第39話 [恋い慕うあなたを囲う]

 

 乃亜の最終派生スキル[恋い慕うあなたを囲うハーレムエンド]によって創り出された空間へと移動した僕らはキチンと服を着ていた。


 ここで服を着ているなら、なんで発動前に服が消えるのか疑問でしかないよ……。


『ガアアア!!』


 おっと。脱力している暇なんてなかった。

【青龍】がこっちを認識し敵意を向けて咆哮を上げているのに、ぼんやりしていたら攻撃されてしまう。


 [恋い慕うあなたを囲うハーレムエンド]の効果時間はがやられたら強制解除されてしまうのだから気を付けないと。

 ……なんで乃亜のスキルなのに僕が中心になってるんだろ?


「みんな、[恋い慕うあなたを囲うハーレムエンド]のお陰で敵の動きは鈍くなってるから、冬乃以外は正面から、冬乃は建物を利用して遠距離から攻撃していこう!」

「「「「「了解!」」」」」


 僕はみんなに指示しつつスキルのスマホを操作して、接近戦をする乃亜、ソフィ、オルガの3人に、メイド服、チャイナ服、執事服を[チーム編成]で装備させる。

 そして先ほどスマホの中に入ったアヤメを呼び出す。


「アヤメは今〔曖昧な羽織ホロー コート〕が使えなくて近距離は危ないから、冬乃のサポートをお願い。僕はやられないよう退避してるから。[画面の向こう側]」

『任せるのです!』


 正直な話、〔太郎坊兼光ショート リヴド破解レイン〕の〔典外回状〕で〔穢れなき純白はエナジードレイン やがて漆黒に染まるレスティテューション〕共々1週間のインターバルがある以上、僕に残ってる唯一の攻撃手段と言えるものは[助っ人召喚]くらいなもの。


 まあ僕自身戦えないのなんて今更だし、いつも通り全力で援護していくだけだ。


『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』


 先ほどまで空を駆けていた【青龍】が苛立たし気に吼えているけれど、それはそうだろう。

 何せ今の【青龍】は空に浮かぶことが出来ず、地面を這っているのだから。


 乃亜の[恋い慕うあなたを囲うハーレムエンド]は最終派生スキルだけあって、ただ敵を自分達のフィールドへと引きずり込むだけの能力ではない。

 その能力の真骨頂は味方への強力なバフと敵への強力なデバフだ。


「裸で抱き着いたから[強性増幅ver.2]で強化されたのも合わさって体が軽いです!」

「それ言わないでくれないかしら!?」

「冬乃ちゃんはもうちょっと慣れた方がいいと思う、よ?」

「この感覚は慣れたらいけないものよ!」

「ソウタと付き合ってたらいずれ慣れるよ。もういっそのこと抱いてもらえばいいんじゃないかな?」

「ソフィはもう少し慎みを持ちなさい!」


 乃亜がこの空間に入る前とは比べものにならないスピードで【青龍】へと肉薄していき、冬乃は乃亜の後ろを駆けていく咲夜達にツッコミを入れながら建物の屋上へと駆けあがっていく。


 この空間内でなければ建物の屋上へと向かうのに、その建物の壁を蹴って上がるなんてことは……出来そうだな。

 レベル高いし、今上ってる5階程度の建物ならやれる気がする。

 まあでも今みたいにあっさりと上れはしないはずだ。


 それを可能にしているのが[強性増幅ver.2]だけでなく、[恋い慕うあなたを囲うハーレムエンド]のバフだ。

 このスキルは自身と関係のある異性に一定の恋慕の情を抱いてる人物の戦闘力を、その想いの大きさに応じて強化するというもの。


 要するに、この場合僕の事をどれくらい好きかで戦闘力が変わるというピーキーな能力だ。

 具体的な数値は不明だけど、少なくとも本人達の感覚的に3倍は強化されているらしい。


「僕は一切強化されないけど、基本的に直接戦う事はないからいいのかな?」


 僕をどれくらい好きかで戦闘力が変わるのだから、当人が対象外なのは仕方ないよね。

 でもみんなにばかり戦わせるんじゃなくて、少しは戦う力が欲しいと思ってしまうよ。


『ア゛ア゛ア゛ッ!』


 僕が戦えないのはしょうがないとして、そんな僕にも有利になるのが敵へのデバフだ。

 【青龍】が唸りながら何度も空へと浮かぼうともがくけど、アスファルトの地面をこすったりヒビをいれるだけで浮かべていない。


「その巨体がより重くなってるんですから、浮かぶどころか移動するのも一苦労ですよ!」


 乃亜の言う通り【青龍】が空を飛べなくなっているのは体が重くなっているせいだ。

 そう。敵へのデバフは乃亜達の僕への想いに比例して敵の重さを増大させているというもの。


 これを【魔王】が現れる前の時、乃亜、冬乃、咲夜、オルガの4人の段階で、鎧タイプのミミックに使ったら地面にうつ伏せになって全く動けなくなったくらいなので、ソフィまで増えた今は相当な重さがのしかかってることだろう。


「いきます!」

『ギャアアアッ!』


 乃亜が【青龍】の胴体へと大楯を振るって打ち込み、【青龍】はその衝撃で地面をスライドしていた。

 この空間を創る前だったらあんな風に【青龍】の身体が横にずれるほどの威力は出なかっただろう。


 いや、ホント強い能力だよ。

 さすが矢沢さんと同じデメリットスキルだけあって、最終派生スキルは強力だ。

 …………あの発動方法じゃなければなぁ~。


 外で全裸になるとかそんな性癖ないから罰ゲーム、いや、それ以上に苦痛なんだよ。

 あんな解放感、知りたくなかった……!

 裸の乃亜達に抱き着かれるから周囲の目も滅茶苦茶痛いし……。

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