第3話 踊る人形

 

≪恵SIDE≫


「ううっ。あの姿を世界にさらさないといけないなんて……」

「仕方ないわよ。それだけ恵が頼りにされてるってことじゃないのん」

「嬉しくない……」


 自分は今、中国とロシアからの依頼でその二か国にある2つのSランクダンジョンからだいぶ離れた安全な場所に、ケイ達と一緒に訪れていた。


「仕方がない。会長の能力は唯一無二。その力のお陰で生き返った身としては、頼るなと言う方が無理」

「だよね~。会長に多額の報酬を払ってでも、優秀な冒険者達が死んでも復活できるよう保険を作っておくのは当然だよ~」

「死んでからでも入れる保険があるんですか?」

「それは会長でも無理だよ~」

「「あはははは」」


 人の気も知らないでこのみも鈴も談笑しないでよ。

 無理を言って着いて来てもらったのは自分だから強くは言えないけどさ。


 自分1人で海外に行くのが心細くて、ケイとこのみ、鈴に一緒に来てくれるようお願いした結果、報酬を払うということで着いて来てもらえる事になったんだ。


「んもう、このみも鈴も笑ってちゃダメでしょ。恵の応援で一緒に来たんだし、報酬だってもらうんだからキチンとサポートしなきゃ」

「そうは言うけどこんなに離れてたら魔物も来ない」

「そうだよ~。会長がどうしてもって言うから付いて来たけど、私たち来る意味あったかな~?」

「こんな場所で見ず知らずの人に護衛されてるより、みんながいてくれる方がずっと安心だから自分の精神的にはいてくれないと困るよ」


 音が届く場所なら自分のスキルの有効範囲なのだけど、今いる場所は思いの外見晴らしがよく、戦場全体が見渡せるくらい何もなかった。

 Sランクダンジョンが近くに2つあって、日本と同じように何度も迷宮氾濫デスパレードが起きている場所と考えれば、何もないのはむしろ当たり前なんだろうけど。


「いるだけでいいと言われても。

 会長がスキルを使えば危険な目に遭う事はないし、正直言って本当に何もする事がない。会長に支払われる報酬の100分の1でも貰い過ぎな気がする」

「ただ立ってるだけで3000万は確かにね~。強いて出来ることがあるとすれば、会長が寝そうになったら何とかして起こすくらいかな~?」


 今回、中国とロシアからは合計で30億払われることになっているのだけど、【魔女が紡ぐ物語織田信長】の時の報酬ですら持て余しているのに、そんな大金を渡されても困るので、自分に支払われる報酬の一部を渡すことでケイ達に着いて来てもらおうと思いついたのだ。

 均等に報酬を分けようって言ったのだけど、ケイ達に呆れられながらそれは断られたよ。

 ケイ達曰く「会長を守る機会もないのに大金だけ貰うのは居たたまれない」、だそうだ。


「何が起こるか分からない場所に付いて来てもらうんだからケイ達への報酬はもっと高くてもよかったのに。自分1人だけ大金を持つのが嫌だから押し付けたかったのに」

「最後のが本音じゃないの。恵の気持ちは分からなくもないけど、あたしは報酬なんて無くても、恵が付いて来て欲しいって望むのならどこにだって付いて行くわよん」

「ケイ……。じゃあもっと報酬もらって」

「じゃあの意味が分からないわねん。ほら、そんな事よりも早くお仕事始めないと。もう戦いは始まってるんだから」


 はぁ。これ以上の時間稼ぎは無理か。


「……やりたくないなぁ」

「諦めて」

「可愛い格好で歌うのなんて散々やってるんだから今更だよ~」


 グサッと心に刺さること言わないで欲しいな。


 自分はそう思いながら、嫌々でスキルを使用することにした。


「[アイドル・女装]派生スキル[コスチュームチェンジ]」


 [コスチュームチェンジ]によって自分の服装はもはや慣れてしまったアイドル衣装へと切り替わっていく。


「続けて[ライブステージ][マイクセット]」


 敵を寄せ付けない野外ライブのような設備が地面から生え、音響機器が目の前に現れる。

 後は歌うだけで聞いた人達にバフを、敵にはデバフを与えることができるのだけど、このままでは1000人程度にしかバフを与えられないので、ここでさらにあるモノを使用する。


 左手首の入れ墨に触れる。

 そう。これは自分達が遭遇した【魔女が紡ぐ物語ミノタウロス】を倒した時に手に入れた証であり、強力な武器である【典正装備】を持っていることを示唆しているもの。

 そして自分が手に入れたその【典正装備】の名は――


 〔28の舞台人形サポートダンサー


「〈解放パージ〉」


 入れ墨から現れた、手のひらより少し大き目なさるぼぼのような人形を自分の背後へと放り投げる。

 すると人形はみるみるうちに大きく、かつ分裂していき28体の球体関節人形へと変化した。


「それじゃあ援助お願いね」


 少年を模したのと少女を模したのが半分ずつの、人間にそっくりな綺麗な人形たちが一斉に頷き、各々持ち場へと移動していく。

 楽器を持つ者もいれば、自分のアイドル衣装を模した衣装に一瞬で着替えたりとすぐに準備は完了し、いつでもやれると言わんばかりの状態になった。


 〔28の舞台人形サポートダンサー〕は自分の[アイドル・女装]の効果を高めるというシンプルな効果であり、今まで1000人しかバフを与えられなかったのが、その何倍の人にバフを与えられるようになるのだ。

 具体的な人数は正直分からないけど、感覚的に1万人は少なくともいける気がする。


 欲を言えば戦える装備が欲しかったと思わなくもないけど、この子達を見る度に愛着が湧くのでこれはこれで良かったかな。

 ……はぁ。やるか。


「「よっ! 可愛いよ会長!!」」

『くっ! 私の歌を聞けー! というわけでいくよ1曲目。[戦え! 私の戦士たち]』


 もうこうなったらノリで歌ってやるーー!!

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