【白虎】に向かって行く。


「[瞬間ブースト][斬撃強化][ダメージ貫通][一閃]!」

『グギャアアアア!?』


 刀で【白虎】の脚を斬るとその痛みに悲鳴を上げていた。


「ちっ、切断までは出来ないか」


 出来れば動けなくしたかったが、あの太い脚の三分の一も切れていなさそうだ。

 だが痛みで素早く動くのは難しく、機動力を削ぐことには成功したな。


「今がチャンスだ!」

「畳みかけるぞ!」

「脚の一本だけでも取りますよ!」


 他の冒険者も俺に追従して【白虎】でと猛攻を加えていく。

 誰もが【青龍】のいない今の内だと思っているからこそだろう。


『ガアアアアアアアアーーー!!!』


 だがそんな甘い相手ではなかった。


「なっ、これは〝風〟か!?」


 【白虎】を中心に突如として突風が吹き荒れ、近くにいた冒険者達の内何人かは真っ二つに切断されていた。


「さっきまで使って来なかったくせにいきなり使ってきおったな」

「理性を無くしてやがるくせに同士討ちはならねえようにさっきまでは使わなかった、ってか」


 同じパーティーのドワーフのはじめと坊主頭の浩が忌々し気な目で【白虎】を見ながらそう呟いていた。


「これは一筋縄ではいきそうにありませんね……」

「弱気な事言ってんじゃねえぞ聡! 【青龍】がまたいつ戻ってくるか分からねえんだから時間との勝負なんだぞ!」


 浩が槍をブンブン振り回しながら自身や周囲を鼓舞するように大声を張り上げていた。

 その声に感化され、少し引き気味だった他の冒険者の闘志が漲り始め、【白虎】の〝風〟を警戒しながら果敢に攻撃を仕掛けだした。


「やってやんぜー!」

「アイツを倒して【典正装備】を手に入れるんだ!」

「オレ達の戦いはこれからだー!」


 おい、やめろ。


 バカみたいな事言っているが、実力だけはある上に銀の紋章持ちの冒険者だったようで、【白虎】に殺されずに確実にダメージを浴びせ続けていた。


 だが相手は【四天王】だけあり、そう甘い相手じゃなかった。


『グルアアアアァ!!!』


 どれだけ冒険者に群がられようと、広範囲に攻撃と防御を可能にする〝風〟を【白虎】は創り出す。

 その〝風〟は【白虎】の周囲をまるで台風のように囲んで近接攻撃から身を守る盾にし、それで攻撃を受けるとカウンターの様に反撃していた。

 あれでは〝風〟の内側に入れない限り、攻撃が効かないな。


「自動反撃の〝風〟とは厄介な」

「今のでまた何人も死によったな。このままではマズイぞ」


 はじめにそんな事言われなくても、どんどん数が減っていく冒険者達を見ればこの状況がヤバイのは一目瞭然だ。

 やはりやるしかないな。


「まさかを使う機会がこんなにも早く訪れるとは思わなかったな」

「むっ? 【織田信長】の時に手に入れよった【典正装備】か」

「ああ。使う機会なんてほぼ無いと思ってたんだがな」


 使用条件が厳しくて使えない代物であり、下手すれば一生使わないことすら有り得た【典正装備】だ。

 しかし条件が整っている今が使うチャンス!


「いくぞ。〔俺は屍をメイク デス越えていく ミーニング〕」


 俺は小さい髑髏が複数連なって作られた悪趣味なブレスレットを左手首に身に着け、その効果を使用する。


「はあっ!」

『グルアッ!?』


 俺が〝風〟の盾を突破して攻撃してきたことに驚いたのか、【白虎】は有り得ないと言わんばかりの声を漏らしていた。


 だが何のことはない。

 俺はただ【白虎】の〝風〟の盾の防御力以上の攻撃をしてそれを切り裂き、〝風〟の盾の内側に侵入して【白虎】を斬っただけだ。


 それを可能にしたのが〔俺は屍をメイク デス越えていく ミーニング〕。

 効果は単純で身体能力の強化だ。

 しかしその強化される割合は自身の近くで味方が死んだ数に比例して強化するという、かなり使い勝手の悪い代物だった。


「しかも自分と親しい人間であればあるほど強化されるとか、呪いの装備じゃねえか」


 これが敵味方関係なく生き物が自分の周囲で死んだら強化されるのであれば、まだ使う機会はあっただろうに。

 これ、明らかに斎藤道三が元になった【典正装備】だな。


 初めて使ったが思ったより強化率が悪く、3倍程度の強化なのも微妙だ。

 まあ死んだのが味方ではあるものの親交のない奴らだったから仕方のないことかもしれないが。


「いや文句を言ってもしょうがねえ。こうなったら一気に畳みかけるか。

 この身を喰らえ。〔未来永劫フォーエバー満たされぬ餌袋ハングリー飢餓自食オートファジー〕」


 〝風〟の内側に入れたこの機会を逃す訳にはいかない!


 使えば最後、数日はまともに動けなくなってしまう切り札を俺は躊躇なく使った。

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